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# 冬

最後の難関⑤

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 どうやら、私が学校から帰ってくるところを、駅の前でずっと待っていたようだ。
 まだ夕方とはいえ、風邪を引くには十分なくらいの寒さなのに。
 促すように近くのカフェに入り、ホットカフェオレを二つ頼む。
 窓際に座りながら、駅前の人が流れている様子を眺めていると、岸井さんが静かに話し出した。

「こないだは、ごめんね。何もできなくて」

 こないだというのは……マンションの駐車場で、ユウキがパニックに陥った時のことを言っているらしい。
 あれについて岸井さんから謝罪を受ける必要はないと思うけど、一応を相槌を打つ。

「あんなに混乱しているユウキを見るのは、初めてだったから。何もしてあげられなくて。そのことを、ユウキとしっかり話し合ったの」

 岸井さんがユウキに対して、どういう気持ちで向き合っているか、私も気になっていた。
 ユウキが言っていたように、可哀想という哀れみの感情があるのだろうか。
 そのすり合わせをしないと、この先付き合っていくのは無理な気がする。

「結論から言うとね……別れた、私たち」

「……嘘ですよね?」

 持ち上げたカップを、危うく落としそうになった。
 結論から言うには重すぎる。
 その先の話が、頭に入っていく自信がない。
 構わず話を続ける岸井さんに、何とか意識を向けていく。

「残念だけど、本当よ。思い出すわ……私が最初にユウキと出会った時のこと」

「ダンスサークルの時ですか?」
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