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第3部 カレーのお釈迦様
第4話 鳥
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それは、私の腕でひと抱えにも余りそうな大きな鳥だった。
私はベッドで仰向けに寝ているのだが、その毛布の上、胸のあたりに乗って、先が湾曲した黒い嘴で私の顔や頭を盛んに突いている。
眼が大きい。黒くて真ん丸だ。
顔は鮮やかな緑色で、眼の周りだけが白い。
頭頂部には黄色い羽毛がつんつん立っている。
看護してくれていた人が私の目覚めに気付いたらしい。「あら、まあ!」とか驚いた声を発して、急いで部屋を出て行った。
誰かを呼びに行ったのだろう。
それにしても何なんだ、この鳥は?
全身はやはり鮮やかな緑色の羽毛で覆われて、翼の先端だけが真っ赤だ。
巨大インコというか、色の派手なオウムを倍ぐらいに大きくした感じ。
私と視線が合うと、何だか目を細めてニヤーッと笑ったような気がした。
変なヤツ。
ちょっと状況を整理してみよう。
獣王に手間取ってたら、心の声さんが「交代だ」とか言って、私の身体を操ってアイツを倒してくれて、そうしたらウリエルとかいう変なサラリーマンが現れて、そいつが今度はお酒を飲んでサリエルとかいう戦闘狂の天使に変身して。
獣王と戦ってる時から時間魔法を自分にかけたり、翼を出してしまったり、創造の魔力も少し使ったり。それからサリエルってのが意外と強いヤツだったんで、翼を6枚まで出して、けっこう魔力を使って応戦して。
確かそいつが「お昼休みが終了間際ですから」とかでいきなり飛んで帰って、その直後に私は急にフラフラして気が遠くなったんだよね。それで誰かがここまで運んできて寝かせてくれたんだろう。たぶんここは魔王城の一室なんだろう……
で、結局何なんだよ、この鳥は?
ここで廊下に急ぎの足音と声が響いて、ドアが開き、ガイアさんを先頭に、ゼブルさん、それから看護の人が、どやどやと部屋に入って来た。足元を見ると、黒猫姿に戻ったバベル君も一緒だ。
ガイアさんが慌て気味の大声で言う。
「アスラ、大丈夫か!?」
私は顔だけをガイアさんの方に向けて答える。鳥が上に乗ったままなので身体を起こしづらいのだ。
「ええ、まあ。別にどこか痛いとか苦しいとかはないですけど」
するとガイアさんの表情が一気に和らいだ。凄く喜んでくれてるみたいだ。
「それは良かった! 医師は単なる心身の疲労であろうと言っておったが、あまりに目覚めぬので、そろそろまた心配しておったのじゃ」
「『あまりに』って、私、どのくらい寝てたんですか?」
「丸三日じゃ」
えーっ、そんなに!
