Vegetables

二一

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Vegetablesー1-

7日目 日曜日 2

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「よぉ! 律、日曜にどうした?」

「おやっさん、わりぃけど何かある? 昼、食いそびれた」

「日替わりの残りでいいか?」

「なんでも」

「そっちの兄ちゃんは?」

「こいつはもう食ってるから、あとで茶だけもらえる?」

 はいよ、と店主が応えて厨房に入っていった。日替わりといっていたけど店内を見渡してもどこにもメニューがない。日替わりの内容がなんなのか気になる。

 油で揚げる音が聞こえて、いい匂いが漂ってきた。多分メインは魚系のフライだ。

 店主自ら席に運んできて、俺の前には冷たい茶のグラスを置いてくれた。律は相当空腹だったのだろう、ものすごい勢いで食べ始めた。

「それ、なんのてんぷら?」

 ついつい気になって聞いてしまった。白身なのは見えたのだけど、種類がどうもわからなかったのだ。

「? さあ? 食ってみるか?」

 律も知らずに食べているらしい。一切れ差し出されたので、ありがたくもらって食べてみた――なんだろう?

「兄ちゃん、なにか分かるか?」

 店主が面白そうに声をかけてきた。まったく検討がつかない。一般的に売っている白身の魚のどれとも一致しない。淡白で独特の歯ごたえがある。

「全然わかりません。コレ、何の魚ですか?」

「わからねぇだろ? それな、マンボウだ」

「マンボウ!?」

 俺と律の声が重なった。律も勢いよく食べていた手が止まり、マンボウのてんぷらをまじまじと見ている。

「はじめて食べた……っていうかマンボウって食べられるんだ」

 今日いちばんの衝撃かも知れない。あのイラストなんかでよく目にする、のほほんとした魚を食べているとはちょっと信じられなかった。

 店主にごちそうさまと声をかけてから、ふたたび律の車に乗って走り出す。いったいどこに向かっているのだろうか。

 車は郊外へ出て三十分ほど走り、ビニールハウスが立ち並ぶ一帯に出た。倉庫のような建物の脇に車を停めて律が歩き出す。俺も慌てて後追った。

「前田さん! 葛西です!」

 律が倉庫の中に向かって大きな声を出した。中からは律よりもやや年上に見えるガッチリとした男が出てきて、こちらにむかって手をあげている。

「律、来たか」

「今年の芋のほうはどんなもんですか?」

「なぁ、暑さがキツイからなぁ。甘さはあるが小粒だな。収穫までにもうちっと雨が降ってくれたら巻き返すんだけどな」

 どうやら仕事関係の相手らしい。しきりに野菜の出来について話をしている。

 ひとことくらい言えよと思いながら、自分も聞かなかったことに思い至った。とにかく、仕事の話なら俺には分からないし、どうしようもないので倉庫の周りを散策することにした。
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