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Act.53
しおりを挟む時の力を使い、クロノスは俺の目の前に一瞬にして現れ、大鎌を縦一閃に振り下ろす。
だが、俺は振り下ろされた大鎌を冷静に躱した。
それに反応して、クロノスは口を開く。
「何故ダ……何故、躱セルノダ……」
「魔王ロイズだった俺が、お前の時の力を使えない……とでも思ったのか?」
クロノスの呟きに、俺はそう言ってククク、と笑った。
俺を大鎌で斬るために迫ってきた際、クロノスは時間遡行をしていた。
傍から見れば、まるで瞬間移動をしたかのようにも見える。だが、俺も記憶を取り戻したおかげで、時の力を使えるようになったのだ。
ただ、魔力を神通力に変換して使わなければならないので、効率が悪く当時のようには使えないのが難点ではあるが。
「汝ハ、我ニ大人シク斬ラレルノダ……」
クロノスはそう言って、再び横一閃に大鎌を振り抜く。
斬られろと言われて斬られるほど、俺も甘くはない。
それに、何度もそんなにゆっくり大鎌を振ったところで、当たってしまうほど俺はボーッとしている訳ではない。
クロノスは、大鎌を振る際にも時間を遡行をしているようだ。
だから、俺もそれに併せて時間を遡行をするので、クロノスの振るう大鎌を躱すのは容易い。
「お前は魔王ロイズ……そして、俺の力を低く見積もり過ぎたようだな」
俺がそう言った瞬間、俺の首元には大鎌の刃が当たる寸前まで迫っていた。
「チッ……」
俺は舌打ちをする。
「捉エタゾ……」
クロノスがそう言って、ニヤリと口元を歪めた。
「「サクヤ!!」」
ミーシャとクロームが同時に叫ぶ。
クロノスは大鎌を振り抜いた。
「グアアアアアアァァァァァァ!!」
断末魔を上げていたのは、何故かクロノスの方だったのだ。
そして、クロノスの身体には、俺が突き出した剣が刺さっていた。
「お前には、俺の残像しか捉えることはできないようだな」
「オ……オノレ……」
「もうすぐ、お前の存在は消滅するのだ。何か言い残す事はあるか?」
苦しむクロノスに対して問うが、奴は憎悪の目で俺を睨み言葉を発しなかった。
一方のミーシャとクロームは、俺が斬られると思っていたのだろう。
それどころか反撃して、致命傷を与えている事に驚いている。
「クロームさん、あの剣って……」
「……おそらく、サクヤが創造魔法で作ったのかもしれないわ」
ミーシャの問いに、クロームは推測で答える。
クロームの推測通り、俺は魔剣カタストロフの折れた刃を触媒にして、あえて時間をかけて創造魔法を構築していたのだ。
「大正解だ。これが創造魔法によって誕生した、神剣アルテミスだ」
俺はそう言って、クロノスに神剣を刺したまま、ミーシャとクロームの方を向いた。
「神剣!? 魔剣じゃないの?」
ミーシャは俺に尋ねる。
「そうだ。この剣には、ミーシャの持っている破滅の力を付与しているだけで、魔法の力は付与していない。神通力を付与したから、神剣という事になる」
俺はミーシャにそう言った。すると、クロームがそれに対して口を開く。
「創造魔法で作った剣に、魔力ではなく神通力を付与したっていうの?」
「ああ。そういう事になるな」
「そんなの……常識的に考えても、自然の摂理に則ってもありえないわ……」
クロームは驚愕した表情でそう言った。
俺にしてみれば、クロームが魔法を使えるだけでも驚愕に値するのだがな……。
「ありえない……と誰が決めたのだ?」
俺はクロームに問いかける。
「えっ……誰って……それは……」
俺の問いに、クロームは言葉を詰まらせてしまった。
「今の俺に常識や摂理は通用しない。俺が常識であり摂理を創造した大賢者……いや、魔王ロイズだったのだからな」
俺はそう言って微笑んだ。クロームは俺を見たまま言葉を返さなかった。
それまでの自然の摂理と常識を一新して、残虐非道の魔王としての行為を悔い改めるため、記憶を封印した。
そして、俺は前世の人と関わらないぼっちな魔王となったのだ。
俺には魔王以外になれるものがないのだろうか。二度の人生で魔王と呼ばれたうえ、三度目の今世でも、魔王という呼び名がついてしまった。
「もうサクヤには、驚きを通り越して呆れちゃうわ。それにその笑顔が、ちゃんと笑っているのに恐いわよ……」
ミーシャは俺の微笑みを見て、呆れた口調でそう言う。そして、それに同意するかのように、クロームも頷いた。
「魔王ロイズの力を見て、そんな言葉を直接言うのはミーシャだけだな」
俺はミーシャにそう言い、クククと笑った。
「それって褒めてるの? ……ちっとも嬉しくないんだけど」
ミーシャはそう言って、苦笑いをしたのだった。
そして、俺は再びクロノスに視線を戻す。
そろそろ決着をつけなくてはならないだろう。
「お前は、この世界に存在した事実を滅ぼされ、このまま闇へと葬り去られる最初の神になれるのだ。光栄に思うのだな」
俺がそう言うと、神剣アルテミスが刺さっている切り口から広がるように、クロノスの身体が粒子のようになってゆき、徐々に消え始めたのだ。
「……魔王ロイズ……」
クロノスは最期まで俺を睨み続けながら、そう言って完全に消滅した。
これで、クロウドとクロノスの二人を倒し、俺はアリアの仇を討つ事ができたのだ。
元いた世界からの因縁に、ついに終止符を打つことができた。
それに安心して緊張の糸が切れたのか、身体から一気に力が抜けてしまい、俺は崩れるように倒れてしまった。
「サクヤ!!」
ミーシャは俺の名前を呼び、慌てて駆け寄ってくる。
「大丈夫だ、緊張感が抜けてしまっただけだ。死にはしない」
「それでも心配するじゃない……」
「すまない」
「バカ……サクヤの大バカ……」
俺が謝ると、ミーシャはそう言った。
そして、倒れた俺に抱きついたのだ。
「何というか、悪くないものだな」
俺はそう言って、ミーシャを抱きしめ返した。
「魔王サクヤ……ホントに面白い人ね」
クロームはそう言って、くすりと笑った。
俺もクロームにククク、と笑ってみせた。そして、そのままミーシャの腕の中で、身体に負担をかけ過ぎた反動からなのか、俺の意識は途切れてしまったのだ。
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