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1.裏世界怪異譚
第3話 今から一緒に、これから一緒に
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寿々と史が松下の事務所を訪ねたその週末。
「ではでは私はお先に失礼させて頂きます!三枝さん史君お疲れさまでした!」
寿々が教育担当をしている酒井が丁寧に挨拶を交わすと、午後6時半にはアガルタ編集部を後にしていった。
「あぁ、酒井さんお疲れ様~」
寿々は2日前に提出した企画書の手直しをしながら、横目でその酒井を見送った。
すると寿々の机周りは右隣に座る史と斜め向かいの丸だけになり、再び自分のモニターに視線を集中しかけたその時。
「三枝~?」
「!!」
急に先ほどまで酒井がいた左隣の椅子から声を掛けられたので思わずびっくりしてしまった。
「え?丸さん?何ですか急に・・」
どうもいつもの丸とは違ったトーンで話しかけられたもので、寿々も不気味に思い少しだけ身を引く。
「ちょ~っとだけ話しがあるから、今から飲みに行かない?」
「え、今ですか?」
丸からこうやって直接飲みに誘われるのはかなり久しぶりである。
3月くらいまでは月に2度くらいは半ば強制的に連れられていたのだが、それもここ3ヶ月くらいはパタリとなくなった。
もちろんその理由が松下にあることを寿々は分かってはいたが、そんな事を本人に告げられるわけもなく。
というか、この編集部内で自分と史の関係を一番察しているのが編集長の最上と丸だと言うのも理解していたので、寿々はお互いプライベートな事をあえて言わないのは寧ろ礼儀だよな。とすら思っていたくらいなのだ。
そんな寿々の思考を察しているかは不明だが、丸からこうやって二人で飲みに誘われるくらいだから何かしらの相談事があるのではないのか?そう考えた寿々は素直にその誘いを受ける事にした。
「・・・じゃあ、ちょっと片付けるのであと15分待ってください」
寿々は腕時計をチラッと見ると、少しだけ慌ただしく業務の締めを始める。
その様子を隣の史が少しだけ気にする様に見ていたので、丸は寿々越しに史にも声を掛けた。
「史、悪いけどちょっとだけ三枝借りるから」
と言われると、史も少しだけ気まずそうな顔をして
「いや、そんな事俺に断る必要ないでしょう・・」
と答える。
「分かってるけど、一応言っただけ」
と丸も仕方ないなぁと言いたげな顔で返した。
「じゃあ史、俺先帰るから」
「じゃあね~史!また来週!」
寿々と丸が普通に史に挨拶を交わして編集部を出て行こうとするのを、史はあえて目で追わないようにしてモニターに集中しながら、
「お疲れ様でした」
とだけボソリと返した。
そして寿々と丸がエレベーターに乗り込むとすぐに、
「ねぇ、なんで三枝は史との事を隠しているの?」
と丸が突如ダイレクトな質問をされた。
「はい?・・・・・・・いや、言う必要あります?」
もちろん寿々は丸がほとんどの事を分かってはいるだろうとは思っていたが、こうやってちゃんと質問されるとやはりめちゃくちゃ恥ずかしいな、と思い赤くなった顔を少しだけ逸らす。
「いや無いけどさぁ。でもなんか、ああやって自然にやろうとしてると逆に不自然だなぁって」
「はぁ、まぁそうでしょうけど。だからと言ってあからさまな態度は取れないでしょ仕事なんだし・・」
二人はエレベーターから下りると、ゆっくりといいとよのビルを出て渋谷駅方面へと歩き出す。
「で?いつから?」
「今ここで聞くんですか?飲み屋に行ってからでもいいでしょ?」
寿々はぐいぐいと質問してくる丸に、このテンションで酒入ったらどこまで聞きたがるんだろうかこの人は、とすでに少しだけうんざりしていた。
「いいじゃん別に。ただの雑談なんだし。で?いつから?」
「・・・・2・・ヶ月になります・・けど」
「え~そうなの?へぇ~」
丸は寿々のその気まずそうな顔を見ながらニヤニヤとしている。
「一緒に暮らしてもいるんでしょ?」
「ええまぁ、そこは別問題でそうなっただけなので」
