30 / 108
第2部 魔王って? 獣王って? 天使って?
第1話 勇者兼魔王って、アリなの?(再びアスラの物語へ)
しおりを挟む「勇者兼魔王とか、アリと思う人、手を挙げて!」
しーん。
ほらね、誰も手を挙げないし、何も言わないじゃない。
(当たり前だ。この部屋には、お前と我の他、誰も居らぬではないか)
まあまあ。いつも通りサラッとボケてみせただけですよ。
じゃあ、心の声さんはどう思う?
アリかナシか。
(まあ、なるようになるであろうよ)
ガイアさんが突然に魔王を辞めるとか、次の魔王は私だとか言うから。
あれから大変だった。
「魔王様、吾輩だけが同行している時に、そのような重大事をいきなり言い出されても、吾輩の責任というものが。どうぞ他の者にもお諮りになって……」
「もともと妾は好きで魔王などになった訳ではない。いつの間にかそうなってしまっただけじゃ」
「しかしアスラ殿は何者かに狙われそうであると、ティア婆様もおっしゃっているではありませんか。このうえ魔王になどとは、アスラ殿が晒される危険を増すばかりではないかと」
お、いきなりアスラ「殿」とか。
さすが(中間?)管理職。変わり身早いなあ。
「妾が思うに、魔王にならずとも、そやつらはいずれ襲ってくるに違いない。いずれにしても危険なら、いっそアスラを魔王として国の中心に据え、魔族全員で力を合わせて守る方がまだ安全であろう。国を挙げてアスラを強力に支持し同時に死守する姿勢を見せれば、もしかするとそ奴らも諦めるかもしれぬ」
「儂が思うに諦めはせぬじゃろうな。襲って来るとすれば、そのような甘い連中ではなかろうて」
「ではティア婆は、アスラと妾たちはどうすべきと言うのだ」
「ガイアの言う通り、お嬢ちゃんを魔王にすれば良い。そうすれば、お嬢ちゃんの為にも魔族の為にもなるじゃろう。お互いを守り合うのじゃ。そしていずれお嬢ちゃんの力が更に増して……」
「ティア婆様ぁ、魔王様ぁ、吾輩の立場わぁ……」
猫ちゃんはおろおろと走り回るし、連れの戦士と賢者のコンビは二人揃って卒倒しそうになるし、ただガイアさんとティアお婆さんだけが顔を見合わせて
「やったあ! これでやっと妾も解放されるのじゃ」
「ヒッ、ヒッ、ヒッ、面白い事になってきおったわい」
とか勝手に喜んでるし。
ああ、あと、魔王城に帰り際に例の竜人の料理人さんが何だか名残惜しそうに挨拶に来てくれたんで
「ありがとう。おかげで助かったよ。あなたは味覚も腕もしっかりしてそうだから、これからも頑張ってね。ただ、爪はちゃんと切るように」
って言ったら、急においおい号泣し始めて困った。
ガイアさんとのことも、竜人さんとのことも、今日は何だかよく人を泣かせる日だった。私、もしかすると変な才能があるのかも。
で、魔王城のあった場所に戻って来ると、思い出したくもない巨大クレーター、ではなくて、既に以前の建物と寸分変わらない立派なお城が「ふ・ふ・ふ」と聳え立っていたのには、さすがに驚いた。
執事のゼブルさんが言うには
「地の魔法が使える者を総動員して2時間程で急遽再建致しました。つきましては、この際、以前からの計画通り色も変更済みでございます」
だそうだ。
ただねえ、色がねえ……
そう。アレだよ。
ついにピンクの魔王城、要塞ピンクパレス完成。
こうなってしまったのも、ガイアさんが噴火なんかさせるからだ。
えっ、私?
私のことは放っておいてほしい。
何かやったっけ?
それに、いずれはこの色になる運命だったんでしょ。
この件は今後これ以上は考えないようにしよう。
うん、そうしよう。
それから居間でお茶を飲みながら、ガイアさんがゼブルさんに、
「ゼブルよ、妾は魔王を辞めるぞ。新しい魔王はここに居るアスラじゃ」
サラッと伝えるとゼブルさんも
「新魔王誕生ですな。畏まりました」
なんて、やっぱりサラッと答える。
これってどうなん? どう考えてもオカシイでしょ。
でも、ゼブルさんは
「アスラ様はルシフェル様ですから」
なんて澄ましてる。
この状況、ひょっとして完全に詰んでる?
いやいやいや、猫ちゃん(あ、バベル君でしたね、ごめんなさい)の狼狽ぶりからしても、納得してるのはこの二人だけ。
きっと反対する人が多くって、発表と同時に計画は頓挫するに違いない、と思いたい。
あ、しまった!
(どうした?)
ティアお婆さんにトマトの特別な育て方を聞くのを忘れたあー!
(…………)
(おい、仲間が来たぞ)
言われて我に返ると、部屋のドアに小さなノックの音がする。
ドアの所に静かに近付いて
「合言葉は?」
「「(極めて小声で)ありえねー」」
よし、合言葉確認。
(その合言葉の儀式は、本当に毎度必要なのか?)
