S級パーティから追放された幸運な僕、女神と出会い最強になる〜勇者より先に魔王討伐を目指す〜

灰色の鼠

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第5章 ー黒竜侵食編ー

第48話 『黒竜の討伐 ②』

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 ーー雪降る灰色の空を見上げながら思う。

 この世界に訪れてしまってから、一ヶ月が経過する。

 ジュリエットの意識は未だ戻っていない。
 ここに転移してしまった理由もまだ分かっていない。

 ただ今、分かっていることは自分に通常魔力の適正が低いという衝撃的な事実だけ。
 ローラにそう告げられて呆気にとられてしまった。
 ローラ曰く、別に魔力を体内に取り込む才能が僕に無いわけじゃないらしい。
  
 詳しくは説明出来ないようだけど、ローラ曰く僕は通常魔力の適正は低いが(・)、他の魔力を体内に取り込める『魔力器』が僕の中にはこっそりと存在しているらしい。

 それが何なのか分からない。
 だけど僕が取り込もうとする通常の魔力をひどく拒絶するらしい。

 だからこそ魔法や魔術をいざ使おうとすると、中々うまく発動できないのはソレが原因だとローラは推測し、極力僕に魔力の使用を控えさせた。

 最初は不憫に思っていたけど毎日剣術を身につける日々、魔力の無い生活に段々と慣れ始めた頃、魔力を使用しようという意識が薄くなっていった。
 おかげで、ひ弱で今まで弄られてきた僕の身体能力はエルフ族と並ぶ程のものとなっていた。

 ローラと剣を交える時も同様、彼女の攻撃パターンが不思議なくらいに最近見えてきた。
 前までの僕はローラの猛烈な一撃と追撃を防ぐのに精一杯だった為、活用すべき視野を上手く活かせていなかったと最近自覚。

 いざ冷静になりながら目を凝らしてみたら、ローラの構え方と姿勢でどのような技を放ってくるか見極められるようになっていた。
 そして、同時に気がつく。
 あえて何度も同じ攻撃方法を、繰り返しローラは仕掛けていた事を。

 それに今まで気がつかなかった無能な自分に一瞬だけ嫌気がさしたが、そうとなればローラの繰り返す動きに慣れつつ、ミスを修正するのに専念した。
 反省すべき点はなるべく早めに改善しつつ、次の段階を早歩きで目指す。



 ーーそんな事を続けていたら、いつの間にかローラと互角に戦えるようになっていた。

 彼女と剣を交え慣れたという感覚のおかげなのか、それとも自分の能力が前より確実に上達したおかげなのか。

 ローラは非常に嬉しそうに笑いながら僕を見つめていた。
 まるで、我が子の成長を見届けているような、どこか悲しそうな瞳で……ずっと。

「えっ!」


 ーーーそして遂に僕は、稽古でローラから一本取ったのだった。



 ※※※※※※



 エルフ領。
 エルロンド邸にて。

 肌寒い時期に突入してから、屋敷に侵入してくる寒さを凌ぐために僕は暖炉前にずっしりと座りながら、体を温める。
 そして一人で読書。

 一人でだ……ここで働く使用人はどうやら居候の身である僕の世話をしたくないらしく、エルロンドがいない時はとても冷たい態度で接してくる事が多い。
 そんな日々は『漆黒の翼』パーティでもう十分味わってきたので、別に気を悪くしたりはしなかった。

 もし自分家に得体の知れない人が居座っていたら、誰もがきっと嫌がるだろう。
 世話も勿論する義理がない。
 といっても僕は此処に長いする気はない、もう時期この大陸で行われる『精霊願の日』を待っているだけだ。

『精霊願の日』
 精霊大陸中央部に生えている精霊樹に異なった全種族が集まって試練に挑む伝統的な儀式である。
 全ての試練を乗り越え、最後の一人になるまで続くと言われ、最後に残った勝者は精霊樹の種を植え、全世界に魔力を与えた人物に願いを聞き入れられてもらえるらしい。

 数千人もの挑戦者の中でたった一人。
 一人になるのは僕の得意分野だ、きっといけるハズさ。
 騎士ローラのおかげで剣術の方は順調だし、魔力をずっと押さえ込んでいたおかけで無意識に魔力の制御が上達していた。

