親分と私

七月 優

文字の大きさ
上 下
8 / 12

8 (※R18です)

しおりを挟む
「親分、なんで喋れるの?」
「元々俺は普通に喋っていた。マルアーがいつまで経っても俺たちと意思疎通出来なかっただけだ。仕方ないから、さっきの男と交換条件で、マルアーとこうして意思疎通できるように祝福をかけてもらった」

 う~んと、私が前世人間だったとかのせいで、親分たちモンスターの言葉がいまいち理解出来ないってやつなのかな?
 不思議なことに、世界共通語っていうお屋敷のみんなが話している言葉は理解出来るけどね。
 とにかく、そんな感じの私と意思疎通を図るべく、親分はさっきの男、おそらく魔法使いのおじいさんに祝福というこの世界の魔法みたいな強い願いをかけてもらって、こうして私と話せてるってことらしい。
 何はともあれ、親分ときちんと意思疎通が出来て純粋に嬉しかった。

「マルアーって、私のこと?」
「そうだ。俺たちの間でメスの番はマと呼ぶ。あの男が、マが今はルアーと名付けてられたから、マルアーと呼べばいいと言っていた」

 言い終わると、親分はちゅっとキスしてくる。
 今現在、私の寝床で向かい合うように横向きになり、親分にがっちり捕まえられているので、避けたくてもよけきれん。
 え~と、つまりだ。マ、それすなわち、ハニー・ダーリン的な愛称のことか。

「じゃあ、オスの番は何て呼ぶの?」
「モン」
「・・・・・・・・・」

 モン親分。何か変だ。

「呼んでみろ」
「やだ」

 親分が期待の眼差しを向けるけど、拒否る。
 親分と再会できたのは嬉しいけど、番として認めるかって言うと話は別だもんね。
 呼んだら言質を取った的なことになりかねん。そんなのには引っ掛からないよ~だ。

「俺の愛しのマ」
「臆面もなくそんなこと耳元で囁かないでっ!」

 親分の声でそんな甘~い感じの言葉を耳打ちされると、こっちが恥ずかしくってたまらない。
 そして親分、顔とキャラが合ってない。まあ、そんなの何となく集落にいた頃から分かってたけどさ!

 つぶらな瞳の親分と目が合うと、あの頃のようにキスの嵐が降って来る。

「やだやだ、親分どうしてこうキスが大好きなの?」
「俺はそこまでしない方だぞ」

 親分が至極真面目にそんな返事をした。
 え? よそのお宅というか、親分以外のローントラのオスメスの番は、もっとちゅっちゅちゅっちゅしてるってこと? ほんとに? みんな巣穴の中でそんなにしてるの?

 驚いていたら、親分に鼻チュウや、口と口とくっつけるキスをお見舞いされる。

「俺はマにしかこんなことしない。俺のマはマルアーだけだ」

 親分の気持ちは嬉しいよ。でも・・・・・・。

「だ、駄目。だって私はルートワで、親分はローントラってモンスターでしょう? 私たち、違うモンスターなんでしょう? 番にはなれない」

 その悲しい現実に痛む心が、さらに悲鳴を上げる。それでも、私は必至に親分に訴えた。
 親分はキスを中断すると、思いっきり溜息をついた。おまけに呆れた瞳を私に寄越す。

「だからなんだ? そんなの分かり切っているし、それが何の障害になる。ルートワがちょっと俺たちより数が少ないだけで、俺たちのようなルートワとローントラの番は探せばいるはずだぞ。ルートワはルートワ同士、ローントラはローントラ同士しか番になってはいけないなんて、馬鹿みたいな決まりはない」
「え?」

 親分の語った内容に、私は目をぱちくりさせる。

「親分、それ本当なの? 私たちみたいな組み合わせの番、他にも本当にいる?」
「ああ」
「あのう、子どもってその場合どうなるの? 違うモンスター同士なのに子ども出来るの、出来ないの?」
「普通に出来る。違う違うとマはしつこいが、俺たちは系統は同じ。子だって為せる」
「そう、だったんだ・・・・・・」

 そんなまさかだ。私の苦労というか、悩みって一体・・・・・・。
 新たな新事実に打ちひしがれていると、親分がまた小さく息を吐いた。

「俺はあの男にマは、違うことに一番悩むというか勘違いして俺の元を去ったと聞いたが、それも俺の元からいなくなった理由の一つだったんだな?」

 親分の問いにこくり頷けば、親分は肩をすくめる。

「それについて伝える手段がなかったとはいえ、まだ幼いマに早急に子を望んではいない」

 でもそれってさ、言うなればいつかは私と親分との子を望んでるってことだよね。
 というよりもだ。

「じゃあ、何でまだ幼かった私にあんなひどいことしたの?」

 遠回しに親分に皮肉と睨みをぶつければ、親分はうっとなった。どうやら時期尚早すぎることをしたことに関し、反省はあるようである。

「マが悪いのだ。あの男に俺の元から離れる手助けを求めただろう?」

 魔法使いのおじいさんと初めて会った時のやり取りのことを、親分は示唆しているに違いない。

「会話の内容、分かったの?」
「あの男の言葉だけはな。あのとき、マが何を言っているのかは理解できずとも、あの男の言葉だけは理解出来た。だから、マが俺の元から離れることを望んでいることを知り、怒ったのだ」
「なるほど。でもだからって、私に乱暴していい理由にはならないよ。めちゃくちゃ痛かったし、怖かったんだから」

 あの時の理不尽は今でも忘れらないし、許せそうにない。だから親分を責めた。

「それは、悪かったと思っている。でも、ああすれば、いくら何でもマが俺の番だときちんと理解すると思ったんだ」
「ねえ、親分。私たちみたいな組み合わせの番で、あの時の私ほどの幼いメスの番に、オスが無理やり致すのは普通のこと? それこそいくら何でもじゃない?」

 ぶすっとした顔で親分に問い詰めれば、親分は黙りこくる。
 まさしくそれが答えだった。

「あれも、私が親分の元を離れる後押しになった」

 ぼそり呟けば、親分が私を抱きしめる力を強める。

「すまない、でも、途中で止められなくなって。マが愛しすぎるから」

 ちょっと言い訳がましいぞ、親分。あとさりげなくチュウするな。
 ま、あの時は、本能というか性欲に忠実に突き進んだってことだな。

「俺から離れるなんて言うな。今日まで必死に耐えて、ようやく面会を許可されたのだ。もう二度と放さない」

 私だって、親分と離れ離れになって辛かった。寂しさと喪失感に頑張って耐えた。
 親分の幸せを望みながら、でも、私以外のメスを親分が選んだらって思うと、すごくやだった。

「マ。子どもが欲しいなら、これからいくらだって子作りできる。今からだって、な」

 私の涙を舐めながら、親分の雰囲気が変わったことに気づく。
 この感じ、あの時と一緒だ。
 親分は私をくるり反対側の横向きにする。

「親分。痛いのはやっ! それに、別に私そんなにすぐ親分との子どもが欲しい訳じゃない」
「大丈夫だ。もう痛くない」

 そういうと、親分は慣れた感じで私の後ろ首を噛む。
 
「あっ!」

 私は初めて、親分に首を甘噛みされて、ぞわぞわした。体が上手く、動かない。

「やだ、親分。やだ、首やだ」
 
 嫌だと訴えても、親分は何度も何度も私の後ろ首を甘噛みした。
 体がむずむずして、変な感じがする。

 前のめりになった親分にちゅっとキスされて、また後ろ首を噛まれた瞬間、私は小さく叫んだ。周囲に、私のかわうそのような鳴き声が響く。
 だって、体が思いっきりびくっとして。勝手に声が漏れたんだもん。

 ふと、視界に入る腕などの自分の毛の色が変色しているのに気づいた。何だか薄いピンク色になってる。どうして?
 そんなことを思うぐったりする私に、親分は容赦ない。欲望の赴くままって感じだ。
 後ろ足の間にある、例の穴に、鼻を近づけ匂いを嗅ぐ。やめて、親分。変態っぽいことやめて。
 そう思うのに、親分はもっと変態になる。

 私はまた小さく鳴き声をあげた。
 だって、親分の舌が穴の中に入って来たんだもの。
 初めてそうされたときは、すごい痛かった。ぴたり閉じている場所を、無理やりこじ開けられたようなもんだったし。
 でも、今は痛みは感じない。
 代わりに、また変な感覚が私を襲う。ぞわっとぞくっとする、経験したことのない感覚だ。

 やだ、なんか嫌。
 それなのに、親分は執拗に舐めてくる。中、だ液まみれにされてる。
 恥ずかしいし、なんか背中とかこそばゆいし、もうやめてよ。

「親分、やだ。なんか変。だからやっ!」
「変ではない。マは可愛いな」

 さらりそんなことを言いながら、親分はようやく舌で行う変態行為を止めてくれた。頬ずりをして、私の後ろ首をまたかぷっと噛む。私は堪えられない変な感覚に、きゅうと鳴くしかない。
 これ以上はもう断固拒否だ。そう思い、くるりと親分の方を向いて、丸くなる。

 だって、初めてこれ以上された時の痛みときたら。凄まじかったもん。あんな痛い目にもう遭いたくない。

「マ、マルアー」

 親分は、目を閉じ丸まった私に困った感じで声をかける。
 親分は何回かキスしたり、頬ずりしたりしてきたけど、ふうと息を吐いたのが分かった。
 私の断固拒否宣言に流石に諦めたのか、丸まってる私を親分が跨いだのが何となく分かる。

 良かった、多分これで回避できたはず。
 ちょっと安心し、気が緩んだ瞬間のこと。
 親分が、私の後ろ首を強めに噛んだ。その瞬間、私は変な感覚にひどく襲われ、鳴き声をあげて丸まっていた体を元に戻してしまう。