えーっ! それは必要でしょう。
防犯に気を付けることはやっぱり大事だよ、うん。
(せめて、何か別の合言葉は無いのか、はぁ)
で、ドアをそっと開けてみると、例の二人が合言葉の小声が無駄になるドカドカと響く大きな足音で部屋に入って来て、これもまた大声でいきなり
「逃げるぞ」
「ん、逃げるのだ」
「逃げるって、どこへ、どうやって?」
「場所はどこでもいいだろーよ。アスラの転移でサクッと」
「ああ、それは無理ですね。きっと魔王城の周りには強力な結界が張ってあるもの。結界を破るほどの転移のための魔力を放出すれば、すぐに気付かれるだろうし、魔力の痕跡を追って行先も突きとめられますって」
「何を呑気な口きいてんだよ。じゃあお前は、あいつらの言う通り魔王になるってのか」
いや、それはまだ全然決めたわけじゃないけど。
「勇者が魔族と手を組むとか、ましてや魔王になるとか考えられねーぞ。特に俺は今日お前と魔王が戦ってる時、とばっちりで死にかけたんだからな」
「でも、それは結局だいじょうぶだったでしょう? 私もガイアさんも、ああ見えて全力じゃなかったから。それに魔族ってやっぱり決して悪い人たちじゃないですよね。みんな結構良くしてくれるし。ゼブルさんも猫ちゃんも防御障壁を張るのに協力してくれたでしょう?」
「そう、役に立たなかったのはルドラだけ」
「でしょう。人間だろうが魔族だろうが協力するのって大切ですよね」
「うんうん」
「ソフィアは黙ってろ! とにかく俺は魔族を喜ばせてやる趣味はねーんだよ」
「でも、今日はガイアさんやゼブルさんやティアお婆さんたちと、けっこう仲良さげに……」
「『でも』も何もねーんだよ! さっさと行くぞ!」
あらら、思いの外の魔族嫌悪にびっくり。
「とりあえず」って、どういう意味?
とにかく、てなことで押し切られて、その場は二人の言う通り部屋を出ることになってしまった。
ところが ―――
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
この聖水、泥の味がする ~まずいと追放された俺の作るポーションが、実は神々も欲しがる奇跡の霊薬だった件~
夏見ナイ
ファンタジー
「泥水神官」と蔑まれる下級神官ルーク。彼が作る聖水はなぜか茶色く濁り、ひどい泥の味がした。そのせいで無能扱いされ、ある日、無実の罪で神殿から追放されてしまう。
全てを失い流れ着いた辺境の村で、彼は自らの聖水が持つ真の力に気づく。それは浄化ではなく、あらゆる傷や病、呪いすら癒す奇跡の【創生】の力だった!
ルークは小さなポーション屋を開き、まずいけどすごい聖水で村人たちを救っていく。その噂は広まり、呪われた女騎士やエルフの薬師など、訳ありな仲間たちが次々と集結。辺境の村はいつしか「癒しの郷」へと発展していく。
一方、ルークを追放した王都では聖女が謎の病に倒れ……。
落ちこぼれ神官の、痛快な逆転スローライフ、ここに開幕!
追放された【才能鑑定】スキル持ちの俺、Sランクの原石たちをプロデュースして最強へ
黒崎隼人
ファンタジー
人事コンサルタントの相馬司が転生した異世界で得たのは、人の才能を見抜く【才能鑑定】スキル。しかし自身の戦闘能力はゼロ!
「魔力もない無能」と貴族主義の宮廷魔術師団から追放されてしまう。
だが、それは新たな伝説の始まりだった!
「俺は、ダイヤの原石を磨き上げるプロデューサーになる!」
前世の知識を武器に、司は酒場で燻る剣士、森に引きこもるエルフなど、才能を秘めた「ワケあり」な逸材たちを発掘。彼らの才能を的確に見抜き、最高の育成プランで最強パーティーへと育て上げる!
「あいつは本物だ!」「司さんについていけば間違いない!」
仲間からの絶対的な信頼を背に、司がプロデュースしたパーティーは瞬く間に成り上がっていく。
一方、司を追放した宮廷魔術師たちは才能の壁にぶつかり、没落の一途を辿っていた。そして王国を揺るがす戦乱の時、彼らは思い知ることになる。自分たちが切り捨てた男が、歴史に名を刻む本物の英雄だったということを!
無能と蔑まれた男が、知略と育成術で世界を変える! 爽快・育成ファンタジー、堂々開幕!
スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~
みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった!
無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。
追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。
スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました
東束末木
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞、いただきました!!
スティールスキル。
皆さん、どんなイメージを持ってますか?
使うのが敵であっても主人公であっても、あまりいい印象は持たれない……そんなスキル。
でもこの物語のスティールスキルはちょっと違います。
スティールスキルが一人の少年の人生を救い、やがて世界を変えてゆく。
楽しくも心温まるそんなスティールの物語をお楽しみください。
それでは「スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました」、開幕です。
2025/12/7
一話あたりの文字数が多くなってしまったため、第31話から1回2~3千文字となるよう分割掲載となっています。
インターネットで異世界無双!?
kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。
その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。
これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。
異世界サバイバルゲーム 〜転移先はエアガンが最強魔道具でした〜
九尾の猫
ファンタジー
サバイバルゲームとアウトドアが趣味の主人公が、異世界でサバゲを楽しみます!
って感じで始めたのですが、どうやら王道異世界ファンタジーになりそうです。
ある春の夜、季節外れの霧に包まれた和也は、自分の持ち家と一緒に異世界に転移した。
転移初日からゴブリンの群れが襲来する。
和也はどうやって生き残るのだろうか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
