妊娠条令

もう一人の男

ため息が巡りめぐって自分の体に入るのを男は感じた。

日本本土で、生き残った男、二階堂治。

焼け野原になった日本で生きている、たった一人の男。

男は10年間、ある写真を見てマスターベージョンをしていた。

イク前に必ず【葵！】と小さく呟いている。

遠い親戚の葵に二階堂は恋していた。

しかし、口も聞いたこともなかった。

二階堂は、大変モテる男だった。

今、一緒にいる渚は生き残った、たった1人の女。

二階堂を溺愛している美女だ。

「ねぇ、今日のお仕事終わったの？」

渚は二階堂に毎日聞いてくる。

お仕事とは、マスターベージョンの事だ。

「あぁ‥。」

「じゃあ、今度はわたしとセックスね。」

二階堂は、無精子病だった。

毎日、渚の中に射精しても渚は妊娠しなかった。

二階堂には、ささやかな夢がある。

葵と会う事だ。

何故かいつか会えると確信しながら渚を抱いている。