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三章、ノストラ
七話、とち狂ってやがる
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◆
放送室に案内され、そこでアラカが一番最初に見たのは傷付いた黒い塊と生徒だった。
「(……腕と、足に、一発ほど、か。
殺すよりも、痛めつけるのが目的…みたい。
でも放置したら、死ぬかな……)」
血が溢れており、顔色も悪い。
部屋には武装した人間が三名ほど。アラカを連れてきた人間と、見張りと、奥にて座る男だ。
「動画に出てたやつが来た…? そうか、じゃあ……って……え……?」
テロリストのリーダー格らしき男が振り返り、振り返ってからアラカの姿に困惑してタバコを口から落とした。
年齢は二十代半前後ほど。何処か疲れ切った様子でタバコを愛用しているようだった。
「……念のため聞きますが、菊池アラカくん……かな?」
幾らか、こちらを怯えさせないような声色で語りかけてくる男。
それに対してアラカは無言で首を縦に振った。
「……何しに、きたのですか。
悪いのですが、やめてほしい、というお願いは聞けませんよ」
丁寧にいう男。男には敵意は欠片も無く、それどころかアラカを気遣う様子すらあった。
「…………」
アラカは瞳を閉じて、その言葉を脳裏で反芻する。そしてややあってから、静かに声を出した。
「僕個人としては、やめてほしい……か、どうかは…正直、よくわからない」
それはテロリスト達の予想し得ない言葉だった。
「やめて。なんて言葉は……ここまで来て、決断をした貴方方の人生に対する侮辱だ。
加えて、そこの人たちの人生は、どうのこうの……と、説きたいとも……思えない」
ぽつり、と外で雨雫と落ちる音がした。
校庭の花壇に咲いた……少しだけ枯れ始めたアサガオの花弁を雨が当たる。
「ならば、と……どうして、こんなことをしたのか。なんていうことも貴方達への侮辱としか思えない」
「それは……何故?」
そこで初めて、テロリストは問いかけに何故を返した。
アラカはその問いかけにも特に動じず、落ち着いた様子で言葉を返した。
「それは恐らく、君たちの人生に大きく関係するほどの想いだろう、と思うからですよ」
アラカは目を細めて、倒れている傷のついた生徒へ目を向ける。
膝をついて、地面に垂れ落ちた血を指で触れる。
「この先の人生を捨ててしまうほどの、それほどまでの何か。
それを部外者である僕が聞くこと、そんなの君達の人生をオモチャのように扱うのと同義だ」
指についた血をみては、指と指を擦り合わせて……その液体を感じ取る。
ただ、どこまでも相手の気持ちを、立場を汲み、少女は話をするのだ。
一番苦しい立場である癖に、一番殺意で満ちているはずなのに、だ。
「それでも、部外者の僕に出来ることと言えば……こうして」
そっと立ち上がり……腕を鷹揚に広げる。傷だらけで、一部では銃弾で撃ち抜かれて血が溢れてる箇所すらあるひたすら痛々しい身体。
それに対してテロリストは辛そうに目を背けた。
「君が殺そうとしたら、それを受け止めて。
銃弾が飛ぶなら、それを受け止める。
その程度のことしか、できやしない」
無言でテロリストのリーダーはアラカへと治療道具を投げ渡した。
「……なんで、だ」
そして心底納得できない様子で、問いかけた。
「君を壊した奴らだぞ、コイツらは」
それは段々と、着実に、彼のうちに秘める怒りを表へと出しながら。
——決壊する。
「あの動画を見るだけで気が狂いそうになった!
当事者の君なら俺の痛みとは比べ物にならないほど酷かったはずだ!!
