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errare humanum est
decem
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ゆっくりと目を開けると同時に意識が覚醒する。少しぼやける視界で見慣れぬ室内を確認し、病室であることを理解した。天弥と唇を重ねた瞬間、なにかもごっそりと持って行かれる感触がした後、意識が途切れた。
ゆっくりと上体を起こし昨夜のことを確認する。上手く天弥にハメられてしまったが、収穫もあった。おそらく、本来の天弥には、普段の天弥が必要なのだ。そうでなければ、消えそうだった寸前で入れ替わるはずが無い。そのまま黙っていればすべてを取り戻すことが出来たのだ。
そして、取引について考え始めた。中身は違うが、身体は一つなのだ。そう簡単に割り切れるものでは無く承諾してしまった。これは、恋人を裏切ることになるのか不安が心の奥底から積もる。これからどれほど唇を重ねることになるのか分からない状況なのだ。
ベッドの周囲を見回し、メガネの在り処を確認すると手を伸ばした。周囲の状況をはっきりと確認できるようになると、ベッドから抜け出し靴を履く。メガネと同じ場所に置かれたネクタイを手にするとスラックスのポケットにねじ込んだ。
すぐに病室を後にし、天弥の病室を探すように廊下を見回した。看護士が目の前を通り過ぎていくが、特になにか咎められることもない。記憶を辿ってみれば隣の病室が目的地であり、すぐさま向かうと軽くドアをノックする。だが、なにも反応が無く、静かにドアノブを回した。
ゆっくりとドアを開き、中を覗き込むとまだベッドに横たわっている天弥の姿が視界に飛び込んでくる。なるべく音を立てずに室内に入りベッドへ向かった。
規則正しい寝息を立てる天弥を見下ろす。寝顔はどちらとも判断が付かないくらい、よく知る天弥と同じだった。
昨夜と同じく椅子に腰を下ろし、美しい寝顔を見つめる。こうしていると昨夜のことは夢であり、今ここにいるのはいつもの天弥のように思えてきた。
静かに手を伸ばし天弥の柔らかい髪に触れた。今すぐにでも目を覚まし微笑みかけてくれるのではと期待を持つ。その想いが通じたのか、ゆっくりと天弥の目が開かれるのを確認した。
「おはようございます」
一縷の望みを抱いてみたが、もろくも崩れ去ったことを知り、ゆっくりと手を戻す。その動きに合わすかのように天弥がゆっくりと上体を起こした。
「おはようのキスは無いのですか?」
天弥は悪戯な笑みと瞳を向ける。それから逃げるように斎は視線を反らした。
「好きでもない奴とは嫌なんじゃないのか?」
そう言いながら自身が置かれている複雑な状況に付いて考える。二人の間に、沈黙と重い空気が流れた。
「先生がそれを言うのですか?」
沈黙を破るように問いかける。斎は、その問いの意味が分からずに視線を戻した。
「散々、僕の身体を弄んだのに? 好きでもない相手の体を抱きまくっておいて?」
小悪魔的な笑みを浮かべ、ジッと見つめてくる天弥から斎は目を反らす。
「そ、それは……」
言葉を詰まらせながら斎は視線を戻した。天弥は、斎と向かい合うようにベッドの端に腰掛ける。
ゆっくりと上体を起こし昨夜のことを確認する。上手く天弥にハメられてしまったが、収穫もあった。おそらく、本来の天弥には、普段の天弥が必要なのだ。そうでなければ、消えそうだった寸前で入れ替わるはずが無い。そのまま黙っていればすべてを取り戻すことが出来たのだ。
そして、取引について考え始めた。中身は違うが、身体は一つなのだ。そう簡単に割り切れるものでは無く承諾してしまった。これは、恋人を裏切ることになるのか不安が心の奥底から積もる。これからどれほど唇を重ねることになるのか分からない状況なのだ。
ベッドの周囲を見回し、メガネの在り処を確認すると手を伸ばした。周囲の状況をはっきりと確認できるようになると、ベッドから抜け出し靴を履く。メガネと同じ場所に置かれたネクタイを手にするとスラックスのポケットにねじ込んだ。
すぐに病室を後にし、天弥の病室を探すように廊下を見回した。看護士が目の前を通り過ぎていくが、特になにか咎められることもない。記憶を辿ってみれば隣の病室が目的地であり、すぐさま向かうと軽くドアをノックする。だが、なにも反応が無く、静かにドアノブを回した。
ゆっくりとドアを開き、中を覗き込むとまだベッドに横たわっている天弥の姿が視界に飛び込んでくる。なるべく音を立てずに室内に入りベッドへ向かった。
規則正しい寝息を立てる天弥を見下ろす。寝顔はどちらとも判断が付かないくらい、よく知る天弥と同じだった。
昨夜と同じく椅子に腰を下ろし、美しい寝顔を見つめる。こうしていると昨夜のことは夢であり、今ここにいるのはいつもの天弥のように思えてきた。
静かに手を伸ばし天弥の柔らかい髪に触れた。今すぐにでも目を覚まし微笑みかけてくれるのではと期待を持つ。その想いが通じたのか、ゆっくりと天弥の目が開かれるのを確認した。
「おはようございます」
一縷の望みを抱いてみたが、もろくも崩れ去ったことを知り、ゆっくりと手を戻す。その動きに合わすかのように天弥がゆっくりと上体を起こした。
「おはようのキスは無いのですか?」
天弥は悪戯な笑みと瞳を向ける。それから逃げるように斎は視線を反らした。
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「散々、僕の身体を弄んだのに? 好きでもない相手の体を抱きまくっておいて?」
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「そ、それは……」
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