Vegetables

Vegetablesー１－

２週目 火曜日 ３

　帰りは律がワゴンで送ってくれた。この後、懇意の弁護士さんに相談に行くらしい。その前に―――。

「悪い、ちょっと停まって」

　いきなり声をかけた俺に、いぶかしげな視線をよこしながらも律は少し広くなった路肩に車を停めてくれた。

　俺は携帯を取り出して見慣れた番号にかける。

「おい、急ぎじゃないなら帰ってから……」

　相手が電話に出た。律を手で制して電話に出る。

「智か？　今仕事中？　ちょっと人のいないトコ行けるか？」

　電話の向こうに俺の声が漏れ聞こえないようにと小声でしゃべる。電話の向こうで智が移動する音がした。

「あのな、そこで食中毒って聞いたんだけど――　うん――　やっぱりか――　宮本さんは？　――　辞めた？　――他にあれから辞めた人いる？　――尾根さんと町田さんと？　――智、わりぃんだけど、辞めた人の名前と電話番号わかるだけでいいからメールしてくれねぇ？　――　助かる――　俺？　今さ、葛西商店ってとこで働いてる――　そう、今そことトラブッてるんだろ？　――うん、わかった――　じゃあ頼むわ」

　会話の途中から律の顔が真剣になったのがわかった。俺もちょっとくらいは役に立てるかも知れない。

「千章……今の電話」

「昔からのつれだけど、今極楽リゾートで働いてるんだ。俺も今年の五月くらいにそいつの紹介で働いてたんだけど一ヶ月ももたなくて辞めた」

「なにかあったのか？」

「……使い回ししてんだよ。あそこ」

　だれもいないと思いつつ、声をひそめてしまう。

「使い回しって……食いもんか！？」

「そういうこと。だから食中毒って絶対そっちが原因に決まってる。俺が辞めた理由もそれ」

「チクろうとか思わなかったのか？」

「一瞬考えたりはしたけど、辞める人間がそれをやると、残るやつに迷惑がかかるだろ？　辞めたくても辞められずに働くしかない人もいたし……けど、自滅するならともかく、よそに罪着せようとするのはさすがに黙ってられねぇからな」

　そうこうするうちにメールの着信があった。開いてみると智から五人分の連絡先と最後に「がんばれ」のデコレーション。あいつらしくて笑ってしまった。

「これ、辞めた人の連絡先。今働いてる人は多分何も言えないと思うけど、辞めた人なら何か証言してもらえるかも知れないだろ？　この一番上にある宮本さんってのは、俺が働いてたとき調理場の責任者やってたおっちゃん。この人だけが上に改善の要望とか出してたんだ。多分力になってくれると思う。あんたの携帯に転送するからアドレス出せよ」

「今の千章のツレは大丈夫なのか？」

　情報をくれた智を心配してくれているようだ。強引で強気な律だけど、時々驚くほど細やかな一面を見せる。

「智は今、転職活動中。次が決まったら辞めるって言ってるけど中々決まらないみたいだな。俺だってこの通り、あれからプーだし。就職先はいきなり倒産だし、次の仕事は散々だったし仕事運ないよなぁ」

「倒産？」

「浜どおりの「由乃屋」ってあっただろ？」

「あそこか。気のいい社長だったけどな」

　メール転送完了。律は普段使い慣れてないのかメールの操作は遅かった。

　これが葛西商店の助けになればいいけど。