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# 冬

運命のヒト⑥

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「良かった、本当に良かった。林田勇気は無事なんだね」

 戸部君が私の隣で、膝から崩れ落ちている。
 固まっていた顔つきも、解放感によって優しい表情に変わっていた。
 そんな戸部君の姿を見て、これだけ心配をかけたユウキに、大きな怒りを感じる。

「どれだけ心配かければいいのよ。本当に、あり得ない」

「ナオちゃん、林田勇気のところに行ってあげて」

 ユウキの無事が確認できると、今度は呆れて体を動かす気にはなれなかった。
 戸部君はそんな脱力中の私に、次の行動をするように促してくれる。
 だけど、気持ち良く指示には従えない。
 ここからユウキの下へ向かうなんて、戸部君を悲しませることになってしまう。

「ううん、もう大丈夫だよ! ユウキの無事も確認できたし、あとは勝手に帰ってくるって」

「大丈夫なわけないだろ。強がらなくていいから、行っておいで」

「本当に大丈夫だってば」

「ナオちゃん……」

 強がっていることが戸部君に伝わっていたとしても、応じることはしない。
 頑としてその場を動こうとしない私を見て、戸部君が諭すように話し出す。

「ナオちゃん、もういいんだ。お互いに、目を背けるのはやめにしよう」

「戸部君……」

「試験の日から、深く話をすることはなかった。二人とも目を背けていたんだよ。俺は、話し合うのが恐かった。せっかく結ばれた関係が、なくなってしまうかもしれないから」

 戸部君の抱えていた本音を、隠すことなくさらけ出そうとしている。
 それを言わさせてしまっている自分が、どうしようもなく残忍に思えた。
 何回でも謝りたくなったけど、戸部君の主張は力強くて、その言葉を聞いていることしかできない。

「でも、逃げていても始まらない。今、ちゃんと向き合うよ! 俺の願いは、ナオちゃんが前向きに生きてくれること。だから……」
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