フィーネ・デル・モンド! ― 遥かな未来、終末の世界で失われた美味を求めて冒険を満喫していた少女が、なぜか魔王と戦い、そして……

Evelyn

文字の大きさ
92 / 108
第3部 カレーのお釈迦様

第33話 おしゃべり好きな白虎

しおりを挟む


「こんばんは」

 しゃべるし!
 おまけに意外と渋い、落ち着いた声。
 あ、でも、バベル君もオスカル君も猫や狼なのに人間の言葉を話すか。

(…………)

「驚かれているようですが、別に凶暴な魔獣ではありませんよ。ついでに言えば、いわゆる魔のたぐいでさえもありません。自然に生まれた白い虎です」
「でも、人間の言葉を……」
「長年生きていれば様々な知恵がついて、虎だって言葉ぐらいは話せるようになるものです」

 そんなもんかあ?

「こう考えては頂けませんか? 遺伝子改造で生まれたトラではないという事です。例えば昔、中国という国では、白虎とかの聖獣が信じられていたそうですが、もちろんによって生み出された訳ではない、いわば自然界の精霊ですね。貧道も多少それと似たような存在です」
「え、貧道って?」
はそう自称するのです」
「ということは、あなたは仙人さん? それとも仙獣、仙虎?」
「呼び名はいろいろあるでしょうが、まあそういったところです」
「なんで虎さんが仙人に?」
「少し長くなります。、家の中に入れて頂いて宜しいでしょうか? 犬や狼と違って、常に身体を舐めて清潔にしておりますから、その点は御心配なく」

 これを聞いてオスカル君がちょっと嫌な顔をしたようだが、放っておく。

「あ、どうぞどうぞ」
「ありがとうございます…… ああ、この敷物は結構な御趣味ですね。上に座っても構いませんか?」
「は、はい」
「では失礼致します。そうそう、『なぜ仙人に』でしたね。まあ、昔々、インドという国の北部の地方で生まれた貧道は、あ、その時はまだ修行前だったので、ただの幼い虎ですが……」

 ということで、虎さんの自分語りが始まった。

 竹林で母親や兄弟と暮らしていたのだが、ある日、人間の暮らしを見てみたくなって、虎さんは、ひとりでと村に出かけて行きましたとさ。
 そこでもちろん人間に捕まって殺され…… ないで済んで、幸い貴重な白い虎だったから、「神獣だ、瑞兆だ!」ってことで小規模ながら神殿に祀られて数十年。その内に知恵もつき、人間の話す言葉も理解できるようになる。

「まあ、昔から好奇心旺盛で、しかも賢かったということですね」
「はあ……」

 このまま年老いて死んでいくのかと自分の人生、いや虎生か…… とにかく
 はるばる中国からやって来たというその老人は、虎さんに「崑崙山」という場所について説き、そこに行って修行すれば仙人になれて、不老不死も可能だと言う。

(…………)

「そんなアヤシイ話、信じたの?」
「当時は神殿暮らしばかりで、世間知らずでしたから」

 話を聞いた虎さんが老人と一緒に村を出て行こうとすると、村人たちは当然にこれを止めようとするが、そこで一喝、ではなくて天地に轟くほどの咆哮。
 なにしろ神獣様の怒りの咆哮だ。村人は皆、恐れおののいて魂も抜けんばかりになる。後は老人と村を出て行く虎さんを黙って見過ごすばかり。

 それから数年、各地を回って賢人と名高い人々にも会ったが、とにかく苦行ばかりを唱えたり幼稚な拝火教だったり、果ては連れの伯陽老人に論破されるばかりの賢人たちに失望し、結局は老人と二人(1人と1頭?)、当初の目的地であった崑崙山に向かう。
 そこで道士として修行をすること数百年。やがて念願の仙人になり、不老不死に。

「インチキな話じゃなかったんだ!」
「はい。修行を積むにつれて身体も若返り、老いる事も死ぬ事もなくなりました」
「修行って、どんなことするの?」

「はあ?」
「何もしない、考えないのが即ち仙人になるための修業なのです。朝も夜も日月の精華を浴びて、ひたすら頭の中を空っぽにし、大口を開けて山間やまあいから立ち上る霊気を身に取り入れる事に努めるのです」
「退屈そうだねえ」
「そうですね。身体が若返るにつれて何もしないのがますます退屈に、辛くなる。ですから最初は数の多かった修行者も一人減り二人減り、何とかいっぱしの仙人になれた人々も更なる修行を嫌って山を下り、道根どうこんを深め続けたのは貧道だけ」
「ありゃりゃ」
「やはり人間にとって、『何もしない』のは耐え難いのでしょうね。その点、貧道は虎ですから。。おかげで長い修行を全うする事が出来ました」

 このあたりでお子ちゃま達が浴室から戻って来て、虎さんを見て一瞬ぎょっとした表情を見せる。
 まあね、お風呂から上がったらいきなり家の中に白い虎が居て、何かくつろいで喋ってたら、そりゃあ驚くよね。
 でもそこは悪魔! 最初はおそるおそるながらも近づいて来て、手を伸ばして軽く触ってみたり、「白い虎さんだぁ! 初めて見た」とか「大人しいぃ!」とか言いながら、その内に大胆にも抱きついてみたり、さすがの順応性だ。
 オスカル君は完全に無視されて、ちょっと可哀そう。

「ああもう、話の途中なんだから迷惑でしょう。やめなさい」
「大丈夫ですよ。子供は好きですから」

 はあ、子供好きの虎あ?

「まあとにかく、無事に真人、つまり上仙になりおおせて、その後も崑崙山でのんびりと暮らしていた訳です」
「それがなぜこんな所に?」
「幾度かの大戦ですよ。特に中国とインドという2大国の戦いは激しかった。人類が滅んでしまったのは勿論、国境近くにあった崑崙山も全く地形が変わって、山は崩れ谷はけがれ、もうとても住める場所ではなくなってしまった」
「あらら大変」
「それで、住むに良さそうな場所を随分あちこちと探し、ついには雲に乗って大海を渡ってこの土地に至ったのです。上空から見るに、この辺りは自然の良い霊気が集まっているようでしたから」
「雲に乗るって、魔法が使えるの?」
「魔法というか、仙術ですね。しかし、呼び名は違っても原理は似たようなものです。集中力を高めて結果を思い描く訳ですな」
「凄いねえ」
「不老不死になるまで数百年、その後も長く修行すれば大抵の事は出来るようになるものです」

 いやいや、軽くおっしゃいますけど、何百年もの間、なぁ~んにもしないでゴロゴロしてるなんて、そうそう出来ることじゃありませんって。
 たぶんナマケモノ「怠け者」ではなくて、例の哺乳類にだって無理だろう。
 で、「霊気を身に取り入れる」ってことは、つまりそれが食事の代わりで、美味しい物も