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私の名前はセシーヌ=ロングポート。
伯爵家の娘ですが、いいところの令嬢らしくおうちで花嫁修業やお茶会・・・・・・という生活はあまり好みません。小さいながらも仕事の途切れない貿易会社で、ここ半年事務をさせていただいています。
「はあぁ。繁忙期ってこんなに大変なものなのね・・・・・・」
ある晩。私は疲れた身体を引きずって家路を急いでいました。帰る先は、生まれ育った実家ではありません。
『お前はただでさえはすっ葉娘なのだから、のん気にしていたら間違いなく嫁の貰い手がなくなる』とうるさく両親に言われて、しぶしぶ社交パーティーへの出席は続けた結果。
とあるパーティーで出会った、同じく伯爵家の次男であるマーレン=ジュークから熱烈なアプローチを受けたのです。
「たくましく自分の人生を生きている君に惚れた」「君と一緒にいれば、僕も力をもらえる」と熱心にくどかれ、こまめに贈り物などをされると私も次第にほだされてしまうものです。
恋心、なんて甘酸っぱいものには縁遠い性格の私でしたが、それでもマーレンには少し惹かれるものがありました。マーレンは科学者兼哲学者だったのです。聞くところによると、さる高名な医学者の下で数年勉学に励み、一緒になって研究を続けた結果、とある植物から抽出された液体が消化器系の病気に極めて有効であるという発見をしたのだとか。
いつかこれを国に認めてもらい、さらなる予算をつけてもらって病気に苦しむ人をたくさん救うんだと語る彼の横顔は純粋にぐっと来ましたし、研究のこととなると寝食を忘れてしまう姿は何だか可愛らしく、世話を焼いてあげたいと思わせるものがありました。
結果、私は彼と婚約に至ると同時に実家から遠く離れたこのジューク家の屋敷に居を移したのです。
「さあて。今日は少し遅くなっちゃったから、急いで夕飯を作らないと・・・・・・」
そう呟いて、私はお屋敷の門をくぐります。食事係のメイドはもちろんいましたが、私は仕事の気分転換がてら料理をするのは好きでしたし、彼もまた私の手料理を気に入ってくれていました。気分屋で、パンしか食べたくないだの豆は嫌いだなどとわがままをよく言いますが、私が叱ればたいていはしぶしぶ食べていたのです。
「今日は少し冷えるから豚肉のシチューね。マーレンのやつ、昨日はごねてサラダを残していたけれど、今日は絶対に緑の野菜を食べてもらわないと」
なんだかんだで、私の作った料理を食べる彼の姿を想像していると口元がほころびます。私もまた、彼の役に立つのが至上の喜びなのでした。
「ただいまー」
居間に入った私を待ち受けていたのは、仁王立ちのマーレンでした。
「・・・・・・よお」
一言そう言うと、彼はぎゅっと口を横一文字に結んでしまいます。
「“よお”はないでしょ、“よお”は。一日働いて帰ってきた妻に対して。子供じゃないんだから、お帰りなさいってちゃんと言いなさい」
すたすたと横を通り過ぎようとする私の腕を、彼がぐっと掴みました。
「なによ」
こちとら急いで手を洗いに行きたいのにと口を尖らせる私に向かって、マーレンは言います。
「セシーヌ、もうお前は僕の婚約者ではない。今夜一晩だけは泊めてやるから、明日の朝一番でこの屋敷を出て行け」
「・・・・・・はあぁっ?」
突然降ってきた、婚約破棄宣言でした。
てか、勘弁してよこんな疲れてるときに・・・・・・。
伯爵家の娘ですが、いいところの令嬢らしくおうちで花嫁修業やお茶会・・・・・・という生活はあまり好みません。小さいながらも仕事の途切れない貿易会社で、ここ半年事務をさせていただいています。
「はあぁ。繁忙期ってこんなに大変なものなのね・・・・・・」
ある晩。私は疲れた身体を引きずって家路を急いでいました。帰る先は、生まれ育った実家ではありません。
『お前はただでさえはすっ葉娘なのだから、のん気にしていたら間違いなく嫁の貰い手がなくなる』とうるさく両親に言われて、しぶしぶ社交パーティーへの出席は続けた結果。
とあるパーティーで出会った、同じく伯爵家の次男であるマーレン=ジュークから熱烈なアプローチを受けたのです。
「たくましく自分の人生を生きている君に惚れた」「君と一緒にいれば、僕も力をもらえる」と熱心にくどかれ、こまめに贈り物などをされると私も次第にほだされてしまうものです。
恋心、なんて甘酸っぱいものには縁遠い性格の私でしたが、それでもマーレンには少し惹かれるものがありました。マーレンは科学者兼哲学者だったのです。聞くところによると、さる高名な医学者の下で数年勉学に励み、一緒になって研究を続けた結果、とある植物から抽出された液体が消化器系の病気に極めて有効であるという発見をしたのだとか。
いつかこれを国に認めてもらい、さらなる予算をつけてもらって病気に苦しむ人をたくさん救うんだと語る彼の横顔は純粋にぐっと来ましたし、研究のこととなると寝食を忘れてしまう姿は何だか可愛らしく、世話を焼いてあげたいと思わせるものがありました。
結果、私は彼と婚約に至ると同時に実家から遠く離れたこのジューク家の屋敷に居を移したのです。
「さあて。今日は少し遅くなっちゃったから、急いで夕飯を作らないと・・・・・・」
そう呟いて、私はお屋敷の門をくぐります。食事係のメイドはもちろんいましたが、私は仕事の気分転換がてら料理をするのは好きでしたし、彼もまた私の手料理を気に入ってくれていました。気分屋で、パンしか食べたくないだの豆は嫌いだなどとわがままをよく言いますが、私が叱ればたいていはしぶしぶ食べていたのです。
「今日は少し冷えるから豚肉のシチューね。マーレンのやつ、昨日はごねてサラダを残していたけれど、今日は絶対に緑の野菜を食べてもらわないと」
なんだかんだで、私の作った料理を食べる彼の姿を想像していると口元がほころびます。私もまた、彼の役に立つのが至上の喜びなのでした。
「ただいまー」
居間に入った私を待ち受けていたのは、仁王立ちのマーレンでした。
「・・・・・・よお」
一言そう言うと、彼はぎゅっと口を横一文字に結んでしまいます。
「“よお”はないでしょ、“よお”は。一日働いて帰ってきた妻に対して。子供じゃないんだから、お帰りなさいってちゃんと言いなさい」
すたすたと横を通り過ぎようとする私の腕を、彼がぐっと掴みました。
「なによ」
こちとら急いで手を洗いに行きたいのにと口を尖らせる私に向かって、マーレンは言います。
「セシーヌ、もうお前は僕の婚約者ではない。今夜一晩だけは泊めてやるから、明日の朝一番でこの屋敷を出て行け」
「・・・・・・はあぁっ?」
突然降ってきた、婚約破棄宣言でした。
てか、勘弁してよこんな疲れてるときに・・・・・・。
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