34 / 91
2章 倦怠期の夫婦 ~ロコモコ丼~
18
しおりを挟む
「美味しそうな……ハンバーグですね」
ひん曲がった形のハンバーグが送られてきた。ひろ美は小刻みに震えるように笑って、声が出なくなっている。
綺麗に成型しておいたはずなのに、焼く工程の中で醜くなったみたいだ。
メッセージは『ごめん。今日は結婚記念日だったよな。早く帰ってきてくれ』という文に、土下座の絵文字が何個も付け足されていた内容だった。
笑いが止まらなくなって、ひっそりと涙を流す。すぐに指で目尻の水分を拭いた。サオにはギリギリ気づかれないで済む。
ただ面白くて泣いたわけではない。晴彦がひろ美を求めてくれたことに、少なからずの感動を覚えたのだ。
「ありがとうございます。これからもたくさん喧嘩するだろうけど、考えてみたら昔からあの人の性格ってああでした。視野が狭くなっていた自分に気づけて、本当に良かったです」
ひろ美はサオに感謝する。そしてスプーンを持ち、残ったロコモコ丼を口の中にかき込んだ。
ひろ美は晴彦への不満に囚われていた自分を払拭するように、米一粒まで口の中に流し込んだ。ストレスが浄化していくようだった。
仕上げに水を一気に飲んで、手を合わせて頭を下げる。
「ごちそうさまでした」
ひろ美に合った一杯。ロコモコ丼。ひろ美はテーブルにお金を置いて、「国分寺にこんないいお店があったなんて」と笑った。
サオは「また、人生に迷ったらお越しください」と言って、外へ出るひろ美を見送った……。
――ホテルに帰ると、すぐに宇垣が迎え入れてくれた。「どうでしたか? 今日の一杯は?」と興味深そうに聞いてくる。
「ロコモコ丼でした。もう、絶品で」
にこやかに返答すると、宇垣は「いいなー、お腹空いてきますね」と目を垂らしながら笑ってくれた。
そして、ひろ美は言いにくそうに声を出す。
「すいません。それで……やっぱりタクシーで帰ることにしました。申し訳ないのですが、宿泊キャンセルできますか」
家には、腹を空かせた晴彦が待っている。宇垣に恥を忍んでお願いした。
嫌味の一つでも言われるのを覚悟していたけど、宇垣はケロッとしていた。
「かしこまりました! それではルームキーをいただきますね」
ひろ美は「ああ……」と言いながら、ポケットのルームキーを返す。「本当にごめんなさい」と謝罪の言葉も添えた。
「いいんですよ。ここをきっかけに、迷い人食堂に出会えたわけですから。それだけで十分です」
宇垣は、迷い人食堂の広報か何かなのか? ひろ美は圧倒されるように「あ、ありがとうございます」と言って、外に出た。
駅前のタクシーに乗って、三鷹の家まで帰る。もうすぐで、朝焼けが顔を出す頃ではないか。
というか、始発まで待てばよかった。後悔してももう遅い。信号にも恵まれて、あっという間に家に着きそうだ。
お腹一杯だということは、晴彦に悟られないようにしないと……車内から朝帰りの若者を眺めながら、ひろ美はそんなことを考えていた。
ひん曲がった形のハンバーグが送られてきた。ひろ美は小刻みに震えるように笑って、声が出なくなっている。
綺麗に成型しておいたはずなのに、焼く工程の中で醜くなったみたいだ。
メッセージは『ごめん。今日は結婚記念日だったよな。早く帰ってきてくれ』という文に、土下座の絵文字が何個も付け足されていた内容だった。
笑いが止まらなくなって、ひっそりと涙を流す。すぐに指で目尻の水分を拭いた。サオにはギリギリ気づかれないで済む。
ただ面白くて泣いたわけではない。晴彦がひろ美を求めてくれたことに、少なからずの感動を覚えたのだ。
「ありがとうございます。これからもたくさん喧嘩するだろうけど、考えてみたら昔からあの人の性格ってああでした。視野が狭くなっていた自分に気づけて、本当に良かったです」
ひろ美はサオに感謝する。そしてスプーンを持ち、残ったロコモコ丼を口の中にかき込んだ。
ひろ美は晴彦への不満に囚われていた自分を払拭するように、米一粒まで口の中に流し込んだ。ストレスが浄化していくようだった。
仕上げに水を一気に飲んで、手を合わせて頭を下げる。
「ごちそうさまでした」
ひろ美に合った一杯。ロコモコ丼。ひろ美はテーブルにお金を置いて、「国分寺にこんないいお店があったなんて」と笑った。
サオは「また、人生に迷ったらお越しください」と言って、外へ出るひろ美を見送った……。
――ホテルに帰ると、すぐに宇垣が迎え入れてくれた。「どうでしたか? 今日の一杯は?」と興味深そうに聞いてくる。
「ロコモコ丼でした。もう、絶品で」
にこやかに返答すると、宇垣は「いいなー、お腹空いてきますね」と目を垂らしながら笑ってくれた。
そして、ひろ美は言いにくそうに声を出す。
「すいません。それで……やっぱりタクシーで帰ることにしました。申し訳ないのですが、宿泊キャンセルできますか」
家には、腹を空かせた晴彦が待っている。宇垣に恥を忍んでお願いした。
嫌味の一つでも言われるのを覚悟していたけど、宇垣はケロッとしていた。
「かしこまりました! それではルームキーをいただきますね」
ひろ美は「ああ……」と言いながら、ポケットのルームキーを返す。「本当にごめんなさい」と謝罪の言葉も添えた。
「いいんですよ。ここをきっかけに、迷い人食堂に出会えたわけですから。それだけで十分です」
宇垣は、迷い人食堂の広報か何かなのか? ひろ美は圧倒されるように「あ、ありがとうございます」と言って、外に出た。
駅前のタクシーに乗って、三鷹の家まで帰る。もうすぐで、朝焼けが顔を出す頃ではないか。
というか、始発まで待てばよかった。後悔してももう遅い。信号にも恵まれて、あっという間に家に着きそうだ。
お腹一杯だということは、晴彦に悟られないようにしないと……車内から朝帰りの若者を眺めながら、ひろ美はそんなことを考えていた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
0
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる