続・思わぬ収穫? ~見聞録~

七月 優

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見聞録

観光できる地下世界 ⑩

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 泥酔状態の者たちが登場する前あたりのことである。
 小さな宴会が催されるさなか、途中リースは断りを入れてから席を外した。リースはそのまま、近場の穴の中に入っていく。その後ろをエリチョクと妖精たちが少数付き添う。

「彼女は大丈夫かね? 大分顔色がさえなかったが・・・・・・」
「大丈夫です。彼女は、アレ・・を消滅後、いつもああなりますから」

 十数分経っても戻ってこないリースを、マーキスは気にかけ、エヴラールはその心配は不要であると安心させた。
 それからエヴラールは立ち上がり、リースが入っていった穴の中に足を運ぶ。
 そこには、エリチョクや妖精たちに寄り添われながら、体育座りで眠っているリースの姿があった。
 エヴラールはその様子に仕方ないと笑いながら、リースを抱きかかえた。ぐっすり眠っているリースは、一向に起きる気配がない。
 意識をなくしたリースを腕に抱いて戻って来たエヴラールに、マーキスは不思議そうな顔をしていた。

「彼女が魔瘴消滅後、こうなるのは毎度のことなのか?」
「はい。体質、だそうです」
「そうか、それにしても・・・・・・」

 マーキスは酒が回って気持ち良さそうな心地を漂わせつつ、エヴラールが支えるリースに視線を配る。

「彼女は祖父母似だな」
「ええ。彼女の両親もそう思っているようです」

 マーキスの指摘に、エヴラールは微笑を滲ませて同意した。

「そうかそうか。あの二人も息災か。して、今は二人とも何をしているのだ?」
「奥方は私の母の話し相手と補佐を。プロンツ国先々代族長も、父や現プロンツ国族長の相談役を担っているようです」
「ほう。本当に親族間で仲良くやっているのだな」
「はい。元々、私の母と彼女の母は知己であったのも大きいでしょう」
「そうであったな。リナリアはなぁ、両親に似ず良かったのかもしれん。シネンといい、純血の草人族・花人族の中では珍しく、他種族に情が深い人柄は好ましかったよ」
「そうですね」

 マーキスだからこその歯に衣着せぬ物言いに、エヴラールは少々困ったように返事をするしかない。

「心残りもなくなったようだし、私ももう少し好きに生きてみるとするか。ヤナギたちに久しぶりに会いに行くのもいいかもしれないな。彼らはルミエルに居を構えているのだろう?」
「はい。老師の奥方は方々飛び回っておりますが、老師は相変わらず制作に意欲を示して、工房に引きこもっておりますよ」
「あの二人らしい。そう遠くないうちにルミエルやロムト国に行くのが楽しみだ」
「我が国でもご訪問を楽しみにしております」
「ああ。その時はよろしく頼むよ」

 双方人なつこい笑顔を見せあい、和やかな雰囲気だ。
 周囲も騒がしくならない程度に会話を弾ませている。

「まさか、あのヤナギの孫に酒の酌をしてもらえる日が来るとは思わなかった。長生きはしてみるものだ」

 残り最後となった希少な酒を煽り、マーキスはしみじみとした印象だ。それには皆、無言で同意の気配を匂わせる。

「ヤナギは私に妬くかな?」
「それはどうでしょう? 今やあの老師は孫夫婦と同居しておりますから」
「そうであった」

 エヴラールは温かな眼差しで、ありのままを告げる。
 それに対して、マーキスはハッハと小気味よく笑った。
 マーキスの部下たちは主人の機嫌の良さに、誰も彼も表情を和らげる。

 そんなことがあったことなどきっと知らされないリースは、気持ちよさそうにエヴラールの傍らで眠り続けていた。


 * * *


 リースが目を覚まさないまま、空が灰色に染まる前に、一行はその場から立ち去った。
 リースはエリチョクや妖精、マーキスたちに別れを告げる間もなく、エヴラールに背負われて宿まで連れて行かれた次第である。
 そんな彼女が目を覚ましたのは、夜の帳がすっかり落ちた夜中であった。
 リースが軽食と湯浴みを済ませた後、リースとエヴラールは本日の報告・反省会を開く。

「今回も無事魔瘴アレを消滅できて良かったよ」
「はい」

 エヴラールはそういうものの、諸手を挙げて喜んでいる顔はしていない。
 だからリースも浮かれた心地でなど決していなかった。
 そんなリースを見ながら、エヴラールは回りくどいことはせず、正直に本題を明かした。

「だけど、エリチョクたちの暴挙を制止しなかったのはいただけない」
「はい・・・・・・」
「マーキス殿の部下でなかったら、あのように平和的解決はしなかった。エリチョクたちが排除されていてもおかしくはなかっただろう」
「はい」

 静かながら冷静なエヴラールの指摘を、リースは反省と後悔でもって重く受け止める。

「リースだって、自分のせいでモンスターたちが命を奪われるのは本望ではないだろう?」
「もちろんです」
「なら、今後はあのような場合、早急に対応できるようにしなければいけない。我関せずの事なかれ主義では、大切なものは守れないよ。リース、分かっているだろうけど、皆が皆モンスターたちに友好的ではないんだ。ルミエルやプロンツならまだしも、他国では身の危険が脅かされれば、躊躇なくモンスターたちは排除される対象になる」
「はい」

