apocalypsis

さくら

文字の大きさ
10 / 236
veritas liberabit vos

decem

しおりを挟む
 斎は、男の目から見ても恰好が良いと思う。明らかに、女性には不自由をしなさそうな容姿である。それなのに、自分と何かあるはずがない。何を失礼な事を考えているのかと、馬鹿げた考えを否定するように、自分自身に言い聞かせた。
 天弥は改めて斎を見る。背が高く、スタイルも顔も良くて、一年の最初の頃は女子がよく騒いでいたのだが、なぜか途中から騒がれなくなってしまった。その理由は分からないが、男子には面白い教師と人気はある。
 部屋の中に広がり始めたコーヒーの香りが、天弥の思考を遮った。意識を戻すと、目の前のテーブルの上に置かれたマグカップが目に入る。斎の姿を探すと、マグカップを片手に、自分の机に寄りかかっている姿を見つけ、天弥の心を喜びと安心感が支配していく。無遠慮に見つめている事に気がつかれたのか、不意に自分へと向けられた斎の視線に戸惑い、慌てて顔を伏せた。
「あの、コーヒーありがとうございます」
 伏せた視線の先にあったマグカップを見つけ、自分の感情を押さえ込むかのように礼を述べた。
「いただきます」
 両手でマグカップを掴み、静かに口元へと運ぶ。すぐに天弥の表情が変わり、マグカップが口元から離れた。そして困ったような表情で、マグカップの中のコーヒーを見つめた。
 その様子に熱かったのかと斎は考えたが、いつまでも困ったようにマグカップを見つめる天弥に、別のことを思いつく。手に持ったマグカップを机の上に置くと、インスタントコーヒーを置いてある棚へと向かった。
「悪い、気がつかなかった」
 そう言い、斎は天弥の前にスティックシュガーが入った容器と、ミルクが入った容器を置く。いつもブラックで飲む斎の脳裏からは、砂糖やミルクの存在が見事に抜け落ちていたのだ。
「ありがとうございます」
 斎を見上げながら嬉しそうに笑うと、天弥はシュガーを手に取り、コーヒーへと入れ始めた。四袋入れ終わったところで、今度はミルクを手に取り、立て続けに二つ入れる。その様子に呆気に取られながらも、斎は手に持ったティースプーンを差し出した。天弥は笑顔でそれを受け取り、コーヒーをかき混ぜると、今度は美味しそうに飲み始めた。
 それは、すでにコーヒーの味がしないのではないかと思いながら斎は元の場所へと戻ると、机に置いたマグカップを手に取り口をつける。インスタントのため、美味しいというわけではないが、飲めないほどでもない。
 今度は美味しそうにコーヒーを飲む天弥を見つめながら、何を話そうかと考える。用事は、昼休みに済んだ。だが待っていると答えた以上、何かを話さなければと思い、話題を求めて机の上にある本を見た。今の天弥が、この本について何か知っているのなら良かったのだがと思い、本を手にする。
 ふと、脳裏に昼休みの天弥の言葉が浮かんだ。これは、祖父から贈られたものだと言っていた。その祖父のことを聞いてみれば何か分かるかもしれない、そう思いつく。
 斎は天弥に視線を向け、声をかけようとして思いとどまる。今の天弥に対して、名字と名前のどちらで呼ぶべきか思い悩んだのだ。
「天弥」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

女子切腹同好会

しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。 はたして、彼女の行き着く先は・・・。 この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。 また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。 マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。 世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。

N -Revolution

フロイライン
ライト文芸
プロレスラーを目指す桐生珀は、何度も入門試験をクリアできず、ひょんな事からニューハーフプロレスの団体への参加を持ちかけられるが…

処理中です...