47 / 54
Act.47
しおりを挟むほんの少しの間とはいえ、クロノスに接触したとクロームは言った。
そして、分霊術も使って接触した事を否定しなかった。
「その分霊は、俺にも接触したのか?」
俺は真実を確かめるべく、クロームを見てそう問いかける。
「案外簡単に気づくのね? それでは面白くないわ」
クロームはそう言い、口元を抑えながらフフフと微笑んで俺を見ていた。
「クロームさんは、サクヤに会ったことがあるって事?」
ミーシャはクロームを見ながら、近くに歩み寄ってそう尋ねた。
「破壊神ミーシャ……その通りよ。私はサクヤにも接触したわ」
クロームは口元を抑えていた手を下ろして腰に当て、そう言ってミーシャを見つめた。
ミーシャは、クロームの返答が想像通りだったのか、特に驚いた様子も無く、やっぱりねといった表情でコクリと頷く。
「クロームが使える分霊術は、クロノスと同じ術式になるのか?」
俺は疑問をクロームに投げかけた。
するとクロームは視線を俺から逸らす。
「ほとんど同じよ。兄は何体も分霊を作れたみたいだけど、私にはそれができなかった」
遠い目をしながらクロームは俺にそう言った。
クロウドがクロノスと融合して覚えた分霊術。
あの男は、それを基礎構築に利用して、従来とは違う新しい分霊魔法を開発していた。
分霊というよりは、洗脳操作をする寄生虫のような根源と呼ぶ方が適している。
クロウドはそれを使って、七人の分霊を作りあげ、悪魔と呼ばれる本当の悪を討つと言っていたが、俺はそれに見事に騙されていたのだ。
さらに、分霊の一人だったアリアの父アルメスを殺して、それを悪魔の仕業だとでっち上げた。
そして、七体の分霊をわざわざ作って、それを宿した人間の記憶の、潜在的な部分を操作する。
その操作で分霊を学園へ集めて、悪魔を討伐するための分霊パーティーを組んだように見せかけた。
宿主の意思は既に支配されて、クロウドの……いや、勇者クロウの思うがままだった。そう考えるのが無難なところか……。
それに気付かなかった俺を、見事に信用させたという訳だ。
騙されてから気付いたのは、悔しくもあり情けない事なのだが、クロウドが俺にしてきた事を、冷静に分析する時間を得たのは大きかった。
こうして、悪魔という存在はクロウドであり、前世で戦った勇者クロウだったのだという結論に、確信を持って辿りつけたのだから。
「私は分霊に少しの神通力を与えた。その力を辿って、私は遡行夢を使ったの。そして兄やサクヤに接触させたわ。……分霊を完全に支配下に置くために、あの世界で使える呪いの魔法の力を使ったけどね」
クロームは俺を見ながら、淡々と語った。
「ちょっと待て。クローム、お前は通信魔法といい、呪いの魔法といい……何故魔法が使えるんだ!?」
クロームはあまりに自然な流れでそう言っているが、それはおかしな話だ。
ここに来るまでに出会った誰もが、魔法の存在すら知らなかったのだから。
しかし、クロームは魔法の存在を知っているうえ、それを使う事ができる。異常な事態ではないか。
「そんなの……兄を観察していたらすぐ覚えたわ」
「すぐ覚えた……か」
俺はクロームの言葉に絶句した。
クロームは簡単そうに言っているが、魔法を知らない状態からの習得が、どれほど難しい事なのか俺でも分かる。
ましてや、魔力の存在自体が知られていないこの世界で。
努力を必要とせず、容易く欲しい力を習得できる天才と呼ばれる存在が居るとすれば、その極稀な例が彼女なのだろう。
そう考えなければ、この状況を理解できないだろう。
この世界にも魔法磁場が存在する。
俺が魔法を使えた段階で、それは確証を持つことができた。
この世界に魔法磁場が存在する事が奇跡なのだが、兄を観察しただけで魔法を習得したという、クロームもまた奇跡のような存在だ。
そして、それだけの芸当ができる、底知れぬ魔力と神通力を、クロームは隠しているような気がする。
俺が理想とする力を持った存在。その理想の具現化が目の前に居るなんて……。
クロームという、数多の神通力を持つ少女への、尊敬なのか畏怖なのか、それとも嫉妬や興味からなのか……入り混じった感情が俺の口角を上げる。
「クローム……大した存在だな」
俺はそう言うと、ニヤリと笑いながらクロームを見た。
