21 / 236
veritas liberabit vos
viginti unus
しおりを挟む
天弥は斎から視線を逸らすかのように俯くと、自分の唇に軽く指を置いた。重ねあった唇の感触を思い出し、あの口付けは告白の返事だと思って良いのだろうかと考える。斎から、告白に対する明確な答えは返ってこなかったため、口付けの意味をどう捉えてよいのか分からなかったのだ。
斎は、助手席で黙って俯いている天弥の様子を確認した。先ほど、昼休みから変なのだと言った。それは、それまで斎の事を特に意識していなかったということになる。昼休みからということは、普段の天弥は何らかの形であの天弥に影響を受けているのだと思われる。
そもそも、あの別人のような天弥は何なのか。単純に思いつくのは、天弥に遊ばれているということだが、普段の天弥の性格からそれは考え難い。仮にそうであったとしても、男が男を誘惑することに得があるとも思えない。次に考えられるのは解離性同一性障害、いわゆる多重人格だが、専門家ではないため判断がつかない。
思考を巡らしているうちに駅が近づき、家路を尋ねる。そして天弥の示す通りに、車を走らせた。
「結構、近所だったんだな」
一軒の家の前で車を止め呟く斎の言葉に、天弥は小首を傾げた。
「近所って……?」
車から降りる斎に天弥も続く。
「俺の家」
斎の返事に、天弥は嬉しそうに笑みを浮かべた。それを見て、天弥の傍に移動した斎はその頭を軽く撫でる。
「今度、遊びに来るか?」
その言葉に天弥は、驚きと喜びが交じり合った複雑な表情で斎を見上げた。
「いいんですか?」
天弥はうるさく騒ぐ心臓を抑えるかのように、抱え込んでいる斎の鞄をさらに強く抱きしめた。
「休みの日は殆ど家にいるから、構わない」
「はい」
自分の気持ちは受け入れて貰えたと思っても良いのか、それとも、ただの生徒として招かれているのか天弥には分からなかったが、それでも斎に少しでも近づけるのは嬉しい事だった。
「じゃあ、また明日な」
別れの挨拶に、天弥は抱きかかえていた鞄を名残惜しそうに差し出した。斎はそれを受け取り、助手席へ放り投げると運転席へと向かう。
ドアの取っ手に手をかけた瞬間、強烈な生臭さが斎の鼻をつく。すぐ横を、襟を立てたトレンチコートに、鍔の広い帽子を目深に被った男がすれ違っていった。まだ夏というわけではないが、それなりの暑さがあるという中、異様とも思える姿の男を、振り返り確認する。
それらの出で立ちに強烈な生臭さ、そして少し上下に跳ねるような歩き方に、斎の中に一つの言葉が浮かぶが、そんなはずは無いとその考えを振り払うかのように、軽く頭を振った。あれも、創作の中の生物であり、現実に存在しているものではない。そして斎は、思い浮かんだ名前をまた記憶の中に埋もれさせる。
斎は天弥へと視線を移した。
「家に入れ」
本に引き続き、創作世界を思わせるものを目の当たりにして、訳の分からない妙な不安を少し感じた。しばしの沈黙の後、天弥は頷き玄関へと向かう。そして、ドアの前で立ち止まると振り返った。それを見て斎は、天弥に向かって軽く手を上げる。すぐに、嬉しそうに手を振り替えしてきた。
天弥が家の中へ入るのを確認した後、斎は車へと乗り込んだ。すぐにバックミラーを確認してみたが、先ほどの男の姿はすでに無かった。それに安堵した斎は、車を発進させ帰路をたどる。
斎は、助手席で黙って俯いている天弥の様子を確認した。先ほど、昼休みから変なのだと言った。それは、それまで斎の事を特に意識していなかったということになる。昼休みからということは、普段の天弥は何らかの形であの天弥に影響を受けているのだと思われる。
そもそも、あの別人のような天弥は何なのか。単純に思いつくのは、天弥に遊ばれているということだが、普段の天弥の性格からそれは考え難い。仮にそうであったとしても、男が男を誘惑することに得があるとも思えない。次に考えられるのは解離性同一性障害、いわゆる多重人格だが、専門家ではないため判断がつかない。
思考を巡らしているうちに駅が近づき、家路を尋ねる。そして天弥の示す通りに、車を走らせた。
「結構、近所だったんだな」
一軒の家の前で車を止め呟く斎の言葉に、天弥は小首を傾げた。
「近所って……?」
車から降りる斎に天弥も続く。
「俺の家」
斎の返事に、天弥は嬉しそうに笑みを浮かべた。それを見て、天弥の傍に移動した斎はその頭を軽く撫でる。
「今度、遊びに来るか?」
その言葉に天弥は、驚きと喜びが交じり合った複雑な表情で斎を見上げた。
「いいんですか?」
天弥はうるさく騒ぐ心臓を抑えるかのように、抱え込んでいる斎の鞄をさらに強く抱きしめた。
「休みの日は殆ど家にいるから、構わない」
「はい」
自分の気持ちは受け入れて貰えたと思っても良いのか、それとも、ただの生徒として招かれているのか天弥には分からなかったが、それでも斎に少しでも近づけるのは嬉しい事だった。
「じゃあ、また明日な」
別れの挨拶に、天弥は抱きかかえていた鞄を名残惜しそうに差し出した。斎はそれを受け取り、助手席へ放り投げると運転席へと向かう。
ドアの取っ手に手をかけた瞬間、強烈な生臭さが斎の鼻をつく。すぐ横を、襟を立てたトレンチコートに、鍔の広い帽子を目深に被った男がすれ違っていった。まだ夏というわけではないが、それなりの暑さがあるという中、異様とも思える姿の男を、振り返り確認する。
それらの出で立ちに強烈な生臭さ、そして少し上下に跳ねるような歩き方に、斎の中に一つの言葉が浮かぶが、そんなはずは無いとその考えを振り払うかのように、軽く頭を振った。あれも、創作の中の生物であり、現実に存在しているものではない。そして斎は、思い浮かんだ名前をまた記憶の中に埋もれさせる。
斎は天弥へと視線を移した。
「家に入れ」
本に引き続き、創作世界を思わせるものを目の当たりにして、訳の分からない妙な不安を少し感じた。しばしの沈黙の後、天弥は頷き玄関へと向かう。そして、ドアの前で立ち止まると振り返った。それを見て斎は、天弥に向かって軽く手を上げる。すぐに、嬉しそうに手を振り替えしてきた。
天弥が家の中へ入るのを確認した後、斎は車へと乗り込んだ。すぐにバックミラーを確認してみたが、先ほどの男の姿はすでに無かった。それに安堵した斎は、車を発進させ帰路をたどる。
0
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
女子切腹同好会
しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。
はたして、彼女の行き着く先は・・・。
この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。
また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。
マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。
世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる