Vegetables

二一

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Vegetablesー1-

7日目 日曜日 4

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 律を映した俺の目にキスをされ目を瞑ってしまう、そのまま深い深いキス―― 吐き出そうとする吐息も残らず吸われ、息苦しさと恍惚感に眩暈を覚えた。

「……千章……」

 耳元で律が囁く。身体の芯が震えるような低い音。

 これは本気でやばい。俺はやっと我にかえった。

「……っちょ、ちょっと待ってっ!」

 逃げようと身体をねじるが、律の全体重がのしかかっていて全く動かない。逆に絡みつかれたようにどんどん身動きができなくなっていく。

「逃がすかよ」

 真正面でいっときも逸れない視線に、本気だ、と悟った。

「……逃げない、から……待ってっ」

 俺も覚悟を決めて正面から律を見据える。お互いに視線をそらすことなくジッと止まったままだ。

「――とりあえず、聞きたいことがあ・る……」

 緊張で声がかすれた。そりゃ男に襲われかけてるんだから俺の焦りも当然だろう。そもそもこいつは何のつもりで――。

「どうして「俺」なわけ?」

 なにか理由があるとは思えなかった。

「それ、聞かなきゃわからねぇことかよ?」

「わかるわけねぇだろ」

「そんなもん、惚れたからに決まってる」

「はあ!?」

「それじゃあ、おまえは惚れてもない相手、押し倒す理由が他に思いつくのか?」

 律の声は少しイラついている。でもそんなことを言われても――。いや、そもそも惚れていてもいきなり押し倒すことはないんじゃないか?

「惚れられるような理由が見つからない」

「理由、必要かよ?」

「当たり前だろ」

 そういうと律の顔が少しだけそれた。もしかして照れてたりするのか? こいつに限ってそんなことないか。

「……最初は食材を大事に扱うやつだと思った。あんだけ料理してたのに野菜くずとかほとんど出てなかったしな。あと、ばあちゃんのこと考えてつくってたメニューとか」

「それって普通だろ。仕事だし」

 食べられる部分を捨てるのは俺の主義に反する。でもそんなところに気づいていたなんてかなり意外だった。

「虫がいてる野菜のほうがいいって言った。あと、うちの野菜をうまいって言った」

「そんなの俺だけじゃない」

「けど笑いかけただろう?」

「それは、女の振りしてたから……っ」

「真面目なのに意外と流されやすい」 

「褒めてねぇしっ」

「困った顔してるとこ。簡単にキスを許すとこ」

「許してねぇよ!」

「今も困った顔してる。あとキスしたときのエロい顔」

「もういい! しゃべんな!」

「聞きたがったのはそっちだろ。いくらでも言ってやる」

 顔に血が昇る―― 次の言葉が出ない。ここまで誰かに好きっていわれたのなんか生まれて初めてかも知れない。

 すっと重みが外れて腕を引かれた。草の中に律と向かい合って座るような形になる。

「俺からも聞いてやるよ」

「……え?」

「俺が嫌いか?」

 正面から問いただされて戸惑う。

「……別に……」

「二択だ。好きか――。嫌いか――。それ以外の答えは受け付けない」

「そんなの……」

「おまえが「嫌いだ」と言うなら、今ならまだ止めてやるよ。そうじゃないなら、もう、容赦はしねぇ―― どっちか答えろ。無言は肯定とみなす」

「っそんな、ムチャクチャなっ!」

「俺は気ぃ短いからな、さっさと言えよ」

 簡単だ。たった三文字を口にすれば解放される。なのに喉の奥まででかかった言葉を、俺はなぜか口に出すことができなかった。
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