12 / 108
第1部 ルシフェルって? 教会って?
第11話 この料理は…… そして魔王登場(絶品トマトのミルフィーユ、他いろいろ)☆☆☆
しおりを挟むやったー。とにかく、やっとやっとランチだ!
すっかり忘れてたけど、朝食抜きだったから、すっごくお腹空いてたんだよねー。
でも、目の前にあるこれは……
広い部屋の真ん中には、その面積の半分ほども占める、光沢のある渋い赤に塗られた猫足の巨大なテーブルが置かれ、頭上に吊られた透き通ったガラスの豪勢なシャンデリアの光が、暖かく料理を照らしている。
なんて格調高く(?)言うと、ちょっと美味しそうな感じがするでしょ。
でも、実はその料理が一見しても問題ありありだった。
オードブル、サラダ、魚料理、肉料理、それからデザートと、コースの組み合わせはまあ定番通り。
ただ、サラダの野菜はいかにも新鮮さが無いし、魚料理はおそらくタラだろう、蒸して一匹まるのままが、トウガラシ液にでも漬け込んであったのか、舌の痺れそうな真っ赤に染まっている。
もう一種の魚料理は大型のイカだが、見た目でもわかるこのネットリ感は、考えたくはないけど、もしかしてアレだろうか。
鳥料理は、鶏よりも少し大きめの、たぶん七面鳥のロースト。
びっくりしたのは肉料理。これがなんと羊の丸焼きで、表面全体がこんがりを通り越して真っ黒な炭っぽくなった巨体が、今日の主役然として中央でその姿を晒している。
これらが全部、豪華さの演出のためだろう、大皿に乗せて既にテーブルの上に並べられてしまっていた。
スープだけは私たち各自の前に置かれた皿に既によそわれており、
「さあどうぞ。まずはスープから召し上がれ。美味一番、にゃんにゃん」
勧められて、スプーンで掬って口に含んでみるとこれが
「むむむ」
としか言いようの無いシロモノだった。
それでもなんとか少しはと頑張ってみるが、どうしても二口目以降が進まない。
テーブル脇に控えた執事さんの顔をチラッと伺ってみる。
あっ! 慌てて目を逸らしやがった。
例の黒猫さんはというと、缶詰を開けてもらったのだろう、部屋の隅でのんびりと、お皿に盛った「さいえ〇す・だい〇っと」を賞味していらっしゃる。
その姿だけ見ると全くペットのいる平和な風景。
それにしても確かに幸せそうに食べてるなあ。たぶん目の前の料理よりも、あのキャットフードの方がずっと美味しいんだろうなあ。
(まさか、あれが食べたいのではあるまいな?)
えっ! い、嫌だなあ。この私に限って、決して決して、そんなことがあるわけないじゃないですか。
様子を見てメイドさん(ジョゼちゃん!)が黙ってスープの皿を下げてくれた。
普通なら「もう宜しいんですか?」とか聞きそうなものだけど、無言。
ひょっとして、この人たちも料理の味を承知の上なんじゃ?
「では次はオードブルでございまあす」
スープと順番が逆だと思うけど、まあそれは大したことじゃない。
皿にはトマトのミルフィーユに生野菜のサラダが添えてある。
そうかあ、オードブルとサラダが一緒になってるってことね。
ミルフィーユは、下から角切りにしたアボカド、カッテージチーズ、その上には薄く乱切りにしたトマトを重ねて、小さな円筒状。
トマトの赤の鮮やかさに魅かれて一口食べてみると、これがまあ
意外なことに極上の美味しさでした。
いまさら大抵のことには驚かないぞって覚悟を決めてただけに、このミルフィーユには逆の意味でびっくりさせられた。
この驚きを、傲岸不遜系女性グルメ評論家風に表現してみると、
「(若い女子アナが)はーい、ではここで、辛口の料理評論で皆さんご存じの、勇者アスラ子先生に評価を頂きまーす」
「まあ! この私にトマトのミルフィーユなどという、見た目偏重の陳腐な料理を食べさせ、評価させようなどとは、全くもって良い度胸ではないですか」
「(先生の迫力に少し怯えながら)まあまあ先生ぇ、そうおっしゃらずに、ぜひ一口だけでもお試しくださぁい。本当に美味しいんですよぉ」
「ふん、だいたい私は女子アナなどという人種からして嫌いなのです。何ですか、その軽薄な喋り方は。そのような者が、この私と対等な口を利こうなど百年早いですわ」
「(もはや半泣きで)お願いです先生ぇ。もしもお口に合わなかったらディレクターに腹を切らせますんでぇ」
「(慌てるディレクター氏を尻目に)ふふん、そういうことなら少しは食べてあげても宜しくてよ…… むっ!」
「「よし!」」(先生の反応に、アナウンサー嬢とディレクター氏、共にガッツポーズを取る)
「こ、これは、よくあるトマトとは違うわね! 見た目通りに新鮮なことは勿論、トマト自体が明らかに他とは別物ですわ」
「さすが先生、よくおわかりです」
「熟し方もこの料理にはちょうど良いところで、適度な酸味と甘みが互いに引き立て合った果汁の味も、シャクシャクと心地よい果肉の食感も最高だわ」
「そうですそうです。そういうコメントを頂きたかったんです。良かったぁ~」
「カッテージチーズの方も抜群ね。柔らかいけれど僅かな弾力があり、癖のない清々しい酸味ですわ。トマトとあいまって、生のアボカドの脂質の多いねっとり感と絶妙のコントラスト。こんな上質のトマトやチーズを、いったいどこで手に入れたのかしら」
的な?
