apocalypsis

さくら

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veritas liberabit vos

unus

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 盲目にして万物の王が叫ぶ。それは、無限の中核に棲む原初の混沌であり、知性も魂も持たず、深奥にて冒涜的な言辞を吐き散らす。そこに善はなく、悪もなく、道徳もない。下劣な太鼓の音と、かぼそい単調なフルートの音色が響きわたっているだけであった。
 闇に棲む無貌の黒いスフィンクスが、狂気と死をもたらす。這い寄る混沌、それは千もの異なる顕現を持ち、唯一の自由を手に、束縛の身である他の神々を冷笑する。
 
 遠くに、校庭で部活動に勤しむ生徒達の声が響いている。本格的な夏にはまだ早い時期だが、少し疲れたその声の調子が、ここ連日の暑さを物語っている。
 古ぼけた一冊の書物を胸に抱え込んだ女子生徒、 花乃はなのが数学の教科室のドアの前に佇んでいた。軽いため息を一つ吐くと、意を決したかのようにドアへと手を伸ばす。先ほどから何度か繰り返された動作であったが、今回は途中で止まること無くドアをノックした。だが、ドアが開くことはなく返事すら無かったのだ。それならばと思い切ってドアノブに手を掛け、軽く深呼吸すると一気にドアを開いた。
 ドアが開いた途端、大量の煙草の煙が流れ出て、あまりの煙たさに思わず手で振り払う。
「失礼します」
 教室の中へ向かって声を掛けたのち、ゆっくりと足を踏み入れた。煙が充満する中、モニターに向かう白衣姿の背中を確認する。
「先生」
 その背中に向かって声を掛けるが、相手は何の反応も示さない。
「 御神本おかもと先生!」
 少し声を大きな声で相手を呼ぶ。モニターに向かう姿が少し動き、ゆっくりとその頭が振り返る。
「成瀬か、どうした?」
 今にも灰が落ちそうな煙草を手にした銀縁のメガネの男、斎が訪ねてきた。それを見ながら、その手に持つ煙草の灰がいつ落ちるのかと少し興味を持つ。花乃の視線に気づいた斎は、手に持った煙草を灰と吸殻が積まれた灰皿へと押し付けた。
「分からないところでもあるのか?」
 再度、尋ねるてくる教師を改めて見つめる。見た目は、明らかに極上の部類に入るのだが、女子生徒の人気はあまりない。
 高校に入学して一ヵ月半、斎が授業中に怪しい話をしない時はなかった。異界の神や妖怪など、およそ数学からは程遠い話を語る。その様子は、女子生徒を遠ざけるのには十分なものであった。だからこそ、今、自分が置かれている状況を何とかしてくれるのではと、淡い期待を抱く。
「先生……、助けてください……」
 古びた本を両腕で抱え俯く目の前の女子生徒に、斎は内心でため息を吐く。そして、これから語られる話が煩わしいものでないことを思わず願ってしまう。
「何かあったのか?」
 安月給の割りに、教師という仕事は大変なものだ。例え煩わしい相談だったとしても、生徒が助けを求めている以上は話を聞かない訳にはいかない。そして、生徒の相談に適切な対応をしなければならないのだ。さらには、保護者の相談も受けなければならなくなったりもする。
「兄が、変なんです」
 俯いたまま花乃が答えた言葉に、斎は再度、内心でため息を吐く。
「最近、人が変わったみたいになることがあって……」
 それは、一介の数学教師に相談するような内容ではないだろうと思いつつも、適切な回答を頭の中で纏める。
「まずは、保健の先生かカウンセラーに相談するのが先ではないか?」
 当たり障りの無い返答に、花乃は顔を上げた。
「違うんです」
 そう言いながら、胸に抱えていた本を眼前の教師に向かって差し出した。
「この本を読み出してから、兄は変になったんです」
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