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見聞録
キュウテオ国編 ~特別な猫の尻尾⑰~
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審査員の視線の先には、コンラッドがいた。互いに視線を逸らすことはない。
リアトリスとオスカーは、黙ってその様子を見守っていた。
「私は、彼女のような答えの辿り方をしたわけではないのだと思います。彼女は、昨日までおそらく『特別な猫の尻尾』をこれだと思っていたはずです。けれど、本日の「継承試練の儀」開始直前、あなたを見て『特別な猫の尻尾』の本当の正体はこれではないと彼女が察したことが、私には分かりました」
コンラッドがちらりとリアトリスを横目で見る。
コンラッドは「道具」から出した植物を、みんなに見えるように右の手の平に載せて提示した。それは、赤いふわふわの花穂の植物である。一昨日リアトリスが港町の公園で見かけ、リアトリスが審査員のローブの刺繍を解読するまで「特別な猫の尻尾」だと彼女が思っていたものであった。
審査員がこくり頷き、コンラッドに先を促す。
「そして私は、私の婚約者が予想した『特別な猫の尻尾』が、多分リアトリス殿も分かっている『特別な猫の尻尾』と同一であるとの結論を出しました」
コンラッドが、審査員を左手の平で指し示す。
ミネットが既に『特別な猫の尻尾』の真相に辿り着いていたのかと、リアトリスは驚いた。
審査員はと言えば、コンラッドが遠回しに突きつけた「特別な猫の尻尾」の答えに、薄っすらと笑い返す。
「まあ、いいでしょう。特例の及第点に到達したとして、合格と見なします」
拍子抜けするくらい、あっさりと合格が言い渡される。
経過が経過とはいえ、情緒もへったくれもないなと、リアトリスは苦笑した。
オスカーはコンラッドを見ている。
コンラッドは、呆然とした様子で、瞳を揺らしていた。
「念願の夢が叶ったのでしょう? お披露目の際には演技でも嬉しくしてくださいね」
審査員はコンラッドにふふっと笑いかける。
動揺が収まらないのか、コンラッドは言葉を口にせず、首肯しかできない。
「ところで、何かご質問はありますか?」
「はい」
審査員の問いかけに、リアトリスは意外にも早く食いついた。挙手までして少しやる気が窺える。
「どうぞ」
「あの、最初からずっとあなたがこの役割を果たしてきたのでしょうか?」
「いいえ。私は初代ではありません」
首を横に振る審査員の返答は、リアトリスの疑問を十分に満足させるものだった。
「私は、あなたならどうして私がこれなのか、一番最初に知りたがると思っていたんですがね」
審査員はローブの刺繍を指してから、ローブを脱いだ。ローブの中は、薄手のチュニックと脚にピッタリとしたボトムス姿である。
審査員は、リアトリスにくるりと背を向けた。チュニックの裾から、先ほどコンラッドが見せた植物の花穂のような、赤いふわふわの長いものが揺れている。
リアトリスは自身の身内の勘が正しかったことを、目撃した瞬間であった。
そして、リアトリスは審査員の話を聞いてから引っ掛かっていたものが何であるか、もう一度改めて理解する。
キュウテオ国が興る前、この島はこの世界のとある国の一部であった。
それが分かる一文を、リアトリスは昨日の書物を読み漁った中で、確かに見た記憶がある。そのとある国に、リアトリスは結婚後割と早めに訪問した。
コンラッド然り、ファリス然り、キュウテオ国には猫だけでなく、あの種族の血筋も多いわけだと、リアトリスはよくよく合点がいく。
「特別な猫の尻尾」関係でリアトリスの抱いていた謎は、全て解けたというよりは、繋がったといった方が正しいかもしれない。
リアトリスを悶々とさせていた、霞がかったヴェールはこれできっぱりともうないと断言できる。風が霧を払ったかのように、リアトリスの気分は今まさに爽快だ。
審査員はローブに刺繍された文字を優しい眼差しで見つめながら、何かを口にする。
その発音に、リアトリスははっとなった。
審査員はそんなリアトリスの目を見据えて、話しかける。
「私が知る男性は、違う呼び方をしていたんですよ。個人的な我儘ですが、あなたが知るこの呼び名を、口にしてはもらえませんか?」
「分かりました。あなたが期待する名称かは定かではありませんが・・・・・・」
「それでも、お願いします」
審査員はおそらくその筆記体の発音を口にしたのだろう。
リアトリスは、キャットテールの別称を口にする。日本語で紡がれたその発音に、審査員は笑みをこぼした。
「ああ、それです。私がもう一度読んで欲しかったのは、その発音の言葉でした」
審査員は、実に嬉しそうだった。その笑顔は、どこか少女めいているように見えなくもない。
「あの人と同じ、この世界の者とは違う香り漂うあなたなら、もしかしてと思っていましたが。思った通り、あなたはあの人と同じ呼び名を知っていた。こうして長年ぶりに誰かに呼んでもらえると、嬉しいものですね」
「・・・・・・とても大切な方だったんですね」
「ええ。忘れがたい、とても大事な人でした」
感極まった審査員の声に、リアトリスはそっと目を伏せる。
しばらくして、現実を受け止めたらしいコンラッドに、審査員やリアトリスはどのようにリアトリスが「特別な猫の尻尾」の正体に辿り着いたのか、話して聞かせた。
「そうでしたか。答えや手がかりは、身近なところにあったということなのですね」
コンラッドの感想に、リアトリスは「灯台下暗し」という言葉を思い出す。
「それでは、そろそろお披露目と行きましょうか?」
ローブを羽織り直した審査員は、和やかに告げる。
それにコンラッドが待ったをかけた。コンラッドはくるりとリアトリスの前に立つ。
「巻き込んでおいて今更ですが、本当に私に譲って構いませんか?」
「はい。それに、おそらくその確認を取るべき相手は、私ではないかと」
リアトリスが続ける言葉がすぐに思い浮かび、コンラッドは微苦笑を浮かべる。
リアトリスは偶然にも「特別な猫の尻尾」の正体を見破る過程の情報を、前世で得ていたがために、真相に辿り着いた。
リアトリスとは違い、そんなことなど知る由もなく、審査員が他国の者という観点から、「特別な猫の尻尾」の正体を突き止めて見せた者が、今回の参加者できちんといることを忘れてはならない。
「真の勝者は、ご婚約者様でしょうから」
また、参加しておらずとも、陰の勝者は自身の夫だろうと、リアトリスは心の中で両名に称賛の拍手を送った。
リアトリスとオスカーは、黙ってその様子を見守っていた。
「私は、彼女のような答えの辿り方をしたわけではないのだと思います。彼女は、昨日までおそらく『特別な猫の尻尾』をこれだと思っていたはずです。けれど、本日の「継承試練の儀」開始直前、あなたを見て『特別な猫の尻尾』の本当の正体はこれではないと彼女が察したことが、私には分かりました」
コンラッドがちらりとリアトリスを横目で見る。
コンラッドは「道具」から出した植物を、みんなに見えるように右の手の平に載せて提示した。それは、赤いふわふわの花穂の植物である。一昨日リアトリスが港町の公園で見かけ、リアトリスが審査員のローブの刺繍を解読するまで「特別な猫の尻尾」だと彼女が思っていたものであった。
審査員がこくり頷き、コンラッドに先を促す。
「そして私は、私の婚約者が予想した『特別な猫の尻尾』が、多分リアトリス殿も分かっている『特別な猫の尻尾』と同一であるとの結論を出しました」
コンラッドが、審査員を左手の平で指し示す。
ミネットが既に『特別な猫の尻尾』の真相に辿り着いていたのかと、リアトリスは驚いた。
審査員はと言えば、コンラッドが遠回しに突きつけた「特別な猫の尻尾」の答えに、薄っすらと笑い返す。
「まあ、いいでしょう。特例の及第点に到達したとして、合格と見なします」
拍子抜けするくらい、あっさりと合格が言い渡される。
経過が経過とはいえ、情緒もへったくれもないなと、リアトリスは苦笑した。
オスカーはコンラッドを見ている。
コンラッドは、呆然とした様子で、瞳を揺らしていた。
「念願の夢が叶ったのでしょう? お披露目の際には演技でも嬉しくしてくださいね」
審査員はコンラッドにふふっと笑いかける。
動揺が収まらないのか、コンラッドは言葉を口にせず、首肯しかできない。
「ところで、何かご質問はありますか?」
「はい」
