5 / 17
決着
決着
しおりを挟む
森に静寂が戻った――
そう思われた瞬間だった。
ザッ、ザッ、と草を踏む音が近づく。
「魔王様!!」
数体の魔族が森の奥から現れた。
戦いの魔力を感じ取り、駆けつけたのだ。
彼らの視線はすぐに地面へ向いた。
そこには倒れた勇者リオ・オルガレス。
血に染まった服。
折れた足で、もう立ち上がれない。
魔族の一人が剣を抜いた。
「勇者だ……!」
「ここで仕留めましょう!」
「人間の希望を断つ好機です!」
そのまま勇者へ近づこうとする。
その瞬間――
「待て」
低い声が森に響いた。
魔族たちの動きが止まる。
デスティニオ・ブラッドロが一歩前に出た。
「その勇者は――」
静かな声で言う。
「俺が殺す」
魔族たちは驚いた顔をする。
「ですが魔王様!」
「危険です!」
「まだ生きています!」
デスティニオは苛立ったように舌打ちした。
「見れば分かるだろう」
勇者を指差す。
「もう動けん」
だが魔族の一人が首を振る。
「勇者です。油断できません」
「完全に動けなくするべきです」
その言葉に、魔王は一瞬だけ黙った。
そして――
ゆっくり勇者のそばへ歩いていく。
地面に倒れているリオは、うっすら目を開けていた。
視線が合う。
ほんの一瞬だけ。
デスティニオの目が揺れた。
だがすぐに表情を消す。
「……確かにな」
魔王は低く言った。
「これでは、まだ安心できんな」
そして足を振り上げる。
バキッ。
鈍い音が森に響いた。
勇者のもう片方の足を、踏みつけて折ったのだ。
「……っ!」
リオの体が震える。
しかし声はほとんど出なかった。
魔王は冷たい目で見下ろす。
「これでもう立てまい」
振り返り、部下たちに言った。
「これ以上、この汚らわしい血を見るのは不快だ」
「処分は俺がする」
魔族たちは顔を見合わせる。
だが魔王の命令に逆らうことはできない。
「……承知しました、魔王様」
「お任せします」
やがて彼らは森の奥へと去っていった。
足音が完全になくなる。
愚かな部下どもだ…
小さく呟いたのをリオは聞き逃さなかった
「すまないな、無駄な怪我をさせた」
足を撫でた
「んぐっ、あ、はぁ、はぁ」
「しばらくは歩けないな…少し痛いぞ」
そっとリオは持ち上げられた
力がもう入らず、されるがままだ
「人間は本当に脆いな」
呟きながら、魔王は黒い魔力をまとった。
次の瞬間、二人の姿は森から消えた。
⸻
魔王城。
高い塔の奥にある部屋。
そこは戦いの間でも玉座の間でもない。
本で埋め尽くされた部屋だった。
壁一面の本棚。
古い羊皮紙の本、分厚い医学書、人体の図が描かれた巻物。
魔王デスティニオの私室兼研究室だった。
彼は昔から興味があった。
人間という生き物に。
魔族は、傷を負っても自然に治る。
骨も、時間が経てば再生する。
だが人間は違う。
折れた骨は、そのままでは戻らない。
放っておけば命を落とすこともある。
その仕組みが、デスティニオには不思議でならなかった。
「さて……」
机の横に勇者を寝かせる。
リオはうっすら目を開けた。
「……ここは……」
かすれた声。
魔王は棚から布と水の入った器を取る。
「魔王城だ」
あっさり言った。
その瞬間。
リオの目が見開かれる。
「……っ!」
体を起こそうとする。
しかし――
激しい痛みが走った。
折れた足が動く。
「やめておけ」
魔王が低く言う。
「その状態で動けば、さらに悪化する」
「黙れ……!」
リオは息を荒くした。
「殺すなら……今すぐ殺せ……!」
必死に腕を動かし、体を起こそうとする。
だが体は思うように動かない。
そのまま崩れた。
デスティニオは静かにそれを見ていた。
「安心しろ」
布を水に浸しながら言う。
「今は殺さない」
リオが睨みつける。
「……なぜだ」
魔王は答えず、血で汚れた勇者の腕を軽く持ち上げた。
そして布でゆっくりと拭き始める。
血と土が落ちていく。
「まずは綺麗にする」
淡々とした声。
「傷口が汚れていると治りが悪い」
リオは一瞬、言葉を失った。
魔王が。
勇者を。
看病している。
信じられない光景だった。
「……ふざけるな」
それでもリオは腕を振り払おうとする。
しかし力が入らない。
腹の傷も血が滲んでいる。
デスティニオは軽くため息をついた。
「抵抗する元気はあるのか」
「たいした勇者だ」
布を置き、立ち上がる。
そして本棚から一冊の分厚い本を取り出した。
表紙には、人間の骨の図が描かれている。
ページをめくりながら呟く。
「人間の骨折……固定が必要……か」
興味深そうに勇者の足を見る。
「実に面倒な生き物だな、人間は」
その目は――
敵を見る目ではなく、
研究者の目だった。
ベッドの上で、リオはただ魔王を見ていた。
そう思われた瞬間だった。
ザッ、ザッ、と草を踏む音が近づく。
「魔王様!!」
数体の魔族が森の奥から現れた。
戦いの魔力を感じ取り、駆けつけたのだ。
彼らの視線はすぐに地面へ向いた。
そこには倒れた勇者リオ・オルガレス。
血に染まった服。
折れた足で、もう立ち上がれない。
魔族の一人が剣を抜いた。
「勇者だ……!」
「ここで仕留めましょう!」
「人間の希望を断つ好機です!」
そのまま勇者へ近づこうとする。
その瞬間――
「待て」
低い声が森に響いた。
魔族たちの動きが止まる。
デスティニオ・ブラッドロが一歩前に出た。
「その勇者は――」
静かな声で言う。
「俺が殺す」
