フィーネ・デル・モンド! ― 遥かな未来、終末の世界で失われた美味を求めて冒険を満喫していた少女が、なぜか魔王と戦い、そして……

Evelyn

文字の大きさ
15 / 108
第1部 ルシフェルって? 教会って?

第14話 どっかーん!(アスラの創造魔法ついに発動)☆

しおりを挟む


 私は両手を合わせ、そこに透明な思念しねんの剣を作り上げた。
 一気に魔力を送り込むと、刃の部分が魔王さんの光の球体にもまさる輝きを激しく発する。
 聖剣なんて呼ばれる剣を装備してはいるけど、それではこれだけの魔力をまとうことは到底無理だ。
 輝きだす前に粉々に砕けてしまう。
 実は前に一度実験済みだ。
 あーあ、あの剣は「バルムンクジークフリートの剣だよーん」とかいうカッコいい名前の貴重品だったんだけどなあ。
 特に柄の部分の装飾が綺麗で気に入ってたのに。

(レプリカかもしれんがな)

 ううっ! その辺は古代のロマンっていうことで、あまり深いツッコミは無しでお願いしたい。

 なんて考えたのは思考加速による一瞬だから、誤解のないように。
 決して、ゆっくりゆっくり、緩慢かんまんに戦っているわけではないのだよ。

(あまり言うと却って弁解くさく聞こえるぞ)

 はい、失礼しました。
 あら、すぐ目の前には今にも爆発して辺り一帯を飲み込みそうな巨大な熱と光の球体が……

 で、私は両手で持った剣を一閃いっせんし、熱球体を消し去った。

(ほう、器用な真似が出来るようになったな)

 うん、魔王さんが球に込めたエネルギーの性質が割と単純だったからね。
 分析もすぐ終わったし、真逆の性質のエネルギーを作ることも簡単だった。
 もっと複雑な構成だったら大変だったかも。

(わははは! ガイアは性格が単純なので、魔力の性質も単純という訳だな)

 それでも余波で強い熱風が吹き、魔王さんの赤い髪と深紅のドレスのすそが揺れる。
 難しい顔で目を細めてるぞ。ほこりとか何かの破片とか入ってなきゃいいけど。

「あの剣は、やはりルシフェル様」

 とか、執事さんの声が聞こえるけど、今はどーでもいい。

「あのぉー、目はだいじょうぶですか?」
「あ、当たり前じゃ!」

 あれ? 図星だったかな。
 ま、それにはこれ以上は触れないでおいて

「何ともないならいいですけど、それはそうと、ここで提案があるんですが」
「提案だとお」
「はい。私が攻撃を一発、魔王さんがこれで二発で、ひとつ貸しってことで終わりにしませんか」
「たわけた事を! 何じゃ、貸しとか借りとか、知ったことか! 妾はまだ全く本気を出しておらぬ」

 はぁ…… でもね、こっちもまだ全然本気は出していないんですけど。
 ちょっとムカついてきたし。
 では、さっきの魚料理の件が、まだ話の途中だったので

「じゃあ言いますけど、『カラシメンタイコ』って魚そのものじゃなくて、魚卵をトウガラシ液に漬けたものですよ」
「何い?」
「しかも、そのトウガラシ液は、ただの水じゃなくて、『カツオブシ』や『コンブ』とかいうものを使った『ダシ』にトウガラシ粉を混ぜて作るんです。それに、魚はマダラじゃなくてスケトウダラです」
「…………」
「もう一品の『シオカラ』は、イカをまるごと姿のまま使うものじゃなくて、皮をいて細く切ったイカの身と内臓を、あ、これを『ワタ』って言うらしいんですけど、それに適量の塩をまぶして混ぜて、まる一日ほど置いておけば出来上がり。
 固くて食感が悪くなるから、『ゲソ』って呼ばれる部分、つまりイカの足は別の料理に使った方がいいですね。
 あ、それから、『ユズ』か、無ければ他の柑橘類でもいいから、皮を細切りにして合わせても風味があって美味しいですよ」
「…………」
「で、これが最も重要なことなんですが、『メンタイコ』も『シオカラ』も炊いたコメに乗せて食べるものです」
「それで終わりか……」
「えっ?」
「今更知らぬわ! すでに終わった事をべらべらと!」

 せっかく教えてあげてるのに、学習意欲に乏しいなあ。
 そーいうことだから料理が上達しないんだよ。

 魔王さんは目を伏せてほんの一瞬集中。
 さっき以上に魔力が高まる。
 まだやるのぉ? わからず屋さんだなあ。
 くっそぉー、目の前の細面の顔が七面鳥に見えてきた。
 で、私はとうとう言ってしまった。

「それから鳥料理!」
「まだ言うか!」
‼」

「何だと⁈」
「鶏だろうが七面鳥だろうが、真っ赤なトサカも顎の下に垂れた肉垂にくすいも、考えるだけで気持ち悪くなってくる。羽をむしった後のブツブツも醜悪だ。あんなもの、人間の食べる物じゃない!!!」

(お前の好き嫌いを言っても……)

「で、肉料理は」
「むん! はあぁっ!」

 やっぱり聞いちゃいねー。
 魔王さん、いっそう逆上。
 地の底の遠くから重い振動が伝わってきて、それが次第に地面に迫ってくる。
 ただの地震ではない。足元が少しずつ熱を持ってくるのを感じる。
 これは

 来ましたねえ。
 さっきは魔力のエネルギー弾を無効化されたから、今度は自然の力に訴えよう、それも大地の力を暴発させようっていうわけか。
 そこまでやるかあ?
 よし、だったら私だって……

 魔王さんの顔に凄艶せいえんな微笑が浮かぶと同時に、「どーん」と凄みのある重低音が地中から轟き、空気もざわめく。
 辺り一帯が激しく揺れ、まともに立っているのも難しい。
 床に何か所も亀裂が入り、それが更に大きく割れて蒸気が噴き出す。
 わざわざ透視で確認しなくってもわかる。
 マグマがどんどん上昇してきて、今にも一気に噴出しそうだ。

 私は空中に僅かに浮遊すると、右手の手のひらをかかげた。
 創造の魔法をちょっと真剣に発動。
 異空間から取り入れた膨大なエネルギーを自己の魔力で誘導し、望む物質に変換するのだ。
 極地から氷山を強制転移させる方法もあるが、あれは無生物なら正確な位置か、生物ならその意識や生命活動が感知できない限り不可能。
 みんなの前で気が進まないけど,この際はやっぱりこれしかない。
 そして頭上高くの空間が大きく揺らぎ、無数の巨大な氷塊が生まれる。
 創造完了。
 

(おい! 何をしようとしているのだ? まさか、このあまたの氷山を大地の業火に)

 プラスにはマイナス。
 熱に対抗するには、やっぱり冷気でしょ。
 単純に考えて、この手が一番。

(や、やめろ! そんな事をすれば)

「これで最期じゃ! 滅びよ!」
「それ行け。『どっかーん』!」

 私が手を振り下ろすと同時に、大気との甲高い擦過さっか音と共に降り注ぐように急降下した氷山の皆さんが、地割れから噴出しかかった灼熱の溶岩を直撃して


 !!!
 !!!
 どっかーん!! 
 どっかーん!!
 どっかーん!
 (以下略)


 ………… ごめんなさい。
 水蒸気爆発は予想してませんでした。
 しかもこんな大規模の。

 やってしまった。
 連続の衝撃と反響音。
 とんでもない熱と爆風が去ると、目の前には……
 何も無かった。
 魔王城の要塞然とした建物全体がきれいさっぱり消失して、瓦礫がれきも残らず、ここら一帯が大きなクレーターになってしまっていた。

「…………」

 良かった。魔王さんは無事だ。
 あっちの3人と一匹も。

「ぷはあ! 何だ、この衝撃と熱は。さすがの吾輩も今回は死ぬかと思ったのである。見ろ。爆風がまき上げた埃のせいで、自慢の漆黒の毛並みが灰色になってしまったではないか」
「この位の被害で済んだのなら上出来の部類ではありませんか。わたくしが思うに、幸い、お二人ともまだ全然手加減していらっしゃる」
「「え⁈」」
「当たり前です。本当にその気になられたなら、我々如きの防御障壁では、こんな近距離で耐えられる筈がない」
「これで本気じゃないって、に戦えばどうなるんすか?」
「城どころではない、軽く街ごと消滅です」
「そんな力、アスラはワタシたちの前では見せたことがない」
「必要がなかったからです。そこまでの力で戦うべき相手が居なかっただけの事。しかし、これからは違う」
「吾輩、何だか楽しみになってきたのである」
「そうです。わたくしも」

 勝手に盛り上がってるんじゃない、バカ!

(馬鹿はお前だ!)

 えーっ、なんで私が。
 馬鹿って言う人がバカなんだぞ。

(幼児のようなことを言うな! それに最初にバカと口にしたのはお前ではないか)

 うー、でもそれは、あの人たちが無責任に「楽しみ」とか盛り上がってるからで。

(無責任はお前だ。何だ、この有様は)

 でも、さっきはエネルギー弾を真逆のエネルギーで相殺できたのに。

(魔力の相殺とは違う。大量の高熱のマグマの上に巨大な氷山が落下すれば、地中に突っ込んだ部分が瞬時に蒸発し、密閉されたそれが水蒸気爆発を起こすのは当たり前だ!)

 だって……

(しかもあれだけの無数の氷山が隕石のように降って来れば、その衝撃たるや、落下地点にある全てを崩壊させ、残るのはクレーターばかり。そんな事も予想できなかったのか)

 だって魔王さんが噴火を……

(氷山など落とさずとも、マグマをごっそりそのまま異空間に転移させてしまえば済んだ事ではないか。そうすれば大穴は空くとしても、ここまでの危険はなかったであろう。くどくど、くどくど)

 うーん、反論できないのがつらい。
 よし!

 私は意を決して言った。

「ガイアさん、!」

「「「「え―――っ!!!」」」」


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~

みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった! 無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。 追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。

【完結】義姉上が悪役令嬢だと!?ふざけるな!姉を貶めたお前達を絶対に許さない!!

つくも茄子
ファンタジー
義姉は王家とこの国に殺された。 冤罪に末に毒杯だ。公爵令嬢である義姉上に対してこの仕打ち。笑顔の王太子夫妻が憎い。嘘の供述をした連中を許さない。我が子可愛さに隠蔽した国王。実の娘を信じなかった義父。 全ての復讐を終えたミゲルは義姉の墓前で報告をした直後に世界が歪む。目を覚ますとそこには亡くなった義姉の姿があった。過去に巻き戻った事を知ったミゲルは今度こそ義姉を守るために行動する。 巻き戻った世界は同じようで違う。その違いは吉とでるか凶とでるか……。

神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

ブラック企業でポイントを極めた俺、異世界で最強の農民になります

はぶさん
ファンタジー
ブラック企業で心をすり減らし過労死した俺が、異世界で手にしたのは『ポイント』を貯めてあらゆるものと交換できるスキルだった。 「今度こそ、誰にも搾取されないスローライフを送る!」 そう誓い、辺境の村で農業を始めたはずが、飢饉に苦しむ人々を見過ごせない。前世の知識とポイントで交換した現代の調味料で「奇跡のプリン」を生み出し、村を救った功績は、やがて王都の知るところとなる。 これは、ポイント稼ぎに執着する元社畜が、温かい食卓を夢見るうちに、うっかり世界の謎と巨大な悪意に立ち向かってしまう物語。最強農民の異世界改革、ここに開幕! 毎日二話更新できるよう頑張ります!

処理中です...