人間不信の元最強英雄、TS美少女になり溺愛される治療生活が始まる。 〜壊れた天使の癒し方〜

足将軍

文字の大きさ
27 / 73
二章、怪異 死想

五話、体育

しおりを挟む


 それはもしもの時に使用をせよ、と言われていた魔力の込められた精神安定剤。
 異界の法則が込められたそれは空想の中の魔術のように効果が早い。

「…………う、ん……ありが、とう」
「……え?」

 男子生徒はまさか許されると思っていなかったのか、困惑と驚愕の篭もった声が漏れる。

「前、例のな……い中、で勇気を…出してくれた、それだけで許す、に値、するよ。
 ————もう、噂で人を…傷つけないでね」

 謝るのは、当たり前に怖いし、逃げ出したくもなる。
 しなきゃいけない当たり前のことなのに恐ろしくして仕方ない。

 そう続け、その上で勇気を出してくれたのだとアラカは言った。

 それを汲んだ上でアラカは許そうとしていたのだ。

「傷つけよう…とした時に、謝る前、に感じて、いた恐、怖を…思い出し、て」

 ————ピリ。
 だが、それでも。

「そし、て少しだけ、もう少し…だけ、周りを見て、みてほしい」

 ————じわ。
 傷付けられた過去だけは確かなものであり

「それだ、けで…反省、と呼ぶ、には十分だよ」

 ————スーッ
 それは着実に、間違いなくアラカの胸に刻まれており。

「っ……!」



 ——ポタ……——



 床に溢れた〝雫〟が、冷たくポタ…という音だけを教室へ響かせる。

 それに気付いて、男子生徒は突然、息が出来なくなるほどに苦しくなる。

「…………勇気、を、出すまで…怖かった、だろう」
「ぁ……っ、っ゛…っ」

 こちらを気遣う声に、震えが止まらなくなる。

「? 反省…すれば、過去は、もう過去でしか、ないのだから。
 ね、元気出して」
「……ち、が、そうじゃ、なくて……っ」

 嗚咽の中で、ぐちゃぐちゃな心地の中で男子生徒はなんとか声を絞り出す。

 アラカの人格が極めて完成度の高い善性であること。
 相手のことを第一に考え出すその思考が、あまりにも加害者(コチラ)の心を抉ってくるのだ。

「ごめん、なさい……ごめんなさい……ごめんなさい……」

 男子生徒は、もう膝を落として、咽び泣くように謝るしか出来なかった。
 それを前にアラカは首を傾げていた。



 ————自分が泣いていることにすら、気付かないまま。



「ちがう、違うんだ……苦しい、のは、俺じゃなくて、うぁ、ぁ…。っ、ぁぁぁぁ」

 怒りを露わにしてくれるなら、これ以上なく救われた気持ちになるのだろう。
 だが、この少女はダメだった。

「ごめんなざい、ごめんな゛ざぃ゛…っ。ぁ、ぁあ、ごめん゛な、ざい……」

 この少女は壊れてるとしか思えない。
 苦しいのに、悲しいのに、本当は怒りでどうにかなりそうなのに相手を尊重し、相手の立場に立つばかりで————それがどうしようもなく、改心した加害者の心を抉るのだ。


 怒って欲しい、殴ってでもいいからその本音を露わにして欲しい。
 だけどそれすら願えない、願うことすら罪として心臓を穿つのだから。

 ここまで壊したのは自分たちだと、その意識で心が抉られ続ける。


「……? よし、よし」

 まだ20にもならない子供だ、咽び泣いたとしても仕方ないだろう。
 だが、そんなことさえアラカは汲み出すのだ——この子も、まだ子供でしかないというのに。



 男性生徒からは、涙が滝のように溢れ出す。複雑な心境が更にぐちゃぐちゃに掻き乱される心境で、もう苦しいのに、苦しいのから救われるのに、更に苦しいというどうしようも無い矛盾で頭がおかしくなりそうだった。


「君は、痛みから逃れたいの、でしょう……?
 それを満たしたのに、どうして、泣き止まないの……?」

 不思議そうな顔で——無自覚に涙を溢れさせながら——首を傾げる。

「分からない……分からない、また、涙を止められなかった。
 僕の不徳なのは分かるのだけれど、その先が分からない」

 嗚呼、この少女は本当に分からないのだ。
 ————人の情、というものがまるで理解できていないほどに壊れている。

「ごめん…………もう、着替えないと遅れる、から、またね」

 体育の時間が差し迫り、アラカは体育に遅れないために着替えを始めた。

 ————男子用の教室で。

「「「————は?」」」

 アラカはぷち、ぷち、とブラウスのボタンに手をかけている。

 ————男子用の教室で。

 そしてボタンを外し終えると……ブラウスを脱いで、丁寧に畳み始めた。

 ————男子用の教室で。

「え゛ぇぇぇ゛ぇッ!?」
「ちょ!?」
「女子ーーー! 女子呼べーーー!!」

 下着姿になったところで意識を取り戻した男子たちが大騒ぎ。

 女子が来たのはアラカが着替え終わった時だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end**

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...