『風球』という風魔法の塊を数個ぐらい作れるようになっていた。
 威力は申し分ないはしいので、いざという時は遠距離に役立つだろう。

 ……そういえばローラと稽古する機会が最近減っているような気がする。

 精霊願の日の準備でエルロンドの護衛もあるだろうけど、ローラから一本取って以来、彼女からの指導は完全に途絶えていた。
 会えば無言で稽古をして、引き分けて無言で終了するぐらいだ。

 トレースの方は相変わらずだった。
 仕事をしていないのか、四六時中は酒を飲んでは酒瓶を手にして街を徘徊している。
「平和だから、いいのだぁ~」が彼の口癖だ。

 確かにここら目立った事件も起きていないし、起きるとしたら酒場での乱闘ぐらい。

 酒場と言えば、トレースに一度は連れて行かれて浴びるほど飲んだ事がある。
 酒場は名前は『奈落』。
 なんだか縁起の悪い名前がつけられているようだが、理由はそこで働くマスターしか知らないという。

 その酒場で知り合いも沢山できた。
 ほとんどが自由気ままな長耳の冒険者で、エルフ領だけではなく傭兵として全大陸を渡り歩いているらしい。
 冒険者ギルドという組織が結成されていないので、依頼は自ら赴いて探しにという。

 当時は大変でしたねぇ~、と未来を生きる自分らがどれだけ楽なのか実感できる時代だ。

「やぁ、ネロさんや。今日も暇そうだな」

「………ガレルさん?」

 読書を止めて考え事をしていると、後ろから肩を叩かれる。
 振り返ると、酒場で最近知り合った冒険者のガレルが立っていた。
 腰には剣、彼は剣士である。

「そーんなに暇ならさ、一緒に探索いかね?」

「……確かに暇ですね。けど、急なのでまだ支度してませんよ僕?」

 彼とは先週酒場で飲んでいた時に知り合い、実力を見込まれて魔物の討伐などに付き合わされ、それから探索とかも誘ってくるようになっていた。
 屋敷の主であるエルロンドに、ガレルやその他の知り合いの事とかはもう話をつけているので、彼はこうやって屋敷に入れる。
 けどやっぱり、使用人は相変わらず嫌な顔をしていた。



「さっ行きましょう」

 携帯食や小道具、必要な物をリュックに詰めた僕は待っていてくれるガレルや、その他の仲間の元まで急いだ。

 屋敷の外には四人、冒険者の貫禄をした集団が僕を待っていてくれた。
 その中の一人、小柄な金髪の少女と目が合う。

 彼女は僕を見ると嬉しそうに近づき、無言で手を差し出した。
 僕も同様に手を差し出して、二人でハイタッチを交わす。

「きゃー!  もう相変わらずネロちゃんは男のクセ、健気で可愛いんだからぁ!」

 急に豹変した彼女に強い力で体を抱き上げられてしまう、足が地面から離れていた。
 流石はエルフと言うべきか、人族とは比べられないぐらい怪力だ。

「痛いっ痛い!  エレナちゃん痛いからぁ~!」

「ああ、ごめんね!  尊すぎて……つい」

 顔を青くする僕を心配そうにエレナは地面にゆっくりと下ろした。
 よろける僕にすぐ側にいた弓を背負った男は、肩に手を置いて体を支えてくれた。

「……申し訳ありません、ロインズさん」

「いい、気にするな」

 フッ……小さく笑いながらクールに振る舞うこの男は、弓使いのロインズ。
 同じく酒場で知り合い、初対面の時はエレナと一緒に飲んでいた。

「さて。ネロも来たことだし皆さん、探索しに早速出発しましょうか」

 そしてもう一人。

 パン!!

 眼鏡をかけた紺色のショートボブの女性は手を叩いて注目を集めた。
 その手には長い高価そうな杖が握られていて、魔道士だと一目で分かるような見た目だ。

「マーラ、その前に必要な物を忘れていねぇか、まずは私物の確認だ。肝心な時に持っていなかったら話になんねぇからな」

 彼女の名前はマーラ、職業は魔道士のエルフ。
 周囲のみんなと同様、冒険者として大陸を旅している好奇心旺盛な性格の女性だ。

 剣士が2人、弓矢使いが1人、魔道士が1人、昔からこの四人でパーティを組んでいるらしい。
『フェアリダンス』この大陸では有名な冒険者パーティとして活躍している集団だ。
 全員腕利きのベテラン冒険者で、西方の森の奥地に生息する危険な魔物『毒牙オロチ』さえ四人だけでもコテンパンにやっつけてしまうほどの実力を持っている。

 そのパーティを支えているのが、パーティリーダーの剣士ガレルだ。
 酒癖が悪く、女癖も悪い性格の捻くれたエルフだが、それは外見の印象で実際は性格の良いダンディーな青年である。

「あのさ、ネロ。聞かなくてもいい事は分かってんだけど、お前……今夜も行くのかよ?」

 ガレルが突然改まって質問してきたので、なんなんだろうと気になったが……そんな事か。

「そりゃ、勿論ですよ。こう、時間を無駄に出来ませんからね」

「そうか……可能性はあるのか?」

 今夜。
 いかがわしい店に来店する訳ではないし。
 犬や猫、ペットを探しに出かける訳でもない。

「可能性もなにも………ジュリエットが、待っていますから」

 あれは先週、このパーティと街で働く薬草屋の男を依頼で護衛していた時だ。

 偶然会ったガレル達に依頼の手伝いを誘われて、お小遣い稼ぎにも丁度いいし断る理由が一切ないので、ガレル達と共に護衛についた。
 護衛対象は気のいい若い男。

 森での薬草採取中に何度か会話を交え、仲良くなって、互いの事について話したのが始まりだ。

 どういう流れで口にしてしまったかは覚えていないけど、魔力を過剰に摂取してしまった場合の治療法や薬はないか?  と彼に聞いたところ……あまり知られていないが、多分だけど存在しているらしい。

 名前は『マナイト草』希少な薬草で、魔力器に流れ入ってくる外部の魔力を一時的に遮断させる効果があるらしい。体内に溜まった魔力は時間が経てば自然に外へと流れ出てくるので、飲ませるだけで十分だと言う。
 だけど、希少と言えば稀にしか生えていないと言う事なので採取するのは、とてもじゃないが困難だと彼に言われる。

 だけど、その僅かな情報だけでもジュリエットを救える可能性が大となった。
 実行しないワケにはいかない。

 こうして毎日僕は、生えていそうな場所を手当たり次第に探し回った。
 特に夜が一番いいらしい、なぜなら『マナイト草』は青く発光しているからだそうだ。
 すぐに見分けられそうなので、夜を中心にしながら僕は一人で探索していた。

 魔物、特にゴブリンが活発的に活動する時間帯なので用心しながら森を進んでいくが、やはり遭遇してしまうものは遭遇してしまう。
 それも集団でだ。

 普段なら尻尾を巻いて逃走しているが、気づけば数分程度で全滅させていた。
 魔力はあまり使用していない、短剣のおかげだろう。

 関心しながら探索を続けるが、発見は出来なかった。
 そんな事を繰り返しながら日々が過ぎていき、気づけばガリル達にも手伝ってもらうようになっていた。

「俺たちにも手伝わせくれ。お前にはいつも借りばかり作らせちまっているからな、そのお返しということでいいよな?」

「私はかわいいネロちゃんのお役に立てるなら別に借りとかは関係ないんだけどねぇ~」

「フッ………いいだろう」

「アタシもその薬草、興味があるから一緒に探すよ?  まあ……1つしかないのなら、仕方ないのでネロに譲りますよ」

 やる気満々の様子で、パーティの皆は僕の肩を叩いてきた。

 なんやかんや、このパーティと出会えて本当に良かったと心底から思う。
 もしこのまま探索を一人で続けてきたら、効率は悪いままだっただろう。
 ジュリエットもいつまで保つかは分からない、気がついたら死んでしまった………なんて最悪な状況だけは避けたい。

「さて、出発するぞー!」

 ガリルの号令と共に、フェリアの街を出発した。
 目指すはエルフの北方の森の辺境にある『大地の渓谷』だ。
 地図をあまり目にしないが、精霊樹に最も近い渓谷であり、エルフ騎士団の拠点があると聞いたことがある。


 面倒ごとだけは、なるべく起こらないよう祈った。
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