それが! どうして!!」
声を荒げてから、ハッ…とテロリストは急に冷静になる。
アラカを怖がらせたかもしれない、といいや間違いなく怖がらせただろうと思うがしかし。
「どうして、か……」
特に気にした様子もなく、
「ただ……気になったのですよ。
貴方たち……僕の過去の、被害者が」
被害者。あろうことかアラカはテロリストを指して被害者である、と解いた。
「僕の過去のせいで、こんな場所まで来て、こんなことをさせてしまった。
それに対しての、謝罪と……然るべき、救いを」
それを為したいのだと、ポツリポツリと…言葉を続ける。
「あんなものを見せたせいで、壊れた人間がいる。
それは……あまりにも、不快な現実です。許容できません」
雨が、振り始めた。
「だから、来ました……」
さあ、さあ、と雨が降り……テロリストとアラカの二人が、窓の外から見えた。
「はっ、救い…? 救いですか」
それを何処か演技たらしく嘲笑い、テロリストはアラカの方へと踏み出した。
「じゃあ今すぐ、ここで君を嬲ってしまおうか?」
どん、とアラカの前に立ち、見下すように見る。
それはどこか脅しているように見えた。
「男連中全員を連れて、だ。
…………それが嫌なら、君は帰りなさい。これは……お駄賃だ」
何かないかとポケットを探して、缶コーヒーを掴むと、男はアラカへ渡した。
だがしかし。
「————別に、構いませんよ?」
「は……?」
アラカの返答は、彼らの予想を大きく裏切るものだった。
放送室に案内され、そこでアラカが一番最初に見たのは傷付いた黒い塊と生徒だった。
「(……腕と、足に、一発ほど、か。
殺すよりも、痛めつけるのが目的…みたい。
でも放置したら、死ぬかな……)」
血が溢れており、顔色も悪い。
部屋には武装した人間が三名ほど。アラカを連れてきた人間と、見張りと、奥にて座る男だ。
「動画に出てたやつが来た…? そうか、じゃあ……って……え……?」
テロリストのリーダー格らしき男が振り返り、振り返ってからアラカの姿に困惑してタバコを口から落とした。
年齢は二十代半前後ほど。何処か疲れ切った様子でタバコを愛用しているようだった。
「……念のため聞きますが、菊池アラカくん……かな?」
幾らか、こちらを怯えさせないような声色で語りかけてくる男。
それに対してアラカは無言で首を縦に振った。
「……何しに、きたのですか。
悪いのですが、やめてほしい、というお願いは聞けませんよ」
丁寧にいう男。男には敵意は欠片も無く、それどころかアラカを気遣う様子すらあった。
「…………」
アラカは瞳を閉じて、その言葉を脳裏で反芻する。そしてややあってから、静かに声を出した。
「僕個人としては、やめてほしい……か、どうかは…正直、よくわからない」
それはテロリスト達の予想し得ない言葉だった。
「やめて。なんて言葉は……ここまで来て、決断をした貴方方の人生に対する侮辱だ。
加えて、そこの人たちの人生は、どうのこうの……と、説きたいとも……思えない」
ぽつり、と外で雨雫と落ちる音がした。
校庭の花壇に咲いた……少しだけ枯れ始めたアサガオの花弁を雨が当たる。
「ならば、と……どうして、こんなことをしたのか。なんていうことも貴方達への侮辱としか思えない」
「それは……何故?」
そこで初めて、テロリストは問いかけに何故を返した。
アラカはその問いかけにも特に動じず、落ち着いた様子で言葉を返した。
「それは恐らく、君たちの人生に大きく関係するほどの想いだろう、と思うからですよ」
アラカは目を細めて、倒れている傷のついた生徒へ目を向ける。
膝をついて、地面に垂れ落ちた血を指で触れる。
「この先の人生を捨ててしまうほどの、それほどまでの何か。
それを部外者である僕が聞くこと、そんなの君達の人生をオモチャのように扱うのと同義だ」
指についた血をみては、指と指を擦り合わせて……その液体を感じ取る。
ただ、どこまでも相手の気持ちを、立場を汲み、少女は話をするのだ。
一番苦しい立場である癖に、一番殺意で満ちているはずなのに、だ。
「それでも、部外者の僕に出来ることと言えば……こうして」
そっと立ち上がり……腕を鷹揚に広げる。傷だらけで、一部では銃弾で撃ち抜かれて血が溢れてる箇所すらあるひたすら痛々しい身体。
それに対してテロリストは辛そうに目を背けた。
「君が殺そうとしたら、それを受け止めて。
銃弾が飛ぶなら、それを受け止める。
その程度のことしか、できやしない」
無言でテロリストのリーダーはアラカへと治療道具を投げ渡した。
「……なんで、だ」
そして心底納得できない様子で、問いかけた。
「君を壊した奴らだぞ、コイツらは」
それは段々と、着実に、彼のうちに秘める怒りを表へと出しながら。
——決壊する。
「あの動画を見るだけで気が狂いそうになった!
当事者の君なら俺の痛みとは比べ物にならないほど酷かったはずだ!!
それが! どうして!!」
声を荒げてから、ハッ…とテロリストは急に冷静になる。
アラカを怖がらせたかもしれない、といいや間違いなく怖がらせただろうと思うがしかし。
「どうして、か……」
特に気にした様子もなく、
「ただ……気になったのですよ。
貴方たち……僕の過去の、被害者が」
被害者。あろうことかアラカはテロリストを指して被害者である、と解いた。
「僕の過去のせいで、こんな場所まで来て、こんなことをさせてしまった。
それに対しての、謝罪と……然るべき、救いを」
それを為したいのだと、ポツリポツリと…言葉を続ける。
「あんなものを見せたせいで、壊れた人間がいる。
それは……あまりにも、不快な現実です。許容できません」
雨が、振り始めた。
「だから、来ました……」
さあ、さあ、と雨が降り……テロリストとアラカの二人が、窓の外から見えた。
「はっ、救い…? 救いですか」
それを何処か演技たらしく嘲笑い、テロリストはアラカの方へと踏み出した。
「じゃあ今すぐ、ここで君を嬲ってしまおうか?」
どん、とアラカの前に立ち、見下すように見る。
それはどこか脅しているように見えた。
「男連中全員を連れて、だ。
…………それが嫌なら、君は帰りなさい。これは……お駄賃だ」
何かないかとポケットを探して、缶コーヒーを掴むと、男はアラカへ渡した。
だがしかし。
「————別に、構いませんよ?」
「は……?」
アラカの返答は、彼らの予想を大きく裏切るものだった。
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