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あらら

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父の影

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ある日、背の高い男が未来の部屋を訪ねて来た。

「松本未来先生ですか?」

男は、紳士的で低い声だった。

未来は、何故か吸い込まれるような気持になった。

「君の父親、松本哲児です。」

「と、父さん?」

未来には青天の霹靂だった。

物心ついた時から、父さんがいない生活に慣れすぎていた。

「未来、君に一目会いたくて…。では失礼。」

「父さん待って!」

未来は、呼び止めたが、男は消えてしまった。

そこで、未来は夢から覚めた。

妙にリアルで自分の瞳に似ている眼を持っていた。

佐智に父親の事は聞いたことはなかった。

どこかで父親を無意識に求めていたのかもしれない…。

佐智から、連絡があった。

「未来、お父さんの事、知りたいの?」

「別に…。」

「じゃあ、何で、あんな小説書いたの?」

夢に出てきたと説明した。

「未来、それ、本当に夢?お父さんは背が高くて瞳がとても未来に似てるのよ。」

未来は、言葉が出なかった。

佐智と話し終わってから久しぶりに礼二が訪ねて来た。

「よ、花火丸!ボウリング行くぞ。」

「はい。」

「珍しく素直じゃあねーか。」

一人でいたくない気分だった。

ボウリング場に着くと未来は

「上野さんの、お父さんってどんな人ですか?」

と礼二に聞いた。

「クソ真面目な公務員だよ。」

「ふーん、だから、上野さん不真面目なんですね。」

「まあ、反面教師だな。真面目過ぎて出世できないタイプだった。」

未来は、ふーんと呟いてボールを投げた。

「今日、わたしが勝ったら朝まで一緒にいてください。」

「え?」

礼二は、ボールを隣のレーンに投げてしまった。

ボウリングは、未来の勝ちだった。

礼二は、仕方ねーとばかりの顔で未来の部屋に入った。
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