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見聞録
観光できる地下世界 ①
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薄暗い地下の世界を、淡い照明の光が照らしだす。
ひっそりと佇む、地面を深く掘って作り出された地底世界。
辺り一面見渡す限り、壁や地面を形成するのは、白や黒っぽい岩のような固い材質ばかりである。
独創的な雰囲気を演出するその場所は、ひんやりとした空気が漂っていた。そこにいる者であれば、心なしか空気が薄くも感じるだろう。
そんな地下世界が広がる入り口付近や内部には、観光客目当ての露店や店が並ぶ。
実際、それなりの数の観光客が訪れていた。ここでは閑古鳥が鳴く方が珍しいに違いない。
ツアーのようなものまで組まれているのか、案内人の説明つきで、集団行動を取る者たちもいた。
「賑わってるねえ」
「そうですねぇ」
わいわいがやがやとごった返す人混みを眺めながら、簡易ベンチに座っていた二人が感想を呟く。
その二人は、近くの店で購入したジェラートをのんびりと食べている。
一人は、二十代ほどの男性だ。
短すぎない、白っぽい銀髪。青に近しい色合いの緑の瞳が、鮮やかに映える。
彼を視界に入れた者はしばし見惚れてしまうほどの、他者を惹きつける見目麗しい顔をしていた。
「そこのカッコいい人。観光がまだなら私と行かない?」
突然近づいてきた美女が、彼に滑らかに話しかけた。
「お誘いありがとう、麗しい人。残念ながら、もう義妹と見終わってしまったよ」
「あら、それは本当に残念」
脈がないと悟ると、美女は別れの言葉を告げて、あっさり引き下がり去って行く。
そんな彼女を、彼も爽やかに見送った。
それからも、何人かに彼は声をかけられる。
「やあ、君一人かい?」
「いいや。隣に義妹がいるよ」
「ふうん」
今度彼に話しかけてきたのは、陽気な三十路ほどの男性だ。
ちらり、彼の右隣に座る少女に視線が送られる。
しかし、少女は我関せずとジェラートだけに集中していた。
それ幸いと、陽気な男性は彼に何やら耳打ちする。
「悪いね。俺はもう決めた相手がいるから」
耳打ちされた内容に、彼はにっこりと返事をした。
直後、陽気な男性は眉尻を下げる。
「そうか。その相手が羨ましいよ」
「そう言ってもらえて光栄だ」
彼は実に晴れやかに男性にほほ笑む。
そうして、陽気な男性もその場から立ち去った。
「あなた、うちで働かない? あなたにぴったりな仕事があるんだけれど」
マダム然とした女性が、そんな言葉をかけることもあった。
「申し訳ありませんが、今の仕事で十分手一杯でして。副業をする余裕はありません」
彼は誰一人として邪険に扱う素振りを見せず、対応をこなしていく。
そんな様にもう慣れた彼の義妹は、ジェラートをすっかり食べ終えていた。近くに人がいない頃合いを見計らい、少女はやおら口を動かす。
「ひらめきや直感だけで、他者の多少の性質を判断できるものなんですね」
「全否定はしない。己が同じ部類に属すなら、自然にそれが分かってしまうものはあるからね」
少女のしみじみとした思いに、彼は落ち着いた口調で返す。
「前世では、そういったことを『類は友を呼ぶ』や『類友』と言いますね」
「ふ~ん、なるほどね」
少女は、この世界の言語と異世界のそれを混ぜて話した。
それに対して、彼は目を細めて興味深そうに少女を横目で見る。
薄葡萄色の瞳と長い髪。それらを持つ少女は、見た目は十代前半に思わされる。
幼い見た目が、前世の彼女自身の価値観からしても、彼女を実年齢より若く見えさせた。
「お義兄様。私に構わず、誰かのお誘いを受けてくださっても大丈夫ですよ」
「意外。リースにそう言われるとは思わなかったよ」
静かに語られた内容に、少女の義兄は目を瞠った。
「正直に申せば、スフェンお義兄様とラリマーお義姉様から『一緒に食事までなら許す』との伝言はいただいております」
リースと呼ばれた少女は、義兄にありのままを伝えた。
伴侶二人からの言伝に、彼はふっと笑みを浮かべる。
「信用されてるんだか、そうでないのか。俺は二人がいてくれるだけで、十分満足してるんだけどな」
「どうでしょうね。それは、お三方しか分かりません」
「それもそうだ」
可愛げがないようにも取れる言葉を発したリースは、わずかに首を傾げた。
リースの傍らにいる存在は、それにさして気分を害した様子はない。
「ただ、エヴラールお義兄様を慮り、休息を取ってもらおうと、お二人がお義兄様を私とここに行くよう手配しました。お二人なりに、仕事で多忙だったお義兄様の身を案じているのは確かです」
「そうは言うけどね。二人から体よく、厄介払いされた気分だよ」
エヴラールと呼ばれた彼は、ふうと息をつく。