「何かさ・・・史も今年入ってから急激に成長して、変わったなぁって思っていたけれど。三枝は何て言うか・・・・・ここ1ヶ月で急に変わったよね?」
「え?」
丸にそう言われて驚いて丸の方を向くと、丸の目は全く笑っていなかった。
それを見た寿々は思わずドキっとした。
「・・・・そ、んな事はないですよ。俺は史ほど変わっていないです。ええ、全くと言ってもいいほど前と同じです」
寿々は思わずごまかすように否定した。
しかし丸はゆっくりと歩きながら、自分の足元に視線を移し。
「えー・・そうかな。あたしさ、ほらハイヤーセルフで他人の高位の存在からもアドバイス聞けるでしょ?でも一人だけ全く出来ない人がいるのよね」
「?誰ですか?」
「シンディなんだけど、ほら今月からコラムを書いてもらってる」
「は!・・ああ・・シンディさん、はいはい」
寿々はそう言えば、史とシンディの繋がりを最初に作ったのが丸であったことを思い出し。そして更に史経由で自分とも繋がりが出来ていた事を、丸に話すのをすっかり忘れていた事に気がついた。
だから急にシンディの名前が出て来て正直焦った。
シンディは表向きには新宿2丁目のバーを拠点に、困っている人達の相談事を影で支える交信者、という形で界隈では有名な存在だ。
しかしその実態は人間としての魂の階級を全て終え、再びこの世界に降りてきた所謂『天使』という立場なのだ。
勿論その事実を知るのは寿々と史だけなのだが。
「でさ、シンディって本当に不思議な人でね。何て言うかアタシからするともう人間じゃないって感じなのね?その能力もそうなんだけど、周りを取り巻くオーラみたいなのも含めて。でさ、・・・・あたし少し前に気づいちゃったんだよね。・・・あ、三枝も同じだって」
「え?」
丸にそう言われて寿々は思わず足を止めてしまった。
「やっぱりそうなんだ」
丸はちらりと寿々を見ると再び歩き出し、
「別にだから何だって話じゃないのよ。ただね。あたし、シンディも三枝もちょっとだけ羨ましくてさ」
「別に、羨ましがられるような事じゃないですよ、全く・・。詳しい話は出来ないですけれど」
寿々も足元に視線を移し丸の後ろを歩きながら、落ち込むように話す。
「うん、わかってる。その理由を探ってはいけない、というかそれはお前が知るべき事じゃない。ってあたしの高位の存在からきっぱりと言われているから。ただね・・・あたしも人の未来を視てあげて、その人が間違った方向に行くのならば全力で止めてあげたいんだよねぇ・・・」
二人はセンター街の端にある、いきつけの居酒屋へと入っていった。
週末という事もあり、座席は全て埋まっていたので必然的にカウンターの端へと案内された。
「・・丸さん」
「?」
「丸さんがさっき言ってた、間違った方向に行くのならば全力で止めてあげたい人って、松下さんの事ですよね?」
寿々はもうこっちも隠す必要もないだろうと思い、素直に松下の名前を出した。
すると丸からの反応が一切なくなったので、ふと隣の丸へと目を向けると。丸の顔がかつてないほどに真っ赤になっているので逆に寿々の方が恥ずかしくなってしまい。
「いや、あの・・・・・そんなに??」
真面目な話し、寿々にはあの松下のどこに丸をそんな顔にさせる要素があるのか。そっちの方が不思議で仕方なかった。
「・・・・・三枝。お前本当に凄いね・・・本当にどういう能力なのソレ・・」
丸は顔を両手で覆い冷静になろうと深呼吸をする。
二人の前にお通しの枝豆と注文した生ビールが出て来ると、
「はぁ・・・・・。で?でどこまであたし達の事視えてたりするのよ」
と観念したように質問をしてきた。
「それは言えませんけれど。でも、俺には悪い未来は視えていません」
「・・・・そっか。それってさ、どんなタイミングで未来が視えたりするものなの?」
「・・・そうですねぇ。何とも言い難いですけれど、必要な時に視えるって感じです。視ようとして視えるのではなく、視させられるから意味があるんだとそう分かるんです」
丸は少しだけ神妙な顔になるとビールをぐいっと半分飲み。
「じゃあさ・・・今あたしの未来って視えたりする?」
と聞いてきたが、現時点では丸の未来に特別な事は視えてこなかった。
正直言って寿々はまだ天使としては半人前だ。
シンディのようにいつでもどこでも意識を集中させれば、人間の運命の相手とか未来がパッと視えてきたりはしない。
それにこの能力は天使によっても個体差があるようだ。
「う~ん、今は特別な事は視えてこないですね・・・でも、どうしてですか?そんな質問をするって事は、何かあったんですか?」
「あ~・・・えっと。実はアイツと今週ずっと連絡が取れないのよね・・・」
「え?」
寿々はそれを聞いてすぐに〝バックルーム〟の映像が頭をよぎった。
と同時に今週の頭に松下と別れてすぐに感じた胸騒ぎが再び蘇る。
「連絡取れないって、正確にはいつからです?ちなみに今週の月曜に俺と史が松下さんの事務所に行ってたのは知っていますよね?」
寿々は少しだけ焦ったように丸に質問をした。
「え、ちょっと待って。その話知らなかった。え?その時アイツ何て言ってたの?」
「・・・・今、松下さんが何を追っているのか丸さんは知らないですか?ネットで大バズりしたライブ動画の映像を追って、自分も同じような動画撮ろうとしている事も?」
丸は少しだけ思い出すように顎に手をあてる。
「・・そう言えば先週末に会った時に、確かにアイツずっと動画を見ていたけれど。ごめん、内容までは聞いていなかった。・・・じゃあもしかして、そのバズった動画と同じもの撮る為にその場所に行ってるって事かな・・。ちなみにその動画って?」
寿々はいよいよ嫌な予感が的中しそうで本気で怖くなってきた。
なので丸にはその動画の詳しい内容までは分からないと言ってごまかし、その後1時間くらいで飲み屋から出ると動揺を悟られないよう、平常心を保ちつつ丸とはその場で別れた。
そしてその足で急いで再び編集部へと戻った。
「史!」
編集部に戻ると、史は誰もいなくなった編集部内で一人黙々と仕事を続けていた。
「・・どうしたんですか?丸さんとの飲みは?」
史は戻ってくるのが早かったので少しだけ驚いていたが、焦った様子なのを見るとすぐに寿々の方へと向き直り真剣な顔でもう一度聞き返した。
「どうしたんですか?」
「やっぱり松下さん、一人で芝浦ふ頭の例のビルに行ったみたいなんだ。色々と丸さんと話したけれど、どうやら今週ずっと連絡が取れていないみたいで・・・」
「ちょっと、落ち着いて下さい?」
「?」
動揺する寿々の両腕を支えるようにして抑える史に、寿々は少しだけ苛立ちを見せる。
「・・いいですか?俺は絶対に行かないって言いましたよね?寿々さん、お願いだから少しは俺の言う事も聞いてください」
「・・・・・」
寿々は史の真剣な目を見て、当然史がどんな思いでその言葉を言っているのかよく理解はしていた。
でも、それでも、救えるはずの命を救わないなんて事が寿々に出来るわけがなかった。
それは寿々が幼い頃からずっとそう願っていたからだ。
自分が死ぬまでの28年間、実に色んな人の〖死〗が身近にあった。
だからこそ、今自分がこうやって再びこの世に戻ってきた事に必要以上の使命感のようなものを感じてしまうのも無理はなかった。
寿々は史の左手を取ると、深く繋ぎ握りしめ、
「うん、ごめん。確かに俺がこうやってもう一度史の隣にいられるのは、史が強く望んでくれたからだもんな。自分勝手に生きていいわけじゃないのだけは分かるよ。・・・でも俺、やっぱり救える人を救わずに、このまま自分だけ良ければいいって考えのままでは生きてはいけない。・・なぁ、史はどうすればいいと思う?」
真剣な目で見つめ返すと、史も途端に困ったように繋いだ手を強くに握り返しながらそのまま右手で頭を押さえた。
「・・・・はぁ。せめて寿々がこの世から二度といなくならないって保証さえあれば・・」
史は凹むように深い溜息をつく。
「俺の魂はもう二度といなくはならないぞ?確かに肉体は失うかもしれないけれど」
「だから・・肉体も魂もどっちもいてくれないと嫌なの俺は!」
1ヶ月前の事を思い出したのか、右手で押さえていた大きな手の下から少しだけ睨むように寿々を見た史の目には涙が浮かんでいる。
「二人で一緒なら何とか・・・」
「ならなかったでしょ実際・・・勘弁して、本当に・・」
史は仕事中だというのに、もう無理とばかりに机に塞ぎ込んでしまった。
当然これは全て寿々のせいである。
寿々も心から悪かったと思い胸が痛んだ。
「ごめん本当に・・。俺史を泣かせたいわけじゃないんだよ」
「・・・・・寿々さんは、俺への愛が足らなすぎなんですよ」
「いやいや、あるだろ。十分あるだろ?」
「無くはないです。でも全然足りません。というか何でそんなに博愛精神に溢れているんです?正直ムカつきます。ましてやあの松下の為?冗談じゃないですよ!」
史はキャパオーバーになったからか、急に切れ始めた。
そしてがばっと起き上がるとまだ機嫌の悪い表情と真っ赤な目で寿々を見つめ。
「・・・じゃあわかりました。百歩譲って、ビルの外にまでなら行ってもいいです。そこで俺が透視するので、それで松下が見つからなかったらすぐに帰ります。その代わり!」
「その代り・・?」
「俺達が松下を探すのは、俺が松下を殴る為です。いいですね??」
「はぁあ??」
はぁ?とは言ってみたものの、史の目は大真面目で怒りに満ちている。
寿々もこれは冗談で言っているわけでないないというのがすぐに分かった。
恐らく史にとっては、リスクを負うのにその口実が他人を助ける為だけじゃダメなのだ。足りないのだ。
あくまでもリスクを負うのは自分達、いや、自分の為という口実がないとどうしても納得がいかないのだと。
寿々は正直呆れてしまいそうだったが、これは史と自分との考え方の完全な相違であり、そして史にとって最も覆せない信条そのものとも思えた。
だからこそ馬鹿にしたり否定することはできなかった。
「・・・・わかった。それでいい。というかお前は殴らなくていい、俺がお前の分殴る!」
寿々は拳を握ると、眉間に皺をぎゅっと寄せ覚悟したように答えた。
「え?」
史も寿々が急にそんな発言をするものだから逆に驚いているようだ。
「史が殴ったら本気で松下さん死んじゃうかもしれないからな、そこは俺がやる。俺がお前の怒りの為に松下さんを殴る目的で探す。これなら文句はないだろ?」
「・・・・・・・・・文句・・ないです」
「ではでは私はお先に失礼させて頂きます!三枝さん史君お疲れさまでした!」
寿々が教育担当をしている酒井が丁寧に挨拶を交わすと、午後6時半にはアガルタ編集部を後にしていった。
「あぁ、酒井さんお疲れ様~」
寿々は2日前に提出した企画書の手直しをしながら、横目でその酒井を見送った。
すると寿々の机周りは右隣に座る史と斜め向かいの丸だけになり、再び自分のモニターに視線を集中しかけたその時。
「三枝~?」
「!!」
急に先ほどまで酒井がいた左隣の椅子から声を掛けられたので思わずびっくりしてしまった。
「え?丸さん?何ですか急に・・」
どうもいつもの丸とは違ったトーンで話しかけられたもので、寿々も不気味に思い少しだけ身を引く。
「ちょ~っとだけ話しがあるから、今から飲みに行かない?」
「え、今ですか?」
丸からこうやって直接飲みに誘われるのはかなり久しぶりである。
3月くらいまでは月に2度くらいは半ば強制的に連れられていたのだが、それもここ3ヶ月くらいはパタリとなくなった。
もちろんその理由が松下にあることを寿々は分かってはいたが、そんな事を本人に告げられるわけもなく。
というか、この編集部内で自分と史の関係を一番察しているのが編集長の最上と丸だと言うのも理解していたので、寿々はお互いプライベートな事をあえて言わないのは寧ろ礼儀だよな。とすら思っていたくらいなのだ。
そんな寿々の思考を察しているかは不明だが、丸からこうやって二人で飲みに誘われるくらいだから何かしらの相談事があるのではないのか?そう考えた寿々は素直にその誘いを受ける事にした。
「・・・じゃあ、ちょっと片付けるのであと15分待ってください」
寿々は腕時計をチラッと見ると、少しだけ慌ただしく業務の締めを始める。
その様子を隣の史が少しだけ気にする様に見ていたので、丸は寿々越しに史にも声を掛けた。
「史、悪いけどちょっとだけ三枝借りるから」
と言われると、史も少しだけ気まずそうな顔をして
「いや、そんな事俺に断る必要ないでしょう・・」
と答える。
「分かってるけど、一応言っただけ」
と丸も仕方ないなぁと言いたげな顔で返した。
「じゃあ史、俺先帰るから」
「じゃあね~史!また来週!」
寿々と丸が普通に史に挨拶を交わして編集部を出て行こうとするのを、史はあえて目で追わないようにしてモニターに集中しながら、
「お疲れ様でした」
とだけボソリと返した。
そして寿々と丸がエレベーターに乗り込むとすぐに、
「ねぇ、なんで三枝は史との事を隠しているの?」
と丸が突如ダイレクトな質問をされた。
「はい?・・・・・・・いや、言う必要あります?」
もちろん寿々は丸がほとんどの事を分かってはいるだろうとは思っていたが、こうやってちゃんと質問されるとやはりめちゃくちゃ恥ずかしいな、と思い赤くなった顔を少しだけ逸らす。
「いや無いけどさぁ。でもなんか、ああやって自然にやろうとしてると逆に不自然だなぁって」
「はぁ、まぁそうでしょうけど。だからと言ってあからさまな態度は取れないでしょ仕事なんだし・・」
二人はエレベーターから下りると、ゆっくりといいとよのビルを出て渋谷駅方面へと歩き出す。
「で?いつから?」
「今ここで聞くんですか?飲み屋に行ってからでもいいでしょ?」
寿々はぐいぐいと質問してくる丸に、このテンションで酒入ったらどこまで聞きたがるんだろうかこの人は、とすでに少しだけうんざりしていた。
「いいじゃん別に。ただの雑談なんだし。で?いつから?」
「・・・・2・・ヶ月になります・・けど」
「え~そうなの?へぇ~」
丸は寿々のその気まずそうな顔を見ながらニヤニヤとしている。
「一緒に暮らしてもいるんでしょ?」
「ええまぁ、そこは別問題でそうなっただけなので」
「何かさ・・・史も今年入ってから急激に成長して、変わったなぁって思っていたけれど。三枝は何て言うか・・・・・ここ1ヶ月で急に変わったよね?」
「え?」
丸にそう言われて驚いて丸の方を向くと、丸の目は全く笑っていなかった。
それを見た寿々は思わずドキっとした。
「・・・・そ、んな事はないですよ。俺は史ほど変わっていないです。ええ、全くと言ってもいいほど前と同じです」
寿々は思わずごまかすように否定した。
しかし丸はゆっくりと歩きながら、自分の足元に視線を移し。
「えー・・そうかな。あたしさ、ほらハイヤーセルフで他人の高位の存在からもアドバイス聞けるでしょ?でも一人だけ全く出来ない人がいるのよね」
「?誰ですか?」
「シンディなんだけど、ほら今月からコラムを書いてもらってる」
「は!・・ああ・・シンディさん、はいはい」
寿々はそう言えば、史とシンディの繋がりを最初に作ったのが丸であったことを思い出し。そして更に史経由で自分とも繋がりが出来ていた事を、丸に話すのをすっかり忘れていた事に気がついた。
だから急にシンディの名前が出て来て正直焦った。
シンディは表向きには新宿2丁目のバーを拠点に、困っている人達の相談事を影で支える交信者、という形で界隈では有名な存在だ。
しかしその実態は人間としての魂の階級を全て終え、再びこの世界に降りてきた所謂『天使』という立場なのだ。
勿論その事実を知るのは寿々と史だけなのだが。
「でさ、シンディって本当に不思議な人でね。何て言うかアタシからするともう人間じゃないって感じなのね?その能力もそうなんだけど、周りを取り巻くオーラみたいなのも含めて。でさ、・・・・あたし少し前に気づいちゃったんだよね。・・・あ、三枝も同じだって」
「え?」
丸にそう言われて寿々は思わず足を止めてしまった。
「やっぱりそうなんだ」
丸はちらりと寿々を見ると再び歩き出し、
「別にだから何だって話じゃないのよ。ただね。あたし、シンディも三枝もちょっとだけ羨ましくてさ」
「別に、羨ましがられるような事じゃないですよ、全く・・。詳しい話は出来ないですけれど」
寿々も足元に視線を移し丸の後ろを歩きながら、落ち込むように話す。
「うん、わかってる。その理由を探ってはいけない、というかそれはお前が知るべき事じゃない。ってあたしの高位の存在からきっぱりと言われているから。ただね・・・あたしも人の未来を視てあげて、その人が間違った方向に行くのならば全力で止めてあげたいんだよねぇ・・・」
二人はセンター街の端にある、いきつけの居酒屋へと入っていった。
週末という事もあり、座席は全て埋まっていたので必然的にカウンターの端へと案内された。
