フィーネ・デル・モンド! ― 遥かな未来、終末の世界で失われた美味を求めて冒険を満喫していた少女が、なぜか魔王と戦い、そして……

Evelyn

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第3部 カレーのお釈迦様

第14話 アスラのびっくり極大重力魔法

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「飛ばすだと? しかも宇宙空間に! そんな事が可能なのか?」
「だって、飛翔魔法は得意だし、その応用ですから」
「簡単に言うが、これだけの規模じゃぞ。アスラ一人で魔力は足りるのか?」
「ガイアさんだって、この巨大遺跡を一人で凍らせたじゃないですか。それに、中間の微妙な加減はともかく、大規模なのは却って得意ですから。それよりも……」

 詳しい事情が知りたい。
 ヒト族が遺跡に侵入して武器や兵器を狙ってるっていうのはわかったけど、他は全く状況が掴めてないから。
 とりあえず遺跡全体が超低温で凍結して、仮に侵入者が生き残って潜んでるとしても、移動はままならないし、これで暫くは時間の余裕がある筈だ。

 するとガイアさんが教えてくれた。
 今朝早くに遺跡近くのドワーフ軍の駐屯地に何者かの襲撃があり、かなりの被害が出たのだという。火炎魔法らしきもののせいで営舎や武器庫に火災が起こったりして、ドワーフ軍首脳は、これはきっとエルフ軍からの攻撃に違いないと判断したのだそうだ。
 襲撃者たちはその後すぐに遺跡に入り込んだので、実際には正体は不明だったらしいが、ドワーフ族自身は魔法が使えないし、何しろ普段からエルフと不仲だからねえ。彼らからすれば、「襲撃」に「魔法」とくれば、真っ先に思い浮かぶのはエルフな訳だ。すぐさま軍隊を繰り出してエルフ軍に威圧をかける。
 ところが、身に覚えのないエルフからすれば、これはドワーフ軍からの言いがかりでしかない訳で ————

「常日頃から古代文明の遺物に興味津々のドワーフの狂言」

 ん、「キョウゲン」って?

「ああ、そうじゃな。つまり、自作自演の芝居だと言うのじゃ」

 ああ、そういう意味ね。
 と、ここでチャウチャウ氏が話に割って入ってきた。

「だからガイア様、それは有り得ませんぞ!」

 おお、興奮してるなあ。

「確かに未知の技術に強い関心を抱くのは我らの宿痾しゅくあといえ、この遺跡は複数の勢力の緩衝地帯ではないですか。そのような場所に無断で侵入など……」

 ん、「シュクア」?

(長年の、この場合は特に心のビョーキということだ)

 ああ、そうなんだ。何だか今日は難しい単語が多いなあ。

(ふぅ……)

「だからこそ、策を弄したのかと考えたのだ」(チワワ嬢・談)
「黙れ! しかも、この遺跡は手に負えない機械の魔物に守られ、危険な罠に満ちていると判明しているではないか。そのような場所に今更なぜ犠牲を払ってまで調査の手を伸ばさなくてはならんのだ!」(チャウチャウ氏・談)
「さあな。技術や科学などという低級なものに固執する愚かなドワーフどもの考える事など、私には分からぬ。我等エルフはそんなものに頼らずとも、万物の精霊と対話し、その力で快適な暮らしができるからな」(チワワ嬢・談)
「何をぬかすか! そちらこそ、領土欲に駆られて攻撃を仕掛けてきたのではないか?」(チャウチャウ氏・談)
「ふざけた事を言うな。遺跡は勿論、このような岩砂漠に等しい荒野など、領地としても何の関心もないわ!」(チワワ嬢・談、あ~、めんどくせー)

「という訳なのだ」(ガイア嬢・まとめ)

 はぁ…… 話には聞いてたけど、本当にドワーフとエルフって仲が悪いんだな。
 こりゃあ、あいだを取り持つ魔王も大変だ。他人事だけど。ん、そうだっけ?

「双方とも嘘は言っていないと妾には分かるからな」

 え、そうなの?

(心臓の鼓動や発汗の変化で明らかではないか。お前も少しは勉強しろ)

 はあ、反省しました。頑張ります。

「しかし、だからこそ面倒なのだ。これ以上に話がこじれる様だったら、いっその事、爆裂魔法で遺跡全体を吹っ飛ばしてしまおうかと思っていた矢先にアスラがやって来たという訳だ」
「あらら、やっぱり危なかったんですね」

 核兵器には寿命があるっていうけど、ひょっとしたら生きてるものも残ってるかもしれないしねえ。爆裂魔法とか使ったら、どれかが爆発して、更に周りが誘爆して、ここら一帯は崩壊。それどころか、もっと広い地域が汚染されて…… 
 しかも細菌兵器まで有るからねえ。研究所の培養液は自動的に補充されて、中の細菌はまだまだ生きてるみたいだったし、それが爆発の衝撃でそこら中に飛び散って、風で運ばれたり、地下水に紛れ込んだり。それに毒ガスだって…… ああ恐ろしい。

「ところで先程の、3ヵ月ぐらい前にアスラが遺跡に、という件じゃが」
「あ、その事ですが、まずは遺跡を宇宙に飛ばしましょう」

(ふふ、それで誤魔化せるかな?)

 と、ここでチャウチャウ氏が今度は不安げに口を挟んだ。

「本当にそんな事をなさるのですか?」
「何じゃ。妾が見込んだ新魔王であるアスラが断言するのじゃぞ。可能に決まっておる。それとも、アスラの力を疑っておるのか?」
「い、いいえ、そういう話ではなく、遺跡の中には古代文明の貴重な遺物や資料が残されている訳で、それを無にしてしまうのは、いかにも勿体ないかと」

 ああ、いかにも技術大好きなドワーフさんらしい心配だなあ。
 でも私は、ここは断固として言った。

「核や細菌兵器みたいなアブナイ代物しろものはこの地球には不必要でしょう。旧文明だって、そう判断したからこそ、魔導兵器に転換したんじゃないですか」

 するとガイアさんが

「亜空間に封じ込めるのでは駄目なのか」

 うーん、それも考えたんだけどねぇ。

「やっぱりダメですね。下手すると私の亜空間が汚染されて、収納やら何やらに使えなくなっちゃうから。やっぱり、誰にも迷惑のかからない宇宙空間に放逐です」

 あ、そうだ。

「それ以外の武器や兵器に関しては、他の遺跡にも同等の科学技術の資料があった筈だから、役に立つ情報は、魔王からの補償としてドワーフの国に提供するのはどうでしょう?」
「うむ、それは良いな。妾もそろそろ、他の亜人の国々に古代の文明や文化の情報を提供する頃合いではないかと思っていたところじゃ。そうすれば、魔王領全体で文明や文化の復興も加速するであろう」
「おお!」

 ということでチャウチャウ氏もまあ納得。
 ただねえ、勘違いが加速しないといいけど。

 とにかく、さあやるぞ!
 極大重力魔法発動だ。
 おっと、その前に

「兵士さんたちをもっと遠くに退避させてください。とんでもない大穴が空くから、崖崩れや地震とかに巻き込まれるといけないので」
「それは大丈夫じゃ。妾が大地魔法で支援しよう。地盤をしっかり安定させれば良いのじゃろう?」

 うーん、頼れる姉? 母親? それとも300歳超だから祖母の祖母のそのまた祖母? とにかくそんな存在が出来たみたいな気持ち。心強いなあ。

 ということで、私は遺跡の方を向き、心の中にその全体を思い描く。
 ガイアさんに説明した時と同様、縦横2マイルの正方形、そして地下が2000フィート。この直方体にかかる重力を打消し、そこに逆に斥力せきりょくを生じさせる。
 斥力は最初はごく弱く。一気にやるとそれこそ大惨事になってしまう。
 意識を集中し念じると…… 重苦しい「」という音と共に地面が激しく揺れる。
 ガイアさんの大地魔法のサポートがあって、それでもこの振動か!
 集中を保つために私は身体を少し浮かせる。
 これなら足元の振動に惑わされることはない。

 ゆっくりとゆっくりと眼前の遺跡が浮き上がり、最初は土にまみれたコンクリートの壁が姿を現し、それがだんだんと、際限なく上昇して―――― ついには基底部が見え、巨大な塊の全体が空を覆うまでになった。

 よし成功だ! ここから浮遊速度を増して、一気に宇宙に飛ばすぞ。

(油断するなよ。ここで気を抜いて落下などさせると大変だぞ)

 はいはい。そのぐらい承知してますって。いつもいつも、ウルサイなあ。

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