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一章、アリヤ

六話、仲良くなっちゃったかー

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 雷鳴が轟き、アラカを守護するように男を弾き飛ばした。

 そして齎される異能はそれだけに過ぎない。

 ドロドロに溶けた血の雫が砂となり、床を〝殺し始める。

 腐ると言う現象すら許されず、フローリングの床が灰のように空気へ舞う姿は正しく〝殺す〟と呼んで差し支えないだろう。

 そしてその破壊の権化めいた現象を引き起こしているのは真実、アラカであった。

「え、力は無いってニュースで」
「いや待て、これ、かなり危険なんじゃ」

「ひぃぃぃぃぃぃっ!?!?」

 アラカに馬乗りした男はその黒い稲妻に怯え惑い、背後に退けそった。

「っ……っ……」

 パチッ、バチッ、と身体を黒い稲妻が守るように蝕む。
 それにアラカは気付かない。

「ストップ」

 その聞き覚えのある声にピタリ、と稲妻が止まり指向性を宿して男————コードレスへ向かった。

「……」
「生きてるかね、綴くん」
「問題ありませんよ。お気遣いなく」

 それはコードレスと、菊池正道であった。
 何故二人がいるのだろう、とでもいいたげな視線を送る。

「……?」

 攻撃が少しだけ弱まる、

「様子を見にきた、保護者なのでな」
「迎えに来たのですよ」

 最悪の発言だが、その中身はどちらも同じである。

「ああ、正道さんとは丁度下で会ったので」
「ああ、そこで保護者として軽く会話をしたのだが」

 二人で並び、
 青年は腕を捲りコキリと鳴らした————笑顔のまま。
 上司は眼鏡を外して脳天に血管を浮かべて見下すようこちらを見た————笑顔のまま。

「「仲良くなった」」

 その割には瞳に殺意が満ちているのは何故だろうか。
 そして先ほどまでアラカを殴っていた男へその殺意が向けられているのは気のせいだろうか。

 もう男は泡を吹いて倒れる。

「アラカくん。何故泣いているのですか」

 アラカは怯える手で、必死にコードレスの腕を掴み、自分の体に寄せた。

「…………」

「っ……っ……っ……」

「…………」

 無言で、コードレスは上着を頭からかぶせた。
 それはコードレスがこの状態をそれだけのことだ、と判断したことに他ならない。

 菊池アラカが誰かに抱き着いて、涙を堪えている。
 
 コードレスは腕をピクリと動かそうとしてみたが、きっと彼女にはされるがままにされたほうがいいだろう、と。

「……対応は任せます」
「そっちもだ。泣かせたら保護者として貴様を殺す。
 嫁に云々とか抜かしても殺す」

 同時にアラカは気絶して、目尻に涙を湛えたままに胸へ倒れ込んだ。
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