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決着
車椅子
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研究室の窓から、やわらかな光が差し込んでいた。
その日もデスティニオは、いつものように静かに部屋へ入ってきた。
手には包帯と、薬草をすり潰した小さな器。
「足を見る」
短く言うと、慣れた手つきで包帯をほどいていく。
リオはベッドの上でそれを見ていた。
最初の頃は、ただ警戒するだけだった。
だが――
毎日こうして世話をされているうちに、少しずつ気持ちが変わってきていた。
目の前の魔王は、戦場で見た存在とはまるで違う。
几帳面で、静かで、妙に真面目だ。
傷口を洗い、薬草を塗り直しながら、デスティニオはじっと観察する。
「腫れはかなり引いたな」
そう言って、新しい包帯を巻き直す。
そして最後に、厚い固定具を慎重に整えた。
「……よし」
作業が終わると、魔王は部屋の隅へ歩いていった。
そこには、見慣れないものが置いてあった。
リオは眉をひそめる。
「それは……?」
デスティニオはそれを軽く押してみせた。
小さな車輪が、静かに床を転がる。
「車椅子というものらしい」
淡々と説明する。
「人間が足を使えないときに使う道具だ」
リオは少し驚いた顔をした。
「……そんなものまで調べたのか」
魔王は肩をすくめる。
「便利そうだったからな」
そしてベッドのそばへ来ると、静かに言った。
「座れるか試してみる」
そう言って、リオの足をゆっくり持ち上げる。
固定された足を慎重に動かし、ベッドの端へ下ろした。
その瞬間――
「……っ」
鈍い痛みが走る。
リオは思わず息を止めた。
「無理はするな」
デスティニオは落ち着いた声で言う。
「少しずつだ」
足を床につけないよう支えながら、体を起こさせる。
それだけでも、リオの呼吸は荒くなった。
「……はあ……」
体力がまだ戻っていない。
だが魔王は急がなかった。
「ゆっくりでいい」
そう言いながら、腕を支える。
ようやく車椅子の前まで体を移す。
しかし――
そこからが大変だった。
体を持ち上げ、座り直す。
それだけの動きなのに、力が足りない。
腕も震える。
リオは歯を食いしばった。
「……こんなこと……」
かすれた声。
「前は……何でもなかったのに……」
デスティニオは黙って支え続けた。
そして何度かやり直し、ようやく――
リオの体が車椅子の座面に収まった。
小さく息を吐く。
それだけで、ひどく疲れていた。
魔王はその様子を見て、静かに言った。
「……乗るだけでも一苦労だな」
リオは苦笑した。
「笑うな」
「笑ってはいない」
デスティニオは真面目な顔のままだった。
リオはしばらく黙っていたが、やがて魔王を見上げる。
ふと、思ったことを口にする。
「……なあ」
魔王が視線を向ける。
リオは少しだけ迷ってから言った。
「お前って……」
「本当に魔王なのか?」
研究室には、静かな空気が流れていた。
その日もデスティニオは、いつものように静かに部屋へ入ってきた。
手には包帯と、薬草をすり潰した小さな器。
「足を見る」
短く言うと、慣れた手つきで包帯をほどいていく。
リオはベッドの上でそれを見ていた。
最初の頃は、ただ警戒するだけだった。
だが――
毎日こうして世話をされているうちに、少しずつ気持ちが変わってきていた。
目の前の魔王は、戦場で見た存在とはまるで違う。
几帳面で、静かで、妙に真面目だ。
傷口を洗い、薬草を塗り直しながら、デスティニオはじっと観察する。
「腫れはかなり引いたな」
そう言って、新しい包帯を巻き直す。
そして最後に、厚い固定具を慎重に整えた。
「……よし」
作業が終わると、魔王は部屋の隅へ歩いていった。
そこには、見慣れないものが置いてあった。
リオは眉をひそめる。
「それは……?」
デスティニオはそれを軽く押してみせた。
小さな車輪が、静かに床を転がる。
「車椅子というものらしい」
淡々と説明する。
「人間が足を使えないときに使う道具だ」
リオは少し驚いた顔をした。
「……そんなものまで調べたのか」
魔王は肩をすくめる。
「便利そうだったからな」
そしてベッドのそばへ来ると、静かに言った。
「座れるか試してみる」
そう言って、リオの足をゆっくり持ち上げる。
固定された足を慎重に動かし、ベッドの端へ下ろした。
その瞬間――
「……っ」
鈍い痛みが走る。
リオは思わず息を止めた。
「無理はするな」
デスティニオは落ち着いた声で言う。
「少しずつだ」
足を床につけないよう支えながら、体を起こさせる。
それだけでも、リオの呼吸は荒くなった。
「……はあ……」
体力がまだ戻っていない。
だが魔王は急がなかった。
「ゆっくりでいい」
そう言いながら、腕を支える。
ようやく車椅子の前まで体を移す。
しかし――
そこからが大変だった。
体を持ち上げ、座り直す。
それだけの動きなのに、力が足りない。
腕も震える。
リオは歯を食いしばった。
「……こんなこと……」
かすれた声。
「前は……何でもなかったのに……」
デスティニオは黙って支え続けた。
そして何度かやり直し、ようやく――
リオの体が車椅子の座面に収まった。
小さく息を吐く。
それだけで、ひどく疲れていた。
魔王はその様子を見て、静かに言った。
「……乗るだけでも一苦労だな」
リオは苦笑した。
「笑うな」
「笑ってはいない」
デスティニオは真面目な顔のままだった。
リオはしばらく黙っていたが、やがて魔王を見上げる。
ふと、思ったことを口にする。
「……なあ」
魔王が視線を向ける。
リオは少しだけ迷ってから言った。
「お前って……」
「本当に魔王なのか?」
研究室には、静かな空気が流れていた。
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