最強魔力を手に入れ 魔王と呼ばれたぼっちは 人生をやり直すため 未来へ転生しました 〜来世の世界は魔法が衰退していたようです〜

夢咲 天音

文字の大きさ
33 / 54

Act.33

しおりを挟む

 叫んだのとほぼ同時に、大男は俺の方へ近づいてきた。

 誰に手を出したのかと言われても、俺には何も覚えが無いので返事のしようがない。
 誰と言われても、この世界で関わっているのはミーシャしかいないし……。

 俺はミーシャの方をチラっと見たが、酒が回ったのか……いつの間にやら机に突っ伏して眠っている。

 ちょっと待て、ミーシャ……。お前はついさっきまで話してたよな……?

「あのー、ミーシャさん……?」

「もう、サクヤ……大胆過ぎ……」

 ミーシャは色っぽい声で呟いた。
 その寝言が、静まり返った酒場に響き渡る。
 そして空気が凍りつくのを、その場に居合わせた全員が感じ取った。

「わ……ワシのミーシャがぁ……」

 大男の目には血涙が流れている。
 これはマズイな……かなり怒り心頭のご様子だ……。

「あの……何か誤解してませんかね……?」

「このエロガキャ……四肢を引き裂いて魔物の餌にしたろうかァ……それともセリュール山脈に生き埋めにしたろうかァ……」

 俺の発言を無視して、大男は物凄く危険な独り言をブツブツと念仏の如く呟いている。

「ん……。寒っ!」

 ミーシャは、大男が開けっ放しにしていたドアから入ってくる冷気で目を覚まし、俺の体温で暖まろうとして密着する。
 そこで、俺の様子が何か変だと初めて気付いたようで、ミーシャは俺の視線の先を見て、そして驚いていた。

「……パパ!?」

「「えっ!?」」

 待て待て、パパと言ったか?
 つまり、この大男とミーシャが親子だという事か!?
 俺と酒場にいる村人は同時に驚きの声を上げた。

「ミーシャ……儂はこがぁなこんな腑抜けェ、絶対に認めんけぇのう!!」

 大男は俺を指差して、血涙を流したまま叫んだ。

「何の事? それに……サクヤが腑抜けってどういう事?」

 ミーシャはまだ、酔いが覚めていないようだ。
 ただ俺が、腑抜けだと言われた事が気に入らないようで、破滅の力を使おうとしている……。

 ここで、壮大な親子喧嘩を始められても困るな……。
 最悪死者が出てしまう恐れがある。

「何のって……そりゃあ、お前がこがぁな腑抜けと付きうとる事じゃ!!」

「「はっ!? いやいや、付き合ってないし!!」」

 俺とミーシャは一言一句ズレる事なく、二人同時に言葉を返した。
 父の言葉が予想外だったのか、ミーシャが破滅の力を使う事は無かった。

「なんじゃい、付き合うとらんのか……」

 ミーシャの父はそれを聞いて安心したのか、冷静になるため深呼吸をした。

「っていうかパパ! サクヤの事が腑抜けってどういう事よ!!」

 ミーシャはもう一度父に聞いてみる。

「その言葉の通りじゃい! 見るからに間抜けで阿呆で生意気そうなクソガキじゃろうが?」

 ミーシャの父は腕組みをして俺を睨みながら言った。
 俺も黙って聞いていたが、後半は悪口のパレードではないか……。

「そんな事ない! フロウド・オーガを討伐する時に、私を守ってくれたもん!!」

 ミーシャは父にそう訴えるが、言えば言うほど逆効果な気がするのだが。

「儂は見とらん」

 ミーシャの父はそう言い、明後日の方向を向く。

「もう……。パパなんか大嫌い!」

 ミーシャがそう言うと、父は大嫌いという単語にピクっと反応した。

「儂が嫌いじゃと……?」

 ミーシャの父は、そう言い震えている。

「ミーシャ、流石にそれは言い過ぎじゃないか?」

「そんな事ないわ! サクヤの事を何も分かってないのに、そんな事言うんだもん!!」

 俺の言葉に、ミーシャはそう言う。
 そして、俺の腕に抱きついてきた。

 俺はミーシャの酔いが、一分一秒でも早く覚めればいいのにと、そう願うばかりだった。

「ミーシャがグレとる……」

 ミーシャの父はそう言って、震えながら今度は涙を流し始めた。
 ミーシャに言われたことが相当ショックだったのだろう。

「お父さん、少し落ち着いたら────」

「誰がお父さんじゃあ!! 儂はおんどれみたいな腑抜けェ……認めんけぇのう!!」

 俺は心配して声を掛けたが、返ってきた言葉は酷いものだった。
 そして俺は、もう何も言うまいと心に決めたのだ。

 その時、酒場にもう一人入ってきたようだ。

「アンタ! またこんな所に寄り道して!!」

 全員が声のする方を振り向いた。
 金髪に鋭い目つき……。
 初めてなのに、何となく見た事があるような雰囲気の女性が立っていた。

「セシル!! 何でお前がこがぁな所にるんじゃい?」

 ミーシャの父はその女性がいる事に驚いた様子でそう言った。

「どうしたのママ!?」

 ミーシャもその女性にそう言った。
 なるほどどうりで、見た事があるような雰囲気だった訳だ。

「あら? ミーシャも居たのかい……」

 セシルはミーシャを見て言ったあと、何かを悟ったかのようにミーシャの父の方を向いた。

「アンタはいつになったら子離れできるんだい!?」

「儂はただミーシャが心配じゃけぇ────」

「うるさい! 言い訳は聞きたくないよ!! ほら、行くよ!!」

 ミーシャの父の言葉を遮りセシルは言った。
 そして、ミーシャの父の耳を引っ張りながら酒場を出ようとする。

 その時俺はセシルと目が合った。

「ミーシャをよろしく頼むよ! それと、ウチはセシル。で、こっちのバカ親がヒューゴよ」

 そう言って簡単に自己紹介をしてくれた。

「サクヤだ」

「よろしくね、サクヤ君」

 俺も名前を名乗ると、セシルはそう言って、ヒューゴの耳を引っ張ったまま酒場から出て行った。
 嵐のような一時は、無事に過ぎ去ったようだな。

「びっくりして酔いが醒めちゃった……」

 ミーシャはそんな事を言いながら、またアルルの地酒をグラスに注ぎ始めた。

「まだ飲むのか?」

 俺は呆れてしまい頭を抱えた。
 隣からミーシャが地酒を一気に飲む音が聞こえる。

「んーーーー!! やっぱりアルルの地酒は最高だわ!!」

 ミーシャが楽しそうなら、まあ……それでいいか。

「ミーシャ、俺にも一杯くれるか?」

「え? サクヤ、飲めないんじゃなかったの!?」

 ミーシャは驚いている。

「たまにはもあるんだ」

 俺は注いでもらった地酒を一口飲んだ。
 口の中で広がる果実の風味が絶妙で飲みやすい事に驚き、ミーシャが地酒を絶賛する事に納得した。

「ミーシャ、もう一杯貰ってもいいか?」

「意外に飲めるのね!? 分かったわ」

 俺はグラスを空にして、ミーシャにもう一杯注いでもらった。

 いつの間にか酒場は、先ほどの和やかな空気を取り戻したみたいで、俺やミーシャも皆と楽しく飲み明かしたのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!

ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。 ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!? 「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」 理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。 これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...