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3章 初恋と失恋 ~オム玉丼~

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「東京には夢がある」

 誰かがそのような類の歌詞を歌っていたはず。黒島は過去の自分から脱却することを目指し、できるだけ爽やかに見えるように、髪型も服装も意識を変えた。

 まずはサークルに入る。これが一番の、大学生活での成功の近道。

 黒島は入学早々から、手当たり次第に新歓コンパに参加した。調子に乗っていたら見向きもされないのはわかっている。あくまでも爽やか。そして柔らかく。

 黒島の性格、キャラクターはすぐに受け入れられ、瞬く間に友達ができた。

 彼女を作ってエンジョイする……その目標を達成するのも、案外イージーなのかもしれない。
 
 結局、自分と雰囲気が噛み合いそうな、カメラサークルに入った。

 男女の比率もバランスが良いし、黒島の文化チックなところともフィットしている。黒島はカメラに興味はなかったけど、我ながらいいチョイスだと思えた。早速、親から貰った仕送りを使って、安めのミラーレス一眼を買う。

 黒島の代の同級生は、黒島を含めて十一人。参加したりしなかったりの人がほとんどで、黒島は割と頻度高めで参加していた。

 そこで、息を飲むような出会いをする。

「黒島、宮館双葉って、どう思う?」
「宮館さん? い、いや……どうって」
「とぼけるなよ。めっちゃ可愛くないか? もしかして黒島、そういうの興味ない?」
「いや、ないわけないだろ、男だし。確かに可愛いな」
「だよなー。付き合いてぇー」

 一番最初に仲良くなった北沢は、女好きでギャンブル好き。あんまり女子ウケは良くなさそうだけど、話しやすくてノリが良かった。あと、意外と優しい。

 高校の時は軽音楽部でバンドをやっていたらしく、見た目も含めて全部が『確かにやってそう』と思えるほど、典型的なチャラさが感じられた。

「いや、黒島よ? 俺なんかカメラなんて興味の『きょ』の字もないのに、宮館さんを追って来ちまったんだから」
「そうなのか、すごい執念だな」
「バカ、執念じゃない。作戦だ」
「ああ、確かに。最初インスタントカメラを持ってきた時はビビったわ。まあ強制ではないけど、一応ちゃんとしたのを買った方が良いと思ったし」
「そういうのは後回しにしてたからな。よく考えたら浮くようなことしたって、反省してるよ」

 最初に会った時から、北沢は面白いやつだと思った。仲良くなるのに時間はかからず、すぐにテンポの良い掛け合いができるほどになった。

 だけど、宮館双葉の話が出た時だけは、心臓が高鳴った。

 カメラサークルに入って、双葉と最初に会話をした時から、黒島の心は双葉に奪われてしまっていたから……。
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