リースはしばし考える。考えた末、正直な思いを明かした。
「すみません。それに関しては、否定できそうにないです」
ひっそりと佇む、地面を深く掘って作り出された地底世界。
辺り一面見渡す限り、壁や地面を形成するのは、白や黒っぽい岩のような固い材質ばかりである。
独創的な雰囲気を演出するその場所は、ひんやりとした空気が漂っていた。そこにいる者であれば、心なしか空気が薄くも感じるだろう。
そんな地下世界が広がる入り口付近や内部には、観光客目当ての露店や店が並ぶ。
実際、それなりの数の観光客が訪れていた。ここでは閑古鳥が鳴く方が珍しいに違いない。
ツアーのようなものまで組まれているのか、案内人の説明つきで、集団行動を取る者たちもいた。
「賑わってるねえ」
「そうですねぇ」
わいわいがやがやとごった返す人混みを眺めながら、簡易ベンチに座っていた二人が感想を呟く。
その二人は、近くの店で購入したジェラートをのんびりと食べている。
一人は、二十代ほどの男性だ。
短すぎない、白っぽい銀髪。青に近しい色合いの緑の瞳が、鮮やかに映える。
彼を視界に入れた者はしばし見惚れてしまうほどの、他者を惹きつける見目麗しい顔をしていた。
「そこのカッコいい人。観光がまだなら私と行かない?」
突然近づいてきた美女が、彼に滑らかに話しかけた。
「お誘いありがとう、麗しい人。残念ながら、もう義妹と見終わってしまったよ」
「あら、それは本当に残念」
脈がないと悟ると、美女は別れの言葉を告げて、あっさり引き下がり去って行く。
そんな彼女を、彼も爽やかに見送った。
それからも、何人かに彼は声をかけられる。
「やあ、君一人かい?」
「いいや。隣に義妹がいるよ」
「ふうん」
今度彼に話しかけてきたのは、陽気な三十路ほどの男性だ。
ちらり、彼の右隣に座る少女に視線が送られる。
しかし、少女は我関せずとジェラートだけに集中していた。
それ幸いと、陽気な男性は彼に何やら耳打ちする。
「悪いね。俺はもう決めた相手がいるから」
耳打ちされた内容に、彼はにっこりと返事をした。
直後、陽気な男性は眉尻を下げる。
「そうか。その相手が羨ましいよ」
「そう言ってもらえて光栄だ」
彼は実に晴れやかに男性にほほ笑む。
そうして、陽気な男性もその場から立ち去った。
「あなた、うちで働かない? あなたにぴったりな仕事があるんだけれど」
マダム然とした女性が、そんな言葉をかけることもあった。
「申し訳ありませんが、今の仕事で十分手一杯でして。副業をする余裕はありません」
彼は誰一人として邪険に扱う素振りを見せず、対応をこなしていく。
そんな様にもう慣れた彼の義妹は、ジェラートをすっかり食べ終えていた。近くに人がいない頃合いを見計らい、少女はやおら口を動かす。
「ひらめきや直感だけで、他者の多少の性質を判断できるものなんですね」
「全否定はしない。己が同じ部類に属すなら、自然にそれが分かってしまうものはあるからね」
少女のしみじみとした思いに、彼は落ち着いた口調で返す。
「前世では、そういったことを『類は友を呼ぶ』や『類友』と言いますね」
「ふ~ん、なるほどね」
少女は、この世界の言語と異世界のそれを混ぜて話した。
それに対して、彼は目を細めて興味深そうに少女を横目で見る。
薄葡萄色の瞳と長い髪。それらを持つ少女は、見た目は十代前半に思わされる。
幼い見た目が、前世の彼女自身の価値観からしても、彼女を実年齢より若く見えさせた。
「お義兄様。私に構わず、誰かのお誘いを受けてくださっても大丈夫ですよ」
「意外。リースにそう言われるとは思わなかったよ」
静かに語られた内容に、少女の義兄は目を瞠った。
「正直に申せば、スフェンお義兄様とラリマーお義姉様から『一緒に食事までなら許す』との伝言はいただいております」
リースと呼ばれた少女は、義兄にありのままを伝えた。
伴侶二人からの言伝に、彼はふっと笑みを浮かべる。
「信用されてるんだか、そうでないのか。俺は二人がいてくれるだけで、十分満足してるんだけどな」
「どうでしょうね。それは、お三方しか分かりません」
「それもそうだ」
可愛げがないようにも取れる言葉を発したリースは、わずかに首を傾げた。
リースの傍らにいる存在は、それにさして気分を害した様子はない。
「ただ、エヴラールお義兄様を慮り、休息を取ってもらおうと、お二人がお義兄様を私とここに行くよう手配しました。お二人なりに、仕事で多忙だったお義兄様の身を案じているのは確かです」
「そうは言うけどね。二人から体よく、厄介払いされた気分だよ」
エヴラールと呼ばれた彼は、ふうと息をつく。
リースはしばし考える。考えた末、正直な思いを明かした。
「すみません。それに関しては、否定できそうにないです」
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