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# 冬

運命のヒト⑫

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「ナオ……」

 感極まっているユウキは、自らの袖で涙を拭う。
 一滴、また一滴と流れてくる涙は、すぐに止まるものではなかった。

「ユウキ、泣かせちゃってごめんね」

「違うんだ。俺、この前自分勝手に想いをぶつけて、もしかしたら嫌われちゃったかもしれないって思って。そう思ったら、この世界から取り残された気がしてさ。昨日の夜から寝れなくなっちゃって、こんなところまで来てしまった」

 涙で熱くなった目を手で覆いながら、表情を崩して言葉にする。
 その姿に、私の感情も涙となって飛び出してきた。


「ユウキは一人じゃないよ! ずっと、ずっと私が居るから!」


 心の底からの愛を言葉にすると、ユウキが顔を上げた。
 涙目になったユウキと目が合うと、引き寄せられるように、顔を近づける。
 ユウキが目を閉じたのを確認して、私も目を瞑った。
 唇が触れると、しばらく離すことができないでいた……。


「ナオ、続きやってくれよ」


 足裏への刺激を促されると、今度は逆足の施術へ移ることにした。
 同じように靴下を脱がし、その冷たい足に指圧を加える。

「お母さんに、怒られるよなぁ」

「当たり前でしょ、夜中に一人で出て行くなんて、心配するに決まってるじゃない」

「この歳になって、まだ怒られるのか、俺は」

「親からしたら、いつまで経っても子供だからね」

 本来は誰も立ち入れないこの空間の中で、リフレクソロジーを施している。
 そんな異様な状況を、私たちは気にしなかった。
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