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二章、怪異 死想
五話、体育
しおりを挟むそれはもしもの時に使用をせよ、と言われていた魔力の込められた精神安定剤。
異界の法則が込められたそれは空想の中の魔術のように効果が早い。
「…………う、ん……ありが、とう」
「……え?」
男子生徒はまさか許されると思っていなかったのか、困惑と驚愕の篭もった声が漏れる。
「前、例のな……い中、で勇気を…出してくれた、それだけで許す、に値、するよ。
————もう、噂で人を…傷つけないでね」
謝るのは、当たり前に怖いし、逃げ出したくもなる。
しなきゃいけない当たり前のことなのに恐ろしくして仕方ない。
そう続け、その上で勇気を出してくれたのだとアラカは言った。
それを汲んだ上でアラカは許そうとしていたのだ。
「傷つけよう…とした時に、謝る前、に感じて、いた恐、怖を…思い出し、て」
————ピリ。
だが、それでも。
「そし、て少しだけ、もう少し…だけ、周りを見て、みてほしい」
————じわ。
傷付けられた過去だけは確かなものであり
「それだ、けで…反省、と呼ぶ、には十分だよ」
————スーッ
それは着実に、間違いなくアラカの胸に刻まれており。
「っ……!」
——ポタ……——
床に溢れた〝雫〟が、冷たくポタ…という音だけを教室へ響かせる。
それに気付いて、男子生徒は突然、息が出来なくなるほどに苦しくなる。
「…………勇気、を、出すまで…怖かった、だろう」
「ぁ……っ、っ゛…っ」
こちらを気遣う声に、震えが止まらなくなる。
「? 反省…すれば、過去は、もう過去でしか、ないのだから。
ね、元気出して」
「……ち、が、そうじゃ、なくて……っ」
嗚咽の中で、ぐちゃぐちゃな心地の中で男子生徒はなんとか声を絞り出す。
アラカの人格が極めて完成度の高い善性であること。
相手のことを第一に考え出すその思考が、あまりにも加害者(コチラ)の心を抉ってくるのだ。
「ごめん、なさい……ごめんなさい……ごめんなさい……」
男子生徒は、もう膝を落として、咽び泣くように謝るしか出来なかった。
それを前にアラカは首を傾げていた。
————自分が泣いていることにすら、気付かないまま。
「ちがう、違うんだ……苦しい、のは、俺じゃなくて、うぁ、ぁ…。っ、ぁぁぁぁ」
怒りを露わにしてくれるなら、これ以上なく救われた気持ちになるのだろう。
だが、この少女はダメだった。
「ごめんなざい、ごめんな゛ざぃ゛…っ。ぁ、ぁあ、ごめん゛な、ざい……」
この少女は壊れてるとしか思えない。
苦しいのに、悲しいのに、本当は怒りでどうにかなりそうなのに相手を尊重し、相手の立場に立つばかりで————それがどうしようもなく、改心した加害者の心を抉るのだ。
怒って欲しい、殴ってでもいいからその本音を露わにして欲しい。
だけどそれすら願えない、願うことすら罪として心臓を穿つのだから。
ここまで壊したのは自分たちだと、その意識で心が抉られ続ける。
「……? よし、よし」
まだ20にもならない子供だ、咽び泣いたとしても仕方ないだろう。
だが、そんなことさえアラカは汲み出すのだ——この子も、まだ子供でしかないというのに。
男性生徒からは、涙が滝のように溢れ出す。複雑な心境が更にぐちゃぐちゃに掻き乱される心境で、もう苦しいのに、苦しいのから救われるのに、更に苦しいというどうしようも無い矛盾で頭がおかしくなりそうだった。
「君は、痛みから逃れたいの、でしょう……?
それを満たしたのに、どうして、泣き止まないの……?」
不思議そうな顔で——無自覚に涙を溢れさせながら——首を傾げる。
「分からない……分からない、また、涙を止められなかった。
僕の不徳なのは分かるのだけれど、その先が分からない」
嗚呼、この少女は本当に分からないのだ。
————人の情、というものがまるで理解できていないほどに壊れている。
「ごめん…………もう、着替えないと遅れる、から、またね」
体育の時間が差し迫り、アラカは体育に遅れないために着替えを始めた。
————男子用の教室で。
「「「————は?」」」
アラカはぷち、ぷち、とブラウスのボタンに手をかけている。
————男子用の教室で。
そしてボタンを外し終えると……ブラウスを脱いで、丁寧に畳み始めた。
————男子用の教室で。
「え゛ぇぇぇ゛ぇッ!?」
「ちょ!?」
「女子ーーー! 女子呼べーーー!!」
下着姿になったところで意識を取り戻した男子たちが大騒ぎ。
女子が来たのはアラカが着替え終わった時だった。
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