悪役令嬢と氷の騎士兄弟

飴爽かに

文字の大きさ
8 / 25

夜会のはじまり

しおりを挟む
夜会の日はすぐに訪れた。
水晶の光る、キラキラのカーペットを淡いピンク色のドレスで歩く。
シルバーの大きなリボンがついたミュールは可愛くてお気に入りだ。

約2週間くらい、ノア殿下と言い合いをしてから彼とは一言も話していない。
目が合えばさっと先に彼が逸らす。

今夜の夜会は、私とノアが話すことはないかもしれない。
そうしたら、他の令嬢達が私たちの間の微妙な空気感に気がついて、今がチャンスだとばかりにノア殿下に近づき、そのうちの誰かともっと親密になるかもしれない。
そしてその人が新しい婚約者になるのかもしれない。

そうなればいいのだ。

物語のなかの悪役令嬢。私はそもそも彼に婚約破棄される運命なのだから。
その形が変わっただけ。

でも、悪意のある人間にこの世界を崩されるのは許せない。
今日は、誰かが転生しているレイアに会って話ができる。

緊張で冷たくなった手でドレスを握りしめた。

夜会が始まると、次々に色とりどりのドレスで煌びやかな令嬢たちがやってくる。
私が最初に話しかけたのは、会場の隅に佇んで動かない、女性だった。

「お久しぶりです。姉様。」
「あら、久しぶりココ。最近はどう?ノア殿下と仲良くしているの?」
「いや、それが…」
「まあ、早く結婚するなり、離れるなりしなさいよ。」
「えぇ?」

気せんのない物言いをする彼女。
薄紫色のロングの髪を縦にくるくると巻いている。
ココ・レイルウェイズ私の姉、リリア・ルーテルだ。
リリアは第1王子の婚約者だったのだが、遠い国の小国の王子と知り合い、恋に落ちて、駆け落ち同然で、その国のもとに嫁いだ。
破天荒で、自由気ままな姉である。

「私のせいであなたにかかるプレッシャーが大きくなったのかもしれないけど、あんな両親のことなんか気にしなくていいのよココ。好きにしなさいね。」
「え、…えぇ。」
私は両親と変わらず良好な関係を築いているが、リリアは両親と長い間まともに話していない。

「ミレサ王子はどちらに?」
ミレサ・ルーテル。それがリリアの結婚相手である。
「私のわんこちゃんならあそこに居るわよ。」
指さす先に、他の令嬢に話しかけられているミレサ王子がいた。
「姉様、旦那様をわんこ呼ばわりはよろしくないと思います。…というか、女性に大人気ですね。」
「ほんとね。まったくあの子は。よく言い聞かせないといけないわね。」

S気質の姉は、優しい王子を尻にひいているようだ。旦那というより、飼い犬のように接している姿に彼が心配になる。

「それにしても、今日はノア殿下狙いが多いのね。」
リリアの視線の先を見ると、華やかな令嬢たちに囲まれているノアがいた。
もともと仲のいい令嬢は多いのだが、今日は私とノア殿下の仲がよろしくないという情報がもう回っているのだろう。
いつもよりたくさんの令嬢を彼の周りに携えていた。

「ええ。そうです。私が彼と婚約解除をしたいと、考えているという情報が、令嬢達の間で知れ渡っているからです。」
そう言うとリリアは驚いた表情を浮かべた。
「まあ、そうなの。…まあ結局ノア殿下もユアン殿下の弟だものね。似ているのかもしれないわね。」
「え?」
リリアは、ミレサ王子と恋に落ちたからユアン殿下との婚約を破棄したのかと思っていたが、他にも理由があったのだろうか。

「でもユアン殿下よりずっとノア殿下の方が良いと私は思うわ。それじゃあまた後でね。」
そう言うと、リリアはミレサ王子を令嬢から引き剥がしに行った。

次は誰に話しかけに行こうと思っていると、向こうから走りよってくる足音が聞こえた。
「ご機嫌よう、ココ様、お元気でした?」
「あら、ライラ、ご機嫌よう。私は変わりないわ。あなたもお変わりない?」
「ええ。私は変わりないですわよ。でも、ココ様は、違いますでしょ?あの話はほんとう?」
ユーリアと同じ白銀の髪を耳の下でツインテールにしている目の大きな可愛らしい女の子は、ライラ・クリスフォード。
ロシェルと、ユーリアの親戚にあたる女の子だ。

「残念ながら本当よ。ノア殿下と婚約解除を考えているの。」
「やっぱりそうですの?!」
そう言うと少し考え込む表情をしたあと、私の耳に顔を寄せた。
「ココ様、わたし、ノア殿下本気で狙いに行ってもかまわないかしら?」
わたしはそう来るだろうなと想定していたから驚かずに頷いた。
「もちろんいいわよ。応援するわ。」

物語の中で、ココとライラは仲が良い。
なぜなら、敵の敵は味方。レイアのライバルという立場からして、近しいところにライラは居るのだ。
ライラはノア殿下に純粋に恋をしている。
立場を求めて彼に近寄る他の令嬢たちとは一味違うのだ。
物語のなかでは、嫉妬心からレイアに悪事を働き、その悪巧みが明るみに出て、ノア殿下からは嫌われてしまい、恋は叶わない。しかし今回は私が自分から引く隙に、頑張って欲しいと思う。

この子を見ていると、純粋に人を想う恋の楽しさを思い出す。

「ノア殿下のどんなところに惹かれているの?」
「そうですわね…」
頬に手を当てて考える姿勢に入ったライラの視線の先にはノア殿下がいる。

「私、ノア殿下は人に平等だなと思いますの。」
「平等?」
「ええ。一見、いろいろな令嬢たちに手を出す優柔不断な方と見受けられます。でもノア殿下は、きっともう二度と会わないような小さな村の娘にも優しくできるのだわ。ほんの少しの接点だけでも人の良いところを見つけてくださるのよ。」

恋愛フィルターが掛かっているからじゃないのかな、と思うけど、正直その理由はなんとなく私も理解出来る。

「高貴な令嬢にもそこらの町娘にも同じように接してくださる。だからこそ私のような貴族の女ほど、彼に恋するのだわ。町娘の良さまでも見つけられる方ならきっと誰にも見つけてもらえていない私の良さも見つけてくれるって。」

きらきらとした潤んだ瞳で語るライラがこんなにも可愛く見える。
あぁ、いいな。
『レイアと星の国』この物語を初めて読んだ小学生の時の私も同じ理由で彼に恋をしたっけ。

ずっと忘れていた気持ちを思い出しながら久しぶりにきちんと彼の顔を見た。
私がこの物語を好きな理由はやっぱりあなたにもあったのかもしれないね。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『嫌われ令嬢ですが、最終的に溺愛される予定です』

由香
恋愛
貴族令嬢エマは、自分が周囲から嫌われていると信じて疑わなかった。 婚約者である侯爵令息レオンからも距離を取られ、冷たい視線を向けられている――そう思っていたのに。 ある日、思いがけず聞いてしまった彼の本音。 「君を嫌ったことなど、一度もない」 それは誤解とすれ違いが重なっただけの、両片思いだった。 勘違いから始まる、甘くて優しい溺愛恋物語。

転生賢妻は最高のスパダリ辺境伯の愛を独占し、やがて王国を救う〜現代知識で悪女と王都の陰謀を打ち砕く溺愛新婚記〜

紅葉山参
恋愛
ブラック企業から辺境伯夫人アナスタシアとして転生した私は、愛する完璧な夫マクナル様と溺愛の新婚生活を送っていた。私は前世の「合理的常識」と「科学知識」を駆使し、元公爵令嬢ローナのあらゆる悪意を打ち破り、彼女を辺境の落ちぶれた貴族の元へ追放した。 第一の試練を乗り越えた辺境伯領は、私の導入した投資戦略とシンプルな経営手法により、瞬く間に王国一の経済力を確立する。この成功は、王都の中央貴族、特に王弟公爵とその腹心である奸猾な財務大臣の強烈な嫉妬と警戒を引き寄せる。彼らは、辺境伯領の富を「危険な独立勢力」と見なし、マクナル様を王都へ召喚し、アナスタシアを孤立させる第二の試練を仕掛けてきた。 夫が不在となる中、アナスタシアは辺境領の全ての重責を一人で背負うことになる。王都からの横暴な監査団の干渉、領地の資源を狙う裏切り者、そして辺境ならではの飢饉と疫病の発生。アナスタシアは「現代のインフラ技術」と「危機管理広報」を駆使し、夫の留守を完璧に守り抜くだけでなく、王都の監査団を論破し、辺境領の半独立的な経済圏を確立する。 第三の試練として、隣国との緊張が高まり、王国全体が未曽有の財政危機に瀕する。マクナル様は王国の窮地を救うため王都へ戻るが、保守派の貴族に阻まれ無力化される。この時、アナスタシアは辺境伯夫人として王都へ乗り込むことを決意する。彼女は前世の「国家予算の再建理論」や「国際金融の知識」を武器に、王国の経済再建計画を提案する。 最終的に、アナスタシアとマクナル様は、王国の腐敗した権力構造と対峙し、愛と知恵、そして辺境の強大な経済力を背景に、全ての敵対勢力を打ち砕く。王国の危機を救った二人は、辺境伯としての地位を王国の基盤として確立し、二人の愛の結晶と共に、永遠に続く溺愛と繁栄の歴史を築き上げる。 予定です……

【完結】捨てられ令嬢の冒険譚 〜婚約破棄されたので、伝説の精霊女王として生きていきます〜

きゅちゃん
恋愛
名門エルトリア公爵家レオンと婚約していた伯爵令嬢のエレナ・ローズウッドは、レオンから婚約破棄を宣言される。屈辱に震えるエレナだが、その瞬間、彼女にしか見えない精霊王アキュラが現れて...?!地味で魔法の才能にも恵まれなかったエレナが、新たな自分と恋を見つけていくうちに、大冒険に巻き込まれてしまう物語。

悪役令嬢のはずですが、年上王子が幼い頃から私を甘やかす気でいました

ria_alphapolis
恋愛
私は、悪役令嬢なのかもしれない。 王子の婚約者としては少し我儘で、周囲からは気が強いと思われている―― そんな自分に気づいた日から、私は“断罪される未来”を恐れるようになった。 婚約者である年上の王子は、今日も変わらず優しい。 けれどその優しさが、義務なのか、同情なのか、私にはわからない。 距離を取ろうとする私と、何も言わずに見守る王子。 両思いなのに、想いはすれ違っていく。 けれど彼は知っている。 五歳下の婚約者が「我儘だ」と言われていた幼い頃から、 そのすべてが可愛くて仕方なかったことを。 ――我儘でいい。 そう決めたのは、ずっと昔のことだった。 悪役令嬢だと勘違いしている少女と、 溺愛を隠し続ける年上王子の、すれ違い恋愛ファンタジー。 ※溺愛保証/王子視点あり/幼少期エピソードあり

悪役令嬢が睨んでくるので、理由を聞いてみた

ちくわ食べます
恋愛
転生したのは馴染みのない乙女ゲームの世界だった。  シナリオは分からず、登場人物もうろ覚え、タイトルなんて覚えてすらいない。 そんな世界でモブ男『トリスタン』として暮らす主人公。 恋愛至上主義な学園で大人しく、モブらしく、学園生活を送っていたはずなのに、なぜか悪役令嬢から睨まれていて。 気になったトリスタンは、悪役令嬢のセリスに理由を聞いてみることにした。

お転婆令嬢は、大好きな騎士様に本性を隠し通す

湊一桜
恋愛
侯爵令嬢クロエは、二度も婚約破棄をされた。彼女の男勝りで豪快な性格のせいである。 それに懲りたクロエは、普段は令嬢らしく振る舞い、夜には”白薔薇”という偽名のもと大暴れして、憂さ晴らしをしていた。 そんな彼女のもとに、兄が一人の騎士を連れてきた。 彼の名はルーク、別名”孤高の黒薔薇”。その冷たい振る舞いからそう呼ばれている。 だが実は、彼は女性が苦手であり、女性に話しかけられるとフリーズするため勘違いされていたのだ。 兄は、クロエとルークのこじらせっぷりに辟易し、二人に”恋愛の特訓”を持ちかける。 特訓を重ねるうちに、二人の距離は少しずつ近付いていく。だがクロエは、ルークに”好きな人”がいることを知ってしまった…… 恋愛なんてこりごりなのに、恋をしてしまったお転婆令嬢と、実は優しくて一途な騎士が、思い悩んで幸せになっていくお話です。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

十年間虐げられたお針子令嬢、冷徹侯爵に狂おしいほど愛される。

er
恋愛
十年前に両親を亡くしたセレスティーナは、後見人の叔父に財産を奪われ、物置部屋で使用人同然の扱いを受けていた。義妹ミレイユのために毎日ドレスを縫わされる日々——でも彼女には『星霜の記憶』という、物の過去と未来を視る特別な力があった。隠されていた舞踏会の招待状を見つけて決死の潜入を果たすと、冷徹で美しいヴィルフォール侯爵と運命の再会! 義妹のドレスが破れて大恥、叔父も悪事を暴かれて追放されるはめに。失われた伝説の刺繍技術を復活させたセレスティーナは宮廷筆頭職人に抜擢され、「ずっと君を探していた」と侯爵に溺愛される——

処理中です...