で、サラダの方はというと、
「では次はサラダを頂きましょうか」
「「え!?」」
「何を驚いてらっしゃるのかしら? あら、これはまた、レタスもセロリもクレソンも、少々萎れかけて、瑞々しさがないわねえ。それに、ただでさえ洗った後の水切りが甘いところに、ドレッシングのかけ過ぎでベチャベチャじゃないの。野菜そのものの味も薄いし、手でちぎらずに、研いだばかりの包丁を使って切ったのね。野菜に金味が移ってしまってるし、シャキシャキ感にも欠ける。失格ですわね。この私にこんな、味覚音痴も避けて通るような忌まわしい料理を食べさせるなんて、キーッ! ただじゃおかなくてよ。責任者、出てきなさい!!」(番組スタッフ、既に全員逃走済み)
的な?
はい、これでアスラ子先生のグルメリポート終了。
というのは、残りの料理については、あまり詳しくは語りたくないからだ。
メイドさんが取り分けてくれた魚料理、トウガラシで真っ赤なタラは、おそらく アレ の勘違い、塩漬けにして見るからにねっとりとなったイカは、きっとアレの勘違いなんだろう。
で、そのアレは両方とも本来はホカホカのご飯に乗せて食べるものだ。
それぞれ輪切りにしてマッシュポテトを添えて供されても、これをどうやって食べろって言うのさ。
肉料理は食材の選び方からして間違ってる。
おまけに火の通し過ぎで、中までカチンカチンのパッサパサ。
一生懸命頑張って、なんとかナイフで切ってみても、一滴の肉汁も出やしない。
こんなんが食べられるんなら、分厚い皮ブーツのローストだって、きっと美味しくいただけるだろう。
(どうだ、不味いだろう)
うん、とんでもなく不味い。
仕方がないんで、ほとんど口をつけず、デザートの果物ばっかり食べてました。
連れの二人も同様で、普段は何物にも耐え得る鋼の味覚と超合金の胃袋を誇る金髪モヒカン戦士さんさえ、全くと言っていいほど食の進まない様子だったし、メガネっ娘の魔法担当さんの方は半分目を閉じて、何か小さく呪文のような言葉を呟いていらっしゃる。
聴覚を鋭敏にして聞いてみると、「オイシクナイ、カナシイ、コンナモノタベラレルハズガナイ、オイシクナイ、カナシイ、コンナモノタベタクナイ………」と、何度も何度も無意味に繰り返していらっしゃるのだった。
とにかく、食事中に、こんなに時の進むのを遅く感じたことはない。
そしてようやく厨房のドアが開き、
メイド服着用の魔王ガイアさん登場。
300歳は越えてる筈だけど、どう見ても20代前半の上品な美貌だ。
執事さんの言ってた通り、特別な人なんだろう。
長身で、細身だけどグラマラスで、手足が長くって、燃えるような赤毛のしなやかなロングヘアーが鮮やかで 、さすがに黒白フリルのミニのメイド服もよく似合う…… じゃないだろ!
衣装が違うだろ!!
おまけに、引き連れた助手の男性厨士さんたちも全員、魔王さんとお揃いのメイド服だ。
(ぶっ!)
心の声さんが、さすがに吹き出した。
でも、勘違い衣装の件には他の誰も、連れの二人もメイドさんたちも、あえて口に出しては触れないのだ。
私? 当然、私だって言うもんか。
こういう間違いには、あえて触れないのが紳士淑女の嗜みっていうものだろう。
執事さんは、と視線をやると、あ、また目を逸らしやがった!
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
卒業パーティーのその後は
あんど もあ
ファンタジー
乙女ゲームの世界で、ヒロインのサンディに転生してくる人たちをいじめて幸せなエンディングへと導いてきた悪役令嬢のアルテミス。 だが、今回転生してきたサンディには匙を投げた。わがままで身勝手で享楽的、そんな人に私にいじめられる資格は無い。
そんなアルテミスだが、卒業パーティで断罪シーンがやってきて…。
転生先はご近所さん?
フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが…
そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。
でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる

