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一章、アリヤ

三話、新学期とともに

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◆◆◆
 夏休み明け、それは学校朝会から始まり生徒たちを憂鬱にさせて精神の弱きものを篩に落とす作業から始まる。

「えー、2-2の担任中村雨先生ですが『マヂ病み~☆リスカしぉ……つらたん、学校無理ぴよ。うぇぇぇぇ~↑↑↑テンションあげあげ~↑↑』と、退職届を夏休み中に提出したため、双子の妹である中村霧先生に担任が変わりました」

 そして例の如く、校長先生の長い話。
 それは夏休み中に元気でしたか、などと言い長ったるい話しをぶちぶち呟く時間である。


「(……2-2って僕が行く予定のクラスじゃなかったっけ……)」


 集会を終え、2-2の教室では重い空気が流れていた。

「と、いうわけで……中村霧、です……よろしくお願いします……よよよ、お姉ちゃんのいるニートの森に帰りたい……」

 怯え気味の先生の紹介。この先生大丈夫か、と思うことはあるものの、重い理由はそこではなかった。

「では、その……今学期からクラスに新しい仲間できるので、紹介、しますね…。あ、私じゃないですよ…別にもう一人います…はい」

 ドクン……クラスの生徒の大半が一瞬で緊張を感じ取った。
 当然だ、クラスの生徒は事前に〝とある少女〟が復学すると知らされていたのだ。

「(うちのクラスだったか……夏休み前に突然クラス替えあったからなあ……)」
「(うちのクラスだけ、あの件に大きく関わったやつが入ってなかったしな……あそこまで露骨なクラス分けされたから気付いてたわ)」

 このクラスのメンバーは全員〝浅く関わってきた〟生徒だけだった。
 多少、美味しい思いもし〝ある生徒〟を傷付けたものの、他の生徒と比べればまだマシ……そいういう生徒が集まっていた。

「…………」

 ガラガラ、無言で扉が開けられる。
 そこには生徒が想像した通りの姿があった。

「(やっぱり、モデル級に可愛い……)」
「(リアルケモミミ美少女……)」

 銀色の髪を揺らし、獣の耳はフワリと風を受ける、また直立してその柔らかさを示した。
 背は中学生ほどのものになっており……瞳の奥にはただただ深い闇と虚無が広がっていた。

「「「ッ」」」

 雪のように、病的なほどに白く繊細な肌。
 白銀の髪はただただ力無く肩にまでスー、と伸びている。
 瞳は色を宿さず、虚無としか言いようがない闇を放っている。

 病んで白く壊れて白く疲れ切っている白い


 全員が震えた。彼女に目を向けられるだけで、自分のしたことがジワリと胸に刺さったのだ。
 全員が、まだマシな部類となっていても世間一般ではイジメに分類されることをしてきたのだ。

「…………あ、あ、の……菊池アラカ、さん。です」

 そして極め付けは腕と足だ。
 右腕、左足……部位欠損。
 日常を過ごせばあまり目にすることがない壊れ方に息を呑む。

「声を発することが、ほぼほぼ不可能らしいので……えと、一礼とか、お願い、できます……?」

 中村先生に言われてアラカは一礼をした。それで中村先生はひとまず安堵の息を吐く。

「ふう、よかった。先生このクラスでやって行けそう……かな。
 うん、じゃあ菊池さんは後ろの空いてる席に」

 指示され、ペコリと軽い会釈をしてからアラカは指定された席に向かおうとした。

「(あの事件……噂は聞いてたけど……想像を越えて、酷いかもしれない)」

 霧先生はこの日のことを事前に想像していた。
 会話も指示も出来ない、なんていう展開なんだろうな、などと考えていた。

 しかし実際は会話は出来ないまでも指示は聞いてくれていた。
 予想よりもマシな状況、だがそれでも霧先生は戦慄を隠せなかった。

「(あの子の、目……何も写っていなかった……まるで、ガラス玉を覗いているような、そんな感覚に……なんだったの、あの、子)」

 それはある種のオーラだ。
 卓越した殺人者には、それ相応の不安を周囲に与えるのと同じように菊池アラカという少女は周囲へ「この人は壊れてる」と強制的に認識させていたのだ。

 それほどの壊れ方、それほどの病みを周囲は感じざるを得なかった。

「(ん……? というかこの子、なんで首輪つけてるんだろ)」

 不意に気になって、アラカの首輪へ目を向ける霧先生。
 しかしこれより先は間違いなく更なる闇が眠っていると確信めいた予感を覚えて……連絡事項に映った。

「え~、山田くんは夏休み中に道端に落ちてる犬の糞を美少女の糞と勘違いして食して死んだので、くれぐれも拾い食いはしないように。
 それと明日からですが~。」

 その後、連絡事項を終えてようやく一日が終わった。

 その間、誰も何も喋れらなかった。否、喋る気になれなかった。

 誰も喋らない静かな様子で淡々と進み……全クラスで一番最初に終わったにも関わらず、霧先生は過去一番で疲れた身体に辟易した。
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