魔族たちは驚いた顔をする。
「ですが魔王様!」
「危険です!」
「まだ生きています!」
デスティニオは苛立ったように舌打ちした。
「見れば分かるだろう」
勇者を指差す。
「もう動けん」
だが魔族の一人が首を振る。
「勇者です。油断できません」
「完全に動けなくするべきです」
その言葉に、魔王は一瞬だけ黙った。
そして――
ゆっくり勇者のそばへ歩いていく。
地面に倒れているリオは、うっすら目を開けていた。
視線が合う。
ほんの一瞬だけ。
デスティニオの目が揺れた。
だがすぐに表情を消す。
「……確かにな」
魔王は低く言った。
「これでは、まだ安心できんな」
そして足を振り上げる。
バキッ。
鈍い音が森に響いた。
勇者のもう片方の足を、踏みつけて折ったのだ。
「……っ!」
リオの体が震える。
しかし声はほとんど出なかった。
魔王は冷たい目で見下ろす。
「これでもう立てまい」
振り返り、部下たちに言った。
「これ以上、この汚らわしい血を見るのは不快だ」
「処分は俺がする」
魔族たちは顔を見合わせる。
だが魔王の命令に逆らうことはできない。
「……承知しました、魔王様」
「お任せします」
やがて彼らは森の奥へと去っていった。
足音が完全になくなる。
愚かな部下どもだ…
小さく呟いたのをリオは聞き逃さなかった
「すまないな、無駄な怪我をさせた」
足を撫でた
「んぐっ、あ、はぁ、はぁ」
「しばらくは歩けないな…少し痛いぞ」
そっとリオは持ち上げられた
力がもう入らず、されるがままだ
「人間は本当に脆いな」
呟きながら、魔王は黒い魔力をまとった。
次の瞬間、二人の姿は森から消えた。
⸻
魔王城。
高い塔の奥にある部屋。
そこは戦いの間でも玉座の間でもない。
本で埋め尽くされた部屋だった。
壁一面の本棚。
古い羊皮紙の本、分厚い医学書、人体の図が描かれた巻物。
魔王デスティニオの私室兼研究室だった。
彼は昔から興味があった。
人間という生き物に。
魔族は、傷を負っても自然に治る。
骨も、時間が経てば再生する。
だが人間は違う。
折れた骨は、そのままでは戻らない。
放っておけば命を落とすこともある。
その仕組みが、デスティニオには不思議でならなかった。
「さて……」
机の横に勇者を寝かせる。
リオはうっすら目を開けた。
「……ここは……」
かすれた声。
魔王は棚から布と水の入った器を取る。
「魔王城だ」
あっさり言った。
その瞬間。
リオの目が見開かれる。
「……っ!」
体を起こそうとする。
しかし――
激しい痛みが走った。
折れた足が動く。
「やめておけ」
魔王が低く言う。
「その状態で動けば、さらに悪化する」
「黙れ……!」
リオは息を荒くした。
「殺すなら……今すぐ殺せ……!」
必死に腕を動かし、体を起こそうとする。
だが体は思うように動かない。
そのまま崩れた。
デスティニオは静かにそれを見ていた。
「安心しろ」
布を水に浸しながら言う。
「今は殺さない」
リオが睨みつける。
「……なぜだ」
魔王は答えず、血で汚れた勇者の腕を軽く持ち上げた。
そして布でゆっくりと拭き始める。
血と土が落ちていく。
「まずは綺麗にする」
淡々とした声。
「傷口が汚れていると治りが悪い」
リオは一瞬、言葉を失った。
魔王が。
勇者を。
看病している。
信じられない光景だった。
「……ふざけるな」
それでもリオは腕を振り払おうとする。
しかし力が入らない。
腹の傷も血が滲んでいる。
デスティニオは軽くため息をついた。
「抵抗する元気はあるのか」
「たいした勇者だ」
布を置き、立ち上がる。
そして本棚から一冊の分厚い本を取り出した。
表紙には、人間の骨の図が描かれている。
ページをめくりながら呟く。
「人間の骨折……固定が必要……か」
興味深そうに勇者の足を見る。
「実に面倒な生き物だな、人間は」
その目は――
敵を見る目ではなく、
研究者の目だった。
ベッドの上で、リオはただ魔王を見ていた。
0
あなたにおすすめの小説
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
お兄ちゃんができた!!
くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。
お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。
「悠くんはえらい子だね。」
「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」
「ふふ、かわいいね。」
律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡
「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」
ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡
なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。
あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。
♡♡♡
恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる