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第3部 カレーのお釈迦様
第28話 礼儀正しい悪魔と、ゴスロリ趣味のガキんちょ女神
しおりを挟む「あっ、また、この美少女に対して『ババア』とか。謝れ!」
「な~にが美少女よ。アタシから見れば立派な『ババア』だわ。それも、ゴスロリも知らない、センスの悪い『クソBBA』ね」
「ゴスロリぐらい知ってるよ! ただ、不健康な化粧は子供にはどうかなあって言っただけじゃん」
「ふん。ゴスロリの化粧は、わざと不健康そうに見せるものってフツーに決まってんの! そんなんで、よくも『知ってる』なんて言えるわね。やっぱ世間知らずの、しょーもないイナカ者だわ」
「まあまあ、アスラ様もイシュタルも少し落ち着いて。その様子では、何処かで既に会った事が……」
「何じゃ、その『ゴスロリ』とかいうのは。妾は聞いた事がないぞ。教えよ」
「ほーらみろ、ガイアさんなんて全然知らないじゃん。なんで私ばっかイナカ者とか言われなくちゃいけないのさ」
「ガイア様はそれでいいの。美人で大人だから。でもアンタは見たところ10代なかばのクセに、そんなことも知らないなんて、イタイ女だって言ってんのよ。見た目は若くても、頭の中はカビの生えた、保護対象にもならない天然記念物! やーい、や~い、笑っちゃうわよ。センスが安物の骨董品、生きた化石!」
もう、このガキは、ああ言えばこう言う。
さすがはゼブルさんの娘と言うべきか。強烈なマシンガントーク。
フェンリルのオスカル君なんて、すっかり怯えて部屋の隅に逃げて震えてるじゃないか。
無言で落ち着いてるのはベリアル君だけ。
あ、そうか。兄妹だもんね。いつものことで、慣れてんのね。
「だからその『ゴスロリ』とは何なのじゃ? 妾は全く話についていけんではないか」
「それはですな、ガイア様、わたくしの知るところでは、確か『ゴシック・アンド・ロリータ』という呼称の短縮形で、旧世界では一部の少女、稀には何故か熟女にも人気だったという、黒を基調としてレースやフリルを多用する衣装の趣味……」
「ぴーっぴーっ!」(あ、まだ居た!)
「あーあ、せっかく新しい魔王様に会えると思って、楽しみにしてやって来たのに。ねえ、パパぁ! アタシ、こんなクソババアが魔王様だとか、そのお供だとか嫌だなあ」
こ、コイツ、泣かせて、いや…… いっそ存在自体を世界から抹消してやろうか (怒・怒・怒・以下繰り返し)
「言葉に気をつけなさい! 人前で『パパ』とか『アタシ』とか!!!」
「あ!! …… い、いや、お父様、ワタクシ、新しい魔王様の人選が、ちょっと意外だったもので」
「お前の感想など、どうでもよろしい! アスラ様はガイア様が見込まれ、この父も喜んで認めた新たな魔王です! 何しろルシフェル様の転生体です。そんな事もお前には分からないのか?」
「え!?」
(あ~、良く寝たぞ。おはようだ)
はあ、この人は……
(ん、何だ? 今たしか我の名前が出たような気がしたが)
はいはい、大したことじゃないから、まだまだ寝てていいですよ。
「これ以上の我儘を言うようなら、キツいオシオキか、それでも駄目なら追放です!」
「えーっ、そんなあ! ううっ……」
と、そのガキんちょの目が潤んで泣きそうな仕草を見せるが、ゼブルさんも、それからベリアル君も放置。よくある手なんだろう。
「アスラ様!」
「は、はい!」
「このような娘ですが、是非ともアスラ様の御共にお連れ頂きたい。こう見えて攻撃魔法の達人なので、きっと御役に立つはずです。以後こんな失礼は決して言わぬよう厳しく申し付けて置きますから、何とぞ御願いします」
「はあ……」
でもねえ、こんなんで上手くやっていけるのかなあ。
不安、不安、不安……(以下省略)
「もしも承知頂けないのなら、やはり旅の件は却下です」
え? それは困る。
すると
(お、イシュタルではないか)
知ってるの?
(ああ、姿形は変わったが、魂は一緒だからな。一目で分かったぞ)
この街に来た時にも会ったじゃない!
(そうだったな。お前に「クソババア」とか毒づいた子供だ)
だったらなんで、その時に教えてくれないのよぉ!
(言ってどうなる?)
えっ?
(聞かなかったではないか。別に、教える必要もなかろう。それに、言ったら何か変わるのか? 我が出て来たからといって、それで容易く「ババア」の言葉を撤回するとか、そんな相手ではないぞ)
う。
(そうか、イシュタルが現世ではゼブルの娘なのか。おお、それにベリアルも居るではないか! 懐かしい面子の集合だな)
同窓会かい!
(まあ感慨はさておき、こ奴は有能だぞ。人間界では最も古くから知られた女神の一人だからな)
悪魔じゃないの?
(神と悪魔と、どう違うのだ。ある宗教にとって異教の神は悪魔や邪神であろう)
ああ、まあ、そうか。
(だからこ奴も、その存在の概念が別の宗教に取り入れられた時、別の名の女神とされたり、悪魔と見なされたりしたのだ。確か悪魔としての名は、アシュタロテだったか)
あ、そんな名前の悪魔だったら聞いたことがあるかも。
(だろう。とにかく、こ奴とベリアルが居れば今回の旅は楽勝だな。おお、おまけにフェンリルまで居るではないか)
さも今しがた目覚めたかのような、このわざとらしい話しぶり。
話をどこまで信じていいのものか。
でもなあ、どうせ承諾しないと旅は却下だしなあ。
う――――――――――――――ん!
プツッ、あ、私の中で何かがキレた。
「やめた!!!」
「「「「「え?」」」」」
「悩むのやめた! お供でも何でも付いて来たいんだったら来ればいい」
「おお! では承知して下さったという事ですな」
「そのかわり、足手まといになるようなら遠慮なく見捨てます。それでいいなら勝手にどうぞ。もう、知ったこっちゃない!」
「それで結構ですとも。では出発はいつに?」
「今から用意をして、昼食後にまたここに集合。その時までに準備の出来ていない人は、参加の意志がないものと見なして置き去りです!」
「了解しました。では、今からすぐに準備をさせますので」
「え? パパぁ、アタシまだ納得してないのにぃ」
「だから、『パパ』ではない! 言葉に気をつけなさいと言うに」
「ではアスラ様、ボク、いや、わたくしも準備を終えて後ほど」
「…… じ、じゅ、準備って別にないですが、と、とにかく昼食後にぃぃ……」
「ふむ、実は妾も一緒に行きたかったのだがな。残念じゃ」
「ぴーっ、ぴーっ!」
ふぅ、どうなることやら――――――
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