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第10話 「勇者の嘘報告」
しおりを挟む洞窟でアルフォンスを見捨ててから二日が経過し、勇者一行は王都へと帰還していた。
アルフォンスの死亡を報告するために。
その道中、勇者一行はとある人物に会うため『魔術ギルド』へと寄り道をしていた。
「ーー先生が、死んだ?」
その報告を聞き取った、本を大切そうに抱き抱える茶髪の眼鏡をかけた幼い少女が困惑した様子で、確認するため苦の表情を浮かべる勇者ルークに再び聞いてみせた。
「ああ、洞窟で偶然ドラゴンと遭遇しちまってさぁ。
あいつ、呪いで本来の魔力を使えなくなっちまったんだろう? そのせいかなのかは知らねぇけど、アイツ……急に発狂しだして俺たちを見捨てるように敵前逃亡したんだよ」
「……は?」
「逃げるなって注意したけどさ、アイツ聞く耳持たなくて。そのまま、ドラゴンに背中を向けて……死んじまった」
まるで真実かのように語るルークは、いかに自分らが哀れなのを出張する。
アルフォンスが愚かにも敵前逃亡をし、そのせいでドラゴンに喰われてしまった。
仲間の死を前に硬直した自分らは、全力を振り絞ってドラゴンに立ち向かうも返り討ちにあってアルフォンスの死体を置いて、洞窟から脱出した。
「アイツは最後まで臆病だったよ……だけど」
肩を小さく震わせ、両目を片腕で隠すように覆うルーク。
「アイツを救えなかった俺たちにも……非が大いにある。すまねぇ、ルージュ」
ルークは奥歯を噛み締めながら、感情を押し殺す。
それは悲しいからではない、悔やんでいるからでもない。
自分の行動に何一つの後悔も湧かず、それよりもアルフォンスを囮にしたことに対して記憶が蘇ってしまい、彼は必死に堪えていたのだ。
今にでも爆発しそうな、嘲笑いを。
「なぁ、ユキハラ、エリス」
ルークは平然と腕を組むエリス、刀をずっと弄っているユキハラの方へとふり返り聞いた。
二人にとってはあまりにも興味がない話だったため、ルークの呼びかけに遅れて応じてしまう。
「あ、え……えぇ、そうだわ。カナシイわねぇ~」
「ルーク殿の言うとおり、たとえ無力に等しく落ちぶれたアルフォンスであろうと守りきれなかった我々にも非がある。申し訳ない」
と言いながらも、無責任な雰囲気が全く隠しきれていなかった。
テーブルに座っているアルフォンスの弟子である魔術見習いのルージュにすら、目を合わせようとしない。
それは彼女と目を合わせると、何かと都合が悪いのだからだ。
ルークも出来るだけルージュと目を合わせないよう、目を覆って泣いたフリを続ける。
流石に芝居がかっているのにも関わらず、ルージュは自分の先生であるアルフォンスが死んでしまったことに頭がいっぱいだった。
彼女はアルフォンスが勇者ルーク達にどのような嫌がらせを受けていたのかを身近にいたので詳しく知っていた、だからこそ嘘であって欲しい。
ルージュは心からそう願うも、この場にはアルフォンスの姿は無い。
(先生が………死んだって、そんなまさか? いくら先生が呪いで本来の魔力を封印されていても、ドラゴンの前ぐらいは逃走できた筈……なのに)
ルージュは絶望感を抱くと同時に、疑惑が心に浮かんでいた。
アルフォンスはとても賢い人だ。
それは自分が彼の弟子だから過大評価しているわけではなく、そのままの通りである。
様々ある魔術の法則、根源、適応のない流派や系統を独自に学んでいるだけではなく、アルフォンスはこの大陸に生息している全ての魔物をも詳しく研究している。
同様にドラゴンの生態をアルフォンスはしっかりと細かに学んでいた。
それも毎日だ。
勇者と同行する以上、遭遇率が高い脅威であるのには変わりない、備えが必要なのだ。
どのように仕掛ければ倒せるのか、致命傷を負う部位や弱点、何通りもあるドラゴンの攻撃パターン。
アルフォンスは研究を怠ったりはしなかった。
なのにそのアルフォンスが大声を発しながら背中をドラゴンに向け、喰い殺されてしまった、とルークは言った。
そんな彼のいい加減すぎる発言にルージュは違和感を抱けずにはいられなかった。
そして確信する、この男は信用ならない。
嘘をついているのは確実である。
「そうですか、先生は……」
眼鏡に反射する光によって隠れる瞳を三人の方へと向け、ルージュは本来の感情を押し殺しながら確認するように聞いた。
「けっして貴方がたの非道な手によって、その命を落としていないと……そう言いたいのですよね?」
良からぬことを問い詰められた犯人のようにルークはキョドり始める。
唐突な質問にルークは焦る、やはりこの女は大賢者の称号を持つ『クソッタレなアルフォンス』の弟子だけあって勘が鋭い。
だがまだ、真実を確信していないのかもしれない。
隠し通すのだ、特にこの女からは絶対に。