 びくつく体は、まるで自分の体じゃないみたいだ。
 親分はしばらく強めに私の後ろ首をはむっとし続けた後、ゆっくりと口を離す。
 そして、息が荒くてぼーっとする私の右後ろ足を少し上げて、あの穴に何かを押し当てた。

「痛いの、やっ・・・・・・」
「もう痛くないだろ」

 親分は優しく囁きながら、私の意志に反してゆっくりと中に沈めてくる。
 確かに親分の言う通り、痛みはない。でも、どうしようもない変な感覚がもっともっと強まった。
 一体どこに隠していたのか謎の親分のものがすっぽり収まると、くうと声が漏れる。

「親分、恥ずかしい。もうやだ、抜いて」

 弱々しく懇願するも、親分は私の後ろ首に甘噛みして、体を動かし始めた。

「今中途半端に止めたら、マだって辛いぞ。マの体も俺の求愛に応じてくれてる。毛色の変色は、発情の証だ」
「あっ!」

 親分は囁くと、ちょこちょこ動きを少しずつ強めていく。
 私は体験したことのない感覚に耐えかねて、鳴き声を漏らすばかりだ。

 私はさっきからずっと毛色が薄ピンク色のままである。
 さっきの親分の言葉を頭の中で吟味した。
 発情とか突っ込みをいれたいところもあるけど、ひとまずは嬉しい。
 だって、ようやく毛皮の色が変化したんだもの。

 親分の毛皮の色と同じじゃないのは、やっぱりちょっぴり残念だ。
 でも、親分の愛を私の体が受け入れたというような事実に、嬉しさばかりが込み上げてくる。
 思い描いていた形とは少々違うけど、望んでいた幸せが、手に入ったんだ。
 
 私、親分の番として生きていいんだ。
 ようやく、私の中ですとんと決着がついた気がした。

 今更面と向かってストレートに好意を伝えられなくて、
「モン・・・・・・」
親分たちの間での番に対する呼び名を、小さく小さく囁いた。

 今の私にはそれが精一杯。精一杯の親分への好きって気持ち。
 
 親分には伝わったと思う。
 かぷっと後ろ首を優しく噛んでくれた。
 体がびくってなる。
 でも、この変な感覚も発情のせいとはいえ、親分がもたらしてくれていると思えば、段々慣れてきたというか心地よく思えてきた。
 親分とこうしてるのも、悪くないかな? むしろ、幸せだなとしみじみと感じた。


 その後、親分と私は大分長々と合体していたと思う。
 親分と再会したのは、午後のおやつの時間くらいだった。
 もうそろそろ、日が暮れそうになっている。

 部屋の扉がノックされ、お嬢様の声がした。
 そこでようやくはっとなり、親分にもう終わりと訴えたんだけど、親分てば終わりにしてくれない!

 どうしようどうしようと親分と合体したまま、お嬢様が部屋に入って来てしまった。
 そして、親分との合体場面をまさに今見下ろされている。

 恥ずかしい。途轍もなく、恥ずかしい。
 多分、毛皮で隠れてるから、お嬢様からすれば親分が私を抱き枕代わりにして、二匹仲良く横向きで寝てる風に誤魔化せると思う。
 それでも、親分と繋がったままの状態を目撃され、いたたまれない気持ちでいっぱいになった。

「お兄様、ルアーがピンク色になってる。熱があるの? 病気になっちゃった?」

 え・・・・・・、お嬢様のお兄様もいたの?
 もう兎にも角にも恥ずかしい。
 私を心配してくれるお嬢様の純粋な疑問すら、それを煽ってくれていた。
 きゅうと弱々しく鳴いて、恥ずかしさのあまり、両前足で顔を隠す。それに親分、動かないでいてくれないんだもの!

「いや、その、違う、かな。ルアーは、彼のことが大好きで、ピンク色になってるだけ、だと思うよ。ほら、私たちが顔を赤くしたりするのと、同じ感じ、だと思う」
「ルアーとこの子、もう仲良しさんてこと?」
「そう、だね。すごく仲良し、だよ。だから、ね、もうしばらく二匹だけにしてあげよう。私たちがいると、邪魔だろうから」

 事情を察したであろうお嬢様のお兄様、歯切れ悪いし、すごい言葉を濁してくれてる。申し訳なさすぎる。

「分かりました。お兄様がそういうなら。ルアー、お夕食はご馳走だからちゃんと来てね」

 了解の意味を込めて鳴けば、お兄様がお嬢様を連れて部屋から出て行ってくれた。
 お嬢様のお兄様、お嬢様に見られてる羞恥プレイをどうにかしてくれてありがとう。
 お嬢様の情操教育上、よろしくないこと間違いないことしてて、ごめんなさい。
 また今度、愚痴聞くからね。それで許してください。
しおりを挟む

処理中です...