どおりで爆睡感があるはずだ。
「それで、あの後、獣王軍はどうなったんですか? それから、人質の子供たちは?」
これにはゼブルさんが答えてくれた。
「御心配は無用です。全て片付きました。獣王が倒れ、サリエルも去りましたので、敵軍には戦意は無く、アスラ様が戦っておられる間にある程度数の揃った我が軍が城壁外に討って出ると、すぐに武器を捨てて投降致しました。人質の子供たちも皆、無事でございます」
「そうかあ、はぁ、良かった」
「おそらくは、獣王が自軍の兵士までを犠牲にして、細胞として取り込んだことも、部下の戦意を失わせたのでしょうな」
そうだよね。アレはやっちゃいけないよ。
いくら戦争だからって、あんなことをすれば自軍の士気も落ちるもの。
ここでやっと、私はもうひとつ気になっていることを聞いた。
「それで、この鳥はいったい何なんですか?」
するとゼブルさんは驚くことをサラッと言った。
「それは獣王の残りの細胞です」
「はあ?」
「より正確に言えば、オルゴールの中に残っていた、獣王の部下の細胞の融合体ですな。あの後、アスラ様が戦いの中で創造されたオルゴールを回収に行くと、蓋が開いて、その鳥が飛び出して来たのです」
「はああ?」
「それで、どうするかアスラ様に伺おうと、城に連れて帰って来たのです。最初は真っ白な雛で、籠に入れて飼っていたのですが、三日の間にみるみる大きくなって、籠には入りきれなくなり、羽毛も色づいて、このように」
「それで、何でこの部屋に?」
「アスラ様の気配か匂いを感じるのか、この部屋の前に来て、うるさく鳴くのです。で、一度部屋に入れてやったが最後、出そうとするとますます大声で鳴き、暴れるもので、別に害意は無い様でしたから、看護の者に管理を命じ、ここに居るままにしておいたのです」
するとガイアさんが、にやにや笑いながら言う。
「妾が思うに、アスラの事を飼い主か、ひょっとすると母親か何かのように感じているのではないか。全く、他人とは思えぬ懐き方じゃぞ」
「はあああ?(母親ぁ? ワタシマダ、イタイケナショウジョナノニ!)」
「どう致しましょう? アスラ様が鳥が御嫌いなのは承知しておりますので、何ならば、とりあえず別の部屋に移しましょうか? 今後の処置に関しては、後日にでも決めて頂く事として……」
まだ私の上に乗って、ちょっと首を傾げている問題の鳥を良く見ると、身体の大きさとのバランスから考えて、少し頭が大きい。これは動物でも鳥でも、子供の特徴だ。
そうか、まだ雛鳥みたいなものだったのかあ。
でも、それでこのサイズだとすると、将来はどんな巨鳥になるんだろう。
獣王の部下の細胞ねえ。でも別に敵意は残ってないみたいだし……
私はほんの少し考えてから言った。
「別にいいですよ、このままで。私が特に苦手なのは鶏や七面鳥の類で、空を飛ぶ鳥は嫌いじゃないから」
この時、私の頭の中には、ごく近い将来、鮮やかな色彩の巨鳥の背中に乗って空を舞う自分の姿が明確な映像として浮かんでいた。
うーん、きっとカッコいいぞお、これは!
私はベッドで仰向けに寝ているのだが、その毛布の上、胸のあたりに乗って、先が湾曲した黒い嘴で私の顔や頭を盛んに突いている。
眼が大きい。黒くて真ん丸だ。
顔は鮮やかな緑色で、眼の周りだけが白い。
頭頂部には黄色い羽毛がつんつん立っている。
看護してくれていた人が私の目覚めに気付いたらしい。「あら、まあ!」とか驚いた声を発して、急いで部屋を出て行った。
誰かを呼びに行ったのだろう。
それにしても何なんだ、この鳥は?
全身はやはり鮮やかな緑色の羽毛で覆われて、翼の先端だけが真っ赤だ。
巨大インコというか、色の派手なオウムを倍ぐらいに大きくした感じ。
私と視線が合うと、何だか目を細めてニヤーッと笑ったような気がした。
変なヤツ。
ちょっと状況を整理してみよう。
獣王に手間取ってたら、心の声さんが「交代だ」とか言って、私の身体を操ってアイツを倒してくれて、そうしたらウリエルとかいう変なサラリーマンが現れて、そいつが今度はお酒を飲んでサリエルとかいう戦闘狂の天使に変身して。
獣王と戦ってる時から時間魔法を自分にかけたり、翼を出してしまったり、創造の魔力も少し使ったり。それからサリエルってのが意外と強いヤツだったんで、翼を6枚まで出して、けっこう魔力を使って応戦して。
確かそいつが「お昼休みが終了間際ですから」とかでいきなり飛んで帰って、その直後に私は急にフラフラして気が遠くなったんだよね。それで誰かがここまで運んできて寝かせてくれたんだろう。たぶんここは魔王城の一室なんだろう……
で、結局何なんだよ、この鳥は?