ルークはそう思っていた。
もしここで、次の言葉を間違えたりしたら一発で自分が嘘偽りを言っているのを勘付かれてしまう。
(ああ、クソ。アルフォンスの野郎が死んだってことにして、この餓鬼の絶望した表情を拝んでから……励ますフリをして寝取ってやろうと思ったのによ。クソが)
「ああ、そうだよルージュ。確かに俺たちにもアイツを死なせちまった責任がある。だけど、アイツを見捨てちまうほど俺らは腐っていねぇ。
どうして俺たちがあんな優秀な奴を死なせなければならねぇんだ? アイツにはもちろん嫉妬していたさ、だけど同時に憧れだって抱いていたんだよ。だからこそアイツが死んじまった事を非常に悲しく思う……うぅ……アルフォンスの野郎、どうして先に行っちまうんだよクソ」
と我ながら迫真な演技を披露してから、目を両手でふたたび覆ってみせる勇者ルーク。
その姿を見て、ルージュは顔色ひとつ変えずに頷く。
「そうですか、分かりました。毎回のように先生を陥れようとする貴方達に一瞬だけ疑いを持ちましたが、流石に考え過ぎたかもしれません」
大人しく頭を下げながら謝罪するルージュ。
「お、おう! 別にどうって事ねぇよ……! こう見えても俺は勇者であり寛大な心を持つ者。疑ったことには気にかけたりはしない」
ルークは密かに心の中で安堵をした。
気を抜いたりしたら、この女の『眼』によって全てを見透かれてしまう。
(チッ、アルフォンスの奴はどうして妙な奴らばかりと連むんだよチクショウ)
顎に手をあてながら考えこむルージュをこっそりとルークは睨みつけながら、アルフォンスへの皮肉を心で何度も繰り返す。
アイツは嫌いだ、俺が肯定すればアイツは否定する。
逆にアイツが肯定すれば俺は否定する。
まったく気が合わないのだ、それに勇者である自分より奴が注目を集めている。
それが何より気に入らない。
奴が死んでルークはそれを良いことに優越感に浸っていた。
この世界に残ったのはアルフォンスではない、自分である。
まるで長年の競争に勝利したような気分にルークは酔っていた、最強と謳われた自分と並ぶ奴はもう居ないのだ。
この世界でチヤホヤされるのは自分だけで十分。
アルフォンスが残してきた大切な物をすべて踏みにじって奪ってやる。
もちろん、目の前にいるアルフォンスの愛弟子であるルージュさえ犯して自分の所有物にしてみせる。
まだまだ年齢的には幼いが十分なまでの魅力を持ち合わせている。
清潔感のある容姿がなにより自分好みだ。
フッ、まあ待て、落ち着け。
俺は決してロリコンという訳ではないぞ。
ただの小動物好き………さ。
ーーー
勇者ルークが魔術師ギルドから立ち去って三十分後、ルージュはギルドの建物の奥にある書斎へと向かった。
途中、何人かの職員に話しかけられるも彼女は『なんでもありませんよ……?』と、ぶっきらぼうに答えた。
どうせすぐ、勇者ルークが王へと報告して国中に広まる話しだ。
今ここで話したところで何も変わったりはしない。
そう判断したルージュは自分に気にかけてくれる職員達には適当な返事を返した。
自分には今、やらなければけいない事があるのだ。
まずは勇者一行が本当に真実を口にしているのか。
イマイチ疑うしか無かった。
途中のルークの演技には驚かされてしまったルージュだったが、騙されたりはしなかった。
ルークは何か良からぬことがあると、目を覆ったり閉じたりする癖がある。
ルージュは予想した、自分と目を合わせなかったのも自分の能力に用心していたからだろう。
背後のユキハラとエリスも同様である。
人に隠すのが本当に下手な奴らだと、ルージュは呆れるのだった。
まさか、先生であるアルフォンスがあんな奴らのせいで亡くなってしまうだなんて。
ルージュは湧いてくる悲しさと悔しさで胸が張り裂けそうだった。
「私の『真正眼』が彼らの目と重ならない限り真実を映像化できない……一体どうすれば」
書斎に辿りつくと、ルージュは閉じた自分の右目の瞼を撫でる。
この眼は、かつてこの大地に訪れた神聖なる者に授けられた真実を見通し具現化する代物である。
ルーク達はそれを存知ているからこそ、ルージュと目を合わせようとしなかったのだ。
「……先生」
撫でた瞼の隙間から、涙が滲み出てしまう。
この書斎はかつて先生が利用していた場所だ。
後からルージュに託し、旅へと出て行ってしまった。
だがルージュはアルフォンスがいつでもこの場に戻って来られるよう、書斎を手入れしながら大切に管理している。
先生、待っていてください。
奴らの非道な手によって命を落としてしまった貴方の為、必ずもやこのルージュが奴らを白日の下に晒してみせましょう。
どのような手を使おうとも。
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