「私が?」
クロームは何の事やらといった態度で俺を見ながら返事をする。
とぼけているのなら、答えを言ってしまおうか。
そう考え、俺は口を開く。
「そうだ。そして、クロームの分霊だったアリアもな」
「えっ!? アリアちゃんって、クロームさんの分霊だったの?」
俺の言葉にミーシャは間髪入れずに、驚いた表情で言った。
クロームは、ミーシャの反応にクスッと笑い、口を開いた。
「たしかに、アリアは私の分霊よ。だけど……サクヤに出会った時には、もう『本来のアリア』は存在してなかったわ」
「それはどういう事だ!?」
俺はクロームに、感情をそのままに声を大にして問う。
アリアはクロームの分霊……。
だけど、分霊と一体化する前の身体は、俺と出会う前に既に存在していなかった。
つまり、アリアは俺と出会う前に死んでいたという事か?
意味が分からない……。
それが事実なら、俺が見たアリアは何者なのだ?
「分霊によって人格と根源を形成して、時の力を使って蘇生したの。蘇生したから、記憶と元の力を封印しておいたんだけど……。サクヤが解呪をするとは思ってなかったから、さすがに驚いたわ」
俺の求めた答えをクロームは淡々とした口調で言った。
「俺が解呪した事が予想外だったのか?」
「解呪ができるのは、前世のサクヤが産まれるよりも遥か昔……。賢者と呼ばれる、この世界を創造した人しかできないって言われてるわ」
そう言って、俺の質問に答えたクロームはニコッと笑った。
賢者なんて聞いた事無かったな……。
そもそも、解呪をする事は不可能に近いという事を初めて知った。
だが、俺は何事も無かったかのように、アリアに対して解呪ができてしてしまったようだ。
「そうか……。それで、解呪をした事でクロームにデメリットがあったのか?」
「私が人格を形成した分霊に、本来のアリアの記憶が混ざったり、感情が制御できなくて泣いたり……サクヤも傍で見てたんだから、聞く必要ないでしょ?」
クロームはそう言い、ジト目で俺を見た。
愚問だったか。たしかに、思い当たる節が無いといえば嘘になる。
解呪をしてから、時々アリアの様子が変だったような気がしていたが……。まさか巡り巡って紐解くと、こんな事になっているとは予想もできないだろう。
「聞く必要は無かったか……。すまなかったな」
「気にしなくていいわ。ところで、サクヤは時の神通力に耐えられた本当の理由に気付いてるの?」
「本当の理由だと?」
解呪をした事で、迷惑をかけたと思い謝った俺に、クロームは話を断ち切ってそう尋ねる。
本当の理由とは一体何だ……?
俺が時間遡行の魔法を付与したペンダントが影響した。
それ以外に、何があるというのだろうか?
「……私とキスしたでしょ?」
クロームは、妖艶な眼差しで俺を見ながらそう言い、フフフと口元を抑えて笑っている。
俺は、アリアとキスした事を思い出した。
それが、クロウドの使った神通力に耐えられた事と、どんな関係があるというのだ。
そう思った瞬間、俺は背筋が凍りつくような感覚に陥った。
「へぇー。サクヤはクロームさんと……じゃなかった。……アリアちゃんとキスしてたんだー」
低いトーンの棒読み気味な声で、ドス黒いオーラを纏い、ミーシャは俺を見ながらそう言った。
以前ミーシャに転移する前の話をした際に、そこら辺の事情を端折ったのが裏目に出てしまったのか……。
ミーシャは口元はニコっとしているのだが、その目は瞳孔が開き……据わっていた。
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!
ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。
ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!?
「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」
理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。
これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる