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# 冬

運命のヒト⑨

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「ナオちゃん、手を出して」

 差し出した手を握られると、今日一番の朗らかな顔を見せる。
 戸部君の気持ちが、手から伝わってくるみたいだ。

「大丈夫……ナオちゃんの手は、こんなに温かいんだもん。早く行ってあげな」

 きっと、戸部君の気持ちが、私の言葉でブレることはない。
 それくらい強い意志を、握られている手に感じる。
 私も……ちゃんと前に進まないといけない。


「さあ、早く。ナオちゃんが行かないと、俺が帰れないだろ?」


 戸部君の真っ直ぐな目が、私の胸に刺さる。
 そして、戸部君の手の温もりが、前へ進むことを決心させた。
 私の存在は……ユウキのためにあると、そう後押ししてくれている。
 戸部君が私にしてくれたように、私もユウキに温もりを伝えなければ。
 

「戸部君……ありがとう!」


 一礼をして、ユウキの下へ走った。
 戸部君の方は振り返らずに、久しく行っていない母校へ向かって全力で駆け出す。
 手の中には、戸部君から貰った温もりがしっかりと握られている。
 もう絶対に、迷わない。
 プロのリフレクソロジストになった私で、ユウキと向き合える。
 一年前に決意した想いを、今日ぶつけてやろうと思う。
 
 軽やかな体と、清らかな想いが、風に乗って私を早く進ませる。
 ユウキのことを一人にはしない。
 今すぐに、この温もりを伝えるんだ……。


「ユウキ!!」


 廃校になっている薄暗い校舎の中には、割と簡単に忍び込めた。
 真っ先に体育館へ入ると、窓から差し込まれる月の光に照らされた、ユウキがそこに居た。

「ナオ……よく体育館だってわかったね」

「わかるわよ。学校の中で一番好きな場所でしょ」

 実際にユウキを目の前にすると、さっきまでの怒りが静かに消えていった。
 感情的になることを控えて、丁寧にユウキの気持ちを引き出すことにする。

「ユウキ、どうしてこんな心配かけるようなことするの?」

「……ごめん」
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