未成熟の誘惑

ani

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ティラミス

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「第1章です、おめでとう」
「おめでとうも糞もあるか、よくもやってくれよったな」
「嬉しくないのですか。私は嬉しいのですが」
「ちっ」


世界は消えた。
数秒で消えた。
この先は真っ暗で、手を伸ばしても掴めるものは何もない。
唯一存在する主人公らしき男は、さっき俺が殺してしまった。


「陶酔ですか」
「黙れ。死にたいなら他を当たれ」
「ハイエナに私は殺せない。そういう世界に設定したから」
「うざすぎるウサギが。早く転生してこの世をやり直せ、小動物」
「悪口にまで知能を使うなんて、愚かですよハイエナ。もっと単純に生きてごらんなさいよ」


ウサギ。
背の小さな神様は、それでもこの世界を取り仕切っていた。
彼女の思想は世界を変える。
生活習慣も排泄も呼吸までも、微細な変化が世を撫でる。


「あまり褒めるな」
「褒めてない」
「しっ、静かに。マルタイが現れた」


地上158mのビルから、ヨレヨレのシャツを羽織った男が歩いてくる。マルタイA、可変長符号だ。
この世の全てに失望し、神様を諦めた駄作。
その抹殺命令に、俺とウサギは賛同した。
とても強そうには見えない。
弱く見える小さな粒。
何故この男が賞金首なのか、いまだに分からない。


「彼の賞金は75年だったか」
「時間を使うな、金で言えよ。この時代は金が世を動かしているんだぞ」
「ハイエナは細かいな。だから彼女に逃げられる」
「うるせ」


尾行を開始する。
イヤホンをつけ、足音を殺し、存在感を消す。
ウサギは先回りするためにタクシーを拾う。
未だに信じられない。
俺らが出るような敵なのか、悪なのか、塵なのか。

可変長符号は笑わない。
彼の表情は一貫して落ち着いていた。
全てを見透かすような視線と、半端な天気がえらく不似合いで、俺は春の終わりを感じた。
歩調が早まる、時刻は17時。


「ハイエナ、何をしている」


聞きたくない声ヌルい声。
蛇の女はそこに立つ。
誰が呼んだんだ。
何故こいつを創造した。
早すぎる。
まだ何も始まらない。
今回もここまでなのか。


「ハイエナ、ん。耳がなくなったのか」


背後に感じる悪寒の先に、頰が熱く燃え上がる。端的に言うと、耳が削げおちた。
熱い。
血が、熱い。
俺の耳は既に津田の手の中にあり、滴る血を舐めながら蛇は笑う。


「ゲームを始めよう」


可変長符号は既に視界から消えていた。
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