ここで廊下に急ぎの足音と声が響いて、ドアが開き、ガイアさんを先頭に、ゼブルさん、それから看護の人が、どやどやと部屋に入って来た。足元を見ると、黒猫姿に戻ったバベル君も一緒だ。
ガイアさんが慌て気味の大声で言う。
「アスラ、大丈夫か!?」
私は顔だけをガイアさんの方に向けて答える。鳥が上に乗ったままなので身体を起こしづらいのだ。
「ええ、まあ。別にどこか痛いとか苦しいとかはないですけど」
するとガイアさんの表情が一気に和らいだ。凄く喜んでくれてるみたいだ。
「それは良かった! 医師は単なる心身の疲労であろうと言っておったが、あまりに目覚めぬので、そろそろまた心配しておったのじゃ」
「『あまりに』って、私、どのくらい寝てたんですか?」
「丸三日じゃ」
えーっ、そんなに!
どおりで爆睡感があるはずだ。
「それで、あの後、獣王軍はどうなったんですか? それから、人質の子供たちは?」
これにはゼブルさんが答えてくれた。
「御心配は無用です。全て片付きました。獣王が倒れ、サリエルも去りましたので、敵軍には戦意は無く、アスラ様が戦っておられる間にある程度数の揃った我が軍が城壁外に討って出ると、すぐに武器を捨てて投降致しました。人質の子供たちも皆、無事でございます」
「そうかあ、はぁ、良かった」
「おそらくは、獣王が自軍の兵士までを犠牲にして、細胞として取り込んだことも、部下の戦意を失わせたのでしょうな」
そうだよね。アレはやっちゃいけないよ。
いくら戦争だからって、あんなことをすれば自軍の士気も落ちるもの。
ここでやっと、私はもうひとつ気になっていることを聞いた。
「それで、この鳥はいったい何なんですか?」
するとゼブルさんは驚くことをサラッと言った。
「それは獣王の残りの細胞です」
「はあ?」
「より正確に言えば、オルゴールの中に残っていた、獣王の部下の細胞の融合体ですな。あの後、アスラ様が戦いの中で創造されたオルゴールを回収に行くと、蓋が開いて、その鳥が飛び出して来たのです」
「はああ?」
「それで、どうするかアスラ様に伺おうと、城に連れて帰って来たのです。最初は真っ白な雛で、籠に入れて飼っていたのですが、三日の間にみるみる大きくなって、籠には入りきれなくなり、羽毛も色づいて、このように」
「それで、何でこの部屋に?」
「アスラ様の気配か匂いを感じるのか、この部屋の前に来て、うるさく鳴くのです。で、一度部屋に入れてやったが最後、出そうとするとますます大声で鳴き、暴れるもので、別に害意は無い様でしたから、看護の者に管理を命じ、ここに居るままにしておいたのです」
するとガイアさんが、にやにや笑いながら言う。
「妾が思うに、アスラの事を飼い主か、ひょっとすると母親か何かのように感じているのではないか。全く、他人とは思えぬ懐き方じゃぞ」
「はあああ?(母親ぁ? ワタシマダ、イタイケナショウジョナノニ!)」
「どう致しましょう? アスラ様が鳥が御嫌いなのは承知しておりますので、何ならば、とりあえず別の部屋に移しましょうか? 今後の処置に関しては、後日にでも決めて頂く事として……」
まだ私の上に乗って、ちょっと首を傾げている問題の鳥を良く見ると、身体の大きさとのバランスから考えて、少し頭が大きい。これは動物でも鳥でも、子供の特徴だ。
そうか、まだ雛鳥みたいなものだったのかあ。
でも、それでこのサイズだとすると、将来はどんな巨鳥になるんだろう。
獣王の部下の細胞ねえ。でも別に敵意は残ってないみたいだし……
私はほんの少し考えてから言った。
「別にいいですよ、このままで。私が特に苦手なのは鶏や七面鳥の類で、空を飛ぶ鳥は嫌いじゃないから」
この時、私の頭の中には、ごく近い将来、鮮やかな色彩の巨鳥の背中に乗って空を舞う自分の姿が明確な映像として浮かんでいた。
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