 リースは、しおらしくエヴラールの説教を真面目に受ける。
 モンスターたちと友好関係を築く種族が血族にいることもあるせいか、リースはそれなりにモンスターたちから好かれる。それを理解した上で、エヴラールは彼女に言うべきことを伝えていく。

「リースにその気はなくとも、他者からすればリースは多くのモンスターたちのまとめ役を担っていると目されている。そんな状況下で、上に立つ側のリースは、それ相応の責任は負わなければいけないよ。エリチョクたちで痛感しただろうけど、リースのためと思って、彼らはあのような無謀ともとれる行動に出た。ああいうことがないように、リースは先を見越して統制を図ることを覚えなきゃね」
「はい、精進します」

 唇を軽く噛んだ後、リースははっきりと改善を約束した。
 それには、エヴラールはこの話題に区切りをつけることにする。

「きちんと把握できたなら、この話はこれでおしまいだ。今後この件に関して相談があれば、俺たちはいくらでも話に乗るよ。だから、今夜はもう寝るとしよう」
「はい。エヴラールお義兄様、いろいろとありがとうございました」
「どういたしまして」

 リースはやや気落ちした雰囲気ながら、それでも誠意を込めて感謝を伝えた。その思いをもらい受け、エヴラールは爽やかなほほ笑みを返す。
 時刻は真夜中、二人は寝る前の挨拶を交わし、充実した一日の疲れを癒すべく、それぞれの寝室で就寝することにした。

 リースは本日のことを振り返り、中々寝つけない。今回の目的は無事達成できたが、今後の更なる課題が増えた。
 これから何をどうすればいいか、リースは自分なりに考えを巡らせる。真っ暗な中、何度もベッドの上で寝返りを打った。

 今のところ、魔瘴を消滅する計画を実行する中で、しでかした失敗もあったが、結果的には概ね順調に事は運んでいる。
 その経過において、フロック視すべきことは多々あるだろう。
 今回だってそうだ。噂を聞きつけ、それが真実となり、見事この国の魔瘴の封印結界を消滅できたわけなのだから。
 しかし、毎回そう思わぬ幸運に見舞われるとは限らない。
 エヴラールの指摘通り、最悪な事態に一変する可能性はどこにだって広がっている。
 それはリースとて、分かっていることであった。

「人生、プラスマイナスゼロっていうもんね。いいことと同じくらい、悪いこともきっと起こる」

 リースは微かな声で独り言ちる。
 前世からひょんなところで悪運があると自負するリースには、いずれどこかで障害が立ちはだかるであろうことは予感していた。望もうと望むまいと、避けては通れない厄介事に直面するに違いない。リースの心の奥底で、そんな不安がひっそりとくすぶっている。

「でも、嫌でも私は・・・・・・」

 後に続くはずだった言葉は、目を閉じて心の中で噛みしめる。リースはそうして、改めて覚悟をその身に宿した。
 結局リースが意識を手放せたのは、日付が変わってからのことだった。


 * * *


 翌日、リースは昨日同様、少々朝寝坊してエヴラール直々に起こされた。
 気恥ずかしさと申し訳なさに苛まれるリースに、エヴラールは始終揶揄う雰囲気だ。

「すみません・・・・・・」
「別にいいよ。リースがイオのことどれだけ愛しているか、よ~く理解できたからね」
「はい?」

 エヴラールの言い分に、リースは訳が分からない。

「イオから聞いてたけど、リースは寝言すごいね。何度もイオの名前呼んでたよ」

 直後、ベッドの上で上半身を起こしたままのリースの顔は、みるみるうちに赤くなる。
 それにはしてやったりと、エヴラールは体を震わせて笑うばかりだ。

「さあ、そろそろ支度をしないといけない。エリチョクたちに会いに行った後、マーキス殿たちと昼食の約束があるからね」
「はい」
「思いの外早く事が済んだことだし。あとは俺の用事に付き合ってもらうよ」
「了解しております」

 リースは顔の赤みが引かない状態で、エヴラールに少し事務的に応える。
 予定していた約一週間ほどの日程を全て消化することなく、二人は目的を遂げた。そんなわけで、残りの日程はエヴラールの社交にリースが付き添い、勉強させてもらう機会となる。

「お互い昨日の疲れが残っていても、それを相手に悟らせては駄目だからね」
「努力します」

 リースに助言するエヴラールは、昨日の疲労感など全く感じさせない。朝から屈託ないきれいな尊顔が、それを物語っているかのようだ。
 対して、リースは昨日以上に体が重く感じている。正直だるさが残っていた。
 赤い頬のまま、リースはじとりエヴラールを見る。その視線を感じ、エヴラールはにっこりと首を傾げた。

「何?」
「いえ、エヴラールお義兄様方の体力がさすがだなぁと、思っただけです」
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