続・思わぬ収穫? ~見聞録~

七月 優

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見聞録

嘘つきさんは甘い蜜を吸っていたい ⑦

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「トリクシー、今のところうちであなたを匿うわ。異論あるわけないわよね?」
「・・・・・・ないわよ」

 反論を許さないかのように語気を強めるソランジュに、トリクシーは微妙な気持ちでいた。
 本音を言えば、得体の知れないソランジュやエリーの家に置かれるのに対し、トリクシーの中で不安がないといえば嘘になる。それでも、トリクシーには今のところその選択肢以外ないことは明らかだ。
 畏れ多いエルネスティーヌとファブラスの家で厄介になるよりは気詰まりしないだろうと、トリクシーは思うことにする。

 一方、エルネスティーヌは改めてソランジュを心配していた。
 この場ではっきりとエルネスティーヌは告げられないが、不安要素はトリクシーの追っ手だけでない。
 トリクシーが考えを変え、恩を仇で返す場合だってあり得る。
 加えて、今のソランジュ自身にも気がかりにすべきことがあった。エルネスティーヌはちらとソランジュの腹部を見て、こっそり溜息をつく。
 ソランジュは他者にまだ何も告げていないが、【ムーンダスト】にいるペットモンスターたちも、エルネスティーヌも、ソランジュが隠しているであろうことに察しがついていた。

 各自がさまざまな思いを巡らせる中、【ムーンダスト】の営業も再開する。
 夕方以降ということで、客たちは夕食や晩酌を【ムーンダスト】で済ます。
 もしくは、テイクアウト商品を買いに来るだけの客もいた。年の最後を締めくくるディソンの月に売られるテイクアウト商品は、昨年以上に人気が出ている。
 特に、ディドンの月二十サーダーの日から、二十五ウォドゥンの日にかけては、クリスマス仕様のテイクアウト商品が数多く陳列される。その期間中は特にテイクアウト商品が殺到し、店としては書き入れ時である。
 何をいうトリクシーも、それらクリスマス仕様のテイクアウト商品が目的で、【ムーンダスト】を訪れたくらいだ。他国にまでそれらの評判が行き渡っている証拠といえよう。

「みんな期間限定が好きねぇ」

 閉店後、在庫がすっかり減ったテイクアウト商品を見たり、本日注文を受けた期間限定メニューを思い出したりしながら、ソランジュはぽつり言った。

「期間限定好きといえば、リースおばさんはまだ帰ってないの?」

 厨房の奥で、トリクシーとテネヴと共に、ソランジュの仕事終わりを待っていたエリーが、ソランジュに訊ねる。

「ええ。帰ったらここに一度寄るって行ってたけど、どこかで足止めくらっているのかもね」
「そうだね」

 母娘で和やかな会話をしていれば、閉店後にもかかわらず、誰かが【ムーンダスト】を訪ねてきた。
 ホールにいる店員たちはその人物を見るなり、温かく歓迎する。
 トリクシーが誰だろうと不思議がっていれば、その人物はつかつかと厨房の方にやって来た。
 トリクシーと目が合うなり、その人物はトリクシーを指さす。

「あ、にせーじょっ!」

 エリーと同じようなことをいきなり面と向かって言われ、トリクシーはびくっと肩を上げた。
 これだけ時間が経てば、「にせーじょ」は「偽物の聖女」を意味していると、トリクシーは理解できた次第だ。

 エリーやソランジュたち同様、初見でトリクシーの正体を見破ったのは、十代前半の少女に見える人物である。
 小柄で身長は百四十センチにも満たない。薄葡萄色の髪と瞳を持ち、側頭部に小さなリンドウの花が咲いていることから、花人族だと窺える。
 トリクシーを指さした人差し指をその人物が下ろせば、ソランジュが口を開いた。

「おばあちゃんっ。これから偽物が来るって、エリーたちには教えたでしょ?」
「うん」
「やっぱりか・・・・・・」

 おばあちゃんと呼ばれた見た目少女は、素直に肯定する。
 花人族は予知能力に長けている者がほとんど。見た目少女なおばあちゃんも、例外ではない。
 予想通りの返答に、ソランジュは軽く肩を落としてから、わざとらしく膨れ面を作った。

「そういう面白いことは私たちにも教えてよっ!」
「ごめんごめんなの~。ついうっかり忘れてたの~」

 ちょっぴり責めるソランジュに対し、見た目少女なおばあちゃんは、悪びれもせず頭をかく。いかにも、自由奔放な花人族らしい行動だ。

「それより、にせーじょに付き纏ってた追っ手はどうしたの~?」
「にせーじょを消そうとしてる連中の追っ手、テネヴやオーク街道のモンスターのみんなと一緒に仕留めた・・・・よ」

 未来を見据えていた彼女の問いに答えたのは、エリーだった。エリーとテネヴは、満面の笑みを浮かべる。

「なるほどなの~」
「よくやったわね。偉い偉い。・・・・・・で、そいつらどうしたの?」

 一応は娘たちを褒めてから、ソランジュが作り笑顔でエリーに確認した。

「そいつらを監視してた各国の人たちに、後処理は任せた」
「あらそう。それでお小遣い・・・・をもらったのね」
「うん。ちゃんとみんなで山分けして、お礼も言ったよ」
「ならよし」

 エリーが先に語った臨時収入の出所も分かり、ソランジュは満足そうに頷く。
 そんな一連のやり取りを、トリクシーだけが「うげえ」とした顔で聞いていた。トリクシーに、横槍を入れる気力はもはやない。

「で、にせーじょ利用するの~?」

 見た目少女なおばあちゃんは、のんびりした口調で言った。
 ソランジュは両手を腰に当て、わざとらしくふふんと笑う。

「しますとも」

 確認し終えた二人は、いたずらが成功した子どものように笑い合った。
 そんな二人を見て、トリクシーはソランジュたちに命綱を預けていいのだろうかと、疑いを抱く。それでも、もう時すでに遅しなことぐらい、トリクシーは理解していた。
 数秒後、ソランジュが見た目少女なおばあちゃんをトリクシーにようやく紹介する。

「こちら、あの老師の奥方のフデリンドウ様だから。想像よりも寛大な方だけど、くれぐれも粗相のないように」
「そういうことでよろしくなの~」
「は?」

 衝撃の事実に、トリクシーの目は真ん丸になった。
 数分後、状況を把握したトリクシーは身を縮こませる。まともに挨拶を返せそうにない。

「な~んだ、にせーじょなのに、そこまで図太くもなかったの~。これでよくあんなホラ吹けたの~、不思議なの~」
「言われてみれば確かにそうね」

 淡々と述べるフデリンドウの意見に、ソランジュがやんわり同意した。
 エルネスティーヌやファブラスよりも、ある意味大物の登場。トリクシーは猫に睨まれた鼠のように、怯え震えていた。
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