「・・丸さん」
「?」
「丸さんがさっき言ってた、間違った方向に行くのならば全力で止めてあげたい人って、松下さんの事ですよね?」
寿々はもうこっちも隠す必要もないだろうと思い、素直に松下の名前を出した。
すると丸からの反応が一切なくなったので、ふと隣の丸へと目を向けると。丸の顔がかつてないほどに真っ赤になっているので逆に寿々の方が恥ずかしくなってしまい。
「いや、あの・・・・・そんなに??」
真面目な話し、寿々にはあの松下のどこに丸をそんな顔にさせる要素があるのか。そっちの方が不思議で仕方なかった。
「・・・・・三枝。お前本当に凄いね・・・本当にどういう能力なのソレ・・」
丸は顔を両手で覆い冷静になろうと深呼吸をする。
二人の前にお通しの枝豆と注文した生ビールが出て来ると、
「はぁ・・・・・。で?でどこまであたし達の事視えてたりするのよ」
と観念したように質問をしてきた。
「それは言えませんけれど。でも、俺には悪い未来は視えていません」
「・・・・そっか。それってさ、どんなタイミングで未来が視えたりするものなの?」
「・・・そうですねぇ。何とも言い難いですけれど、必要な時に視えるって感じです。視ようとして視えるのではなく、視させられるから意味があるんだとそう分かるんです」
丸は少しだけ神妙な顔になるとビールをぐいっと半分飲み。
「じゃあさ・・・今あたしの未来って視えたりする?」
と聞いてきたが、現時点では丸の未来に特別な事は視えてこなかった。
正直言って寿々はまだ天使としては半人前だ。
シンディのようにいつでもどこでも意識を集中させれば、人間の運命の相手とか未来がパッと視えてきたりはしない。
それにこの能力は天使によっても個体差があるようだ。
「う~ん、今は特別な事は視えてこないですね・・・でも、どうしてですか?そんな質問をするって事は、何かあったんですか?」
「あ~・・・えっと。実はアイツと今週ずっと連絡が取れないのよね・・・」
「え?」
寿々はそれを聞いてすぐに〝バックルーム〟の映像が頭をよぎった。
と同時に今週の頭に松下と別れてすぐに感じた胸騒ぎが再び蘇る。
「連絡取れないって、正確にはいつからです?ちなみに今週の月曜に俺と史が松下さんの事務所に行ってたのは知っていますよね?」
寿々は少しだけ焦ったように丸に質問をした。
「え、ちょっと待って。その話知らなかった。え?その時アイツ何て言ってたの?」
「・・・・今、松下さんが何を追っているのか丸さんは知らないですか?ネットで大バズりしたライブ動画の映像を追って、自分も同じような動画撮ろうとしている事も?」
丸は少しだけ思い出すように顎に手をあてる。
「・・そう言えば先週末に会った時に、確かにアイツずっと動画を見ていたけれど。ごめん、内容までは聞いていなかった。・・・じゃあもしかして、そのバズった動画と同じもの撮る為にその場所に行ってるって事かな・・。ちなみにその動画って?」
寿々はいよいよ嫌な予感が的中しそうで本気で怖くなってきた。
なので丸にはその動画の詳しい内容までは分からないと言ってごまかし、その後1時間くらいで飲み屋から出ると動揺を悟られないよう、平常心を保ちつつ丸とはその場で別れた。
そしてその足で急いで再び編集部へと戻った。
「史!」
編集部に戻ると、史は誰もいなくなった編集部内で一人黙々と仕事を続けていた。
「・・どうしたんですか?丸さんとの飲みは?」
史は戻ってくるのが早かったので少しだけ驚いていたが、焦った様子なのを見るとすぐに寿々の方へと向き直り真剣な顔でもう一度聞き返した。
「どうしたんですか?」
「やっぱり松下さん、一人で芝浦ふ頭の例のビルに行ったみたいなんだ。色々と丸さんと話したけれど、どうやら今週ずっと連絡が取れていないみたいで・・・」
「ちょっと、落ち着いて下さい?」
「?」
動揺する寿々の両腕を支えるようにして抑える史に、寿々は少しだけ苛立ちを見せる。
「・・いいですか?俺は絶対に行かないって言いましたよね?寿々さん、お願いだから少しは俺の言う事も聞いてください」
「・・・・・」
寿々は史の真剣な目を見て、当然史がどんな思いでその言葉を言っているのかよく理解はしていた。
でも、それでも、救えるはずの命を救わないなんて事が寿々に出来るわけがなかった。
それは寿々が幼い頃からずっとそう願っていたからだ。
自分が死ぬまでの28年間、実に色んな人の〖死〗が身近にあった。
だからこそ、今自分がこうやって再びこの世に戻ってきた事に必要以上の使命感のようなものを感じてしまうのも無理はなかった。
寿々は史の左手を取ると、深く繋ぎ握りしめ、
「うん、ごめん。確かに俺がこうやってもう一度史の隣にいられるのは、史が強く望んでくれたからだもんな。自分勝手に生きていいわけじゃないのだけは分かるよ。・・・でも俺、やっぱり救える人を救わずに、このまま自分だけ良ければいいって考えのままでは生きてはいけない。・・なぁ、史はどうすればいいと思う?」
真剣な目で見つめ返すと、史も途端に困ったように繋いだ手を強くに握り返しながらそのまま右手で頭を押さえた。
「・・・・はぁ。せめて寿々がこの世から二度といなくならないって保証さえあれば・・」
史は凹むように深い溜息をつく。
「俺の魂はもう二度といなくはならないぞ?確かに肉体は失うかもしれないけれど」
「だから・・肉体も魂もどっちもいてくれないと嫌なの俺は!」
1ヶ月前の事を思い出したのか、右手で押さえていた大きな手の下から少しだけ睨むように寿々を見た史の目には涙が浮かんでいる。
「二人で一緒なら何とか・・・」
「ならなかったでしょ実際・・・勘弁して、本当に・・」
史は仕事中だというのに、もう無理とばかりに机に塞ぎ込んでしまった。
当然これは全て寿々のせいである。
寿々も心から悪かったと思い胸が痛んだ。
「ごめん本当に・・。俺史を泣かせたいわけじゃないんだよ」
「・・・・・寿々さんは、俺への愛が足らなすぎなんですよ」
「いやいや、あるだろ。十分あるだろ?」
「無くはないです。でも全然足りません。というか何でそんなに博愛精神に溢れているんです?正直ムカつきます。ましてやあの松下の為?冗談じゃないですよ!」
史はキャパオーバーになったからか、急に切れ始めた。
そしてがばっと起き上がるとまだ機嫌の悪い表情と真っ赤な目で寿々を見つめ。
「・・・じゃあわかりました。百歩譲って、ビルの外にまでなら行ってもいいです。そこで俺が透視するので、それで松下が見つからなかったらすぐに帰ります。その代わり!」
「その代り・・?」
「俺達が松下を探すのは、俺が松下を殴る為です。いいですね??」
「はぁあ??」
はぁ?とは言ってみたものの、史の目は大真面目で怒りに満ちている。
寿々もこれは冗談で言っているわけでないないというのがすぐに分かった。
恐らく史にとっては、リスクを負うのにその口実が他人を助ける為だけじゃダメなのだ。足りないのだ。
あくまでもリスクを負うのは自分達、いや、自分の為という口実がないとどうしても納得がいかないのだと。
寿々は正直呆れてしまいそうだったが、これは史と自分との考え方の完全な相違であり、そして史にとって最も覆せない信条そのものとも思えた。
だからこそ馬鹿にしたり否定することはできなかった。
「・・・・わかった。それでいい。というかお前は殴らなくていい、俺がお前の分殴る!」
寿々は拳を握ると、眉間に皺をぎゅっと寄せ覚悟したように答えた。
「え?」
史も寿々が急にそんな発言をするものだから逆に驚いているようだ。
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さらに佐野の恋人は意外な人物で、輝は大混乱。
※ドロドロではなく純愛系を目指していますが、ビターテイストなお話です
※理想的で格好いいヒーローではありません(…すみません)
※調べながら執筆をしているのですが、無知なところも多々あるので、間違っているところがありましたら教えてください。ツイッターでも受け付けています。
https://twitter.com/SATORYO_HOME
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
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