審査員の問いかけに、リアトリスは意外にも早く食いついた。挙手までして少しやる気が窺える。
「どうぞ」
「あの、最初からずっとあなたがこの役割を果たしてきたのでしょうか?」
「いいえ。私は初代ではありません」
首を横に振る審査員の返答は、リアトリスの疑問を十分に満足させるものだった。
「私は、あなたならどうして私がこれなのか、一番最初に知りたがると思っていたんですがね」
審査員はローブの刺繍を指してから、ローブを脱いだ。ローブの中は、薄手のチュニックと脚にピッタリとしたボトムス姿である。
審査員は、リアトリスにくるりと背を向けた。チュニックの裾から、先ほどコンラッドが見せた植物の花穂のような、赤いふわふわの長いものが揺れている。
リアトリスは自身の身内の勘が正しかったことを、目撃した瞬間であった。
そして、リアトリスは審査員の話を聞いてから引っ掛かっていたものが何であるか、もう一度改めて理解する。
キュウテオ国が興る前、この島はこの世界のとある国の一部であった。
それが分かる一文を、リアトリスは昨日の書物を読み漁った中で、確かに見た記憶がある。そのとある国に、リアトリスは結婚後割と早めに訪問した。
コンラッド然り、ファリス然り、キュウテオ国には猫だけでなく、あの種族の血筋も多いわけだと、リアトリスはよくよく合点がいく。
「特別な猫の尻尾」関係でリアトリスの抱いていた謎は、全て解けたというよりは、繋がったといった方が正しいかもしれない。
リアトリスを悶々とさせていた、霞がかったヴェールはこれできっぱりともうないと断言できる。風が霧を払ったかのように、リアトリスの気分は今まさに爽快だ。
審査員はローブに刺繍された文字を優しい眼差しで見つめながら、何かを口にする。
その発音に、リアトリスははっとなった。
審査員はそんなリアトリスの目を見据えて、話しかける。
「私が知る男性は、違う呼び方をしていたんですよ。個人的な我儘ですが、あなたが知るこの呼び名を、口にしてはもらえませんか?」
「分かりました。あなたが期待する名称かは定かではありませんが・・・・・・」
「それでも、お願いします」
審査員はおそらくその筆記体の発音を口にしたのだろう。
リアトリスは、キャットテールの別称を口にする。日本語で紡がれたその発音に、審査員は笑みをこぼした。
「ああ、それです。私がもう一度読んで欲しかったのは、その発音の言葉でした」
審査員は、実に嬉しそうだった。その笑顔は、どこか少女めいているように見えなくもない。
「あの人と同じ、この世界の者とは違う香り漂うあなたなら、もしかしてと思っていましたが。思った通り、あなたはあの人と同じ呼び名を知っていた。こうして長年ぶりに誰かに呼んでもらえると、嬉しいものですね」
「・・・・・・とても大切な方だったんですね」
「ええ。忘れがたい、とても大事な人でした」
感極まった審査員の声に、リアトリスはそっと目を伏せる。
しばらくして、現実を受け止めたらしいコンラッドに、審査員やリアトリスはどのようにリアトリスが「特別な猫の尻尾」の正体に辿り着いたのか、話して聞かせた。
「そうでしたか。答えや手がかりは、身近なところにあったということなのですね」
コンラッドの感想に、リアトリスは「灯台下暗し」という言葉を思い出す。
「それでは、そろそろお披露目と行きましょうか?」
ローブを羽織り直した審査員は、和やかに告げる。
それにコンラッドが待ったをかけた。コンラッドはくるりとリアトリスの前に立つ。
「巻き込んでおいて今更ですが、本当に私に譲って構いませんか?」
「はい。それに、おそらくその確認を取るべき相手は、私ではないかと」
リアトリスが続ける言葉がすぐに思い浮かび、コンラッドは微苦笑を浮かべる。
リアトリスは偶然にも「特別な猫の尻尾」の正体を見破る過程の情報を、前世で得ていたがために、真相に辿り着いた。
リアトリスとは違い、そんなことなど知る由もなく、審査員が他国の者という観点から、「特別な猫の尻尾」の正体を突き止めて見せた者が、今回の参加者できちんといることを忘れてはならない。
「真の勝者は、ご婚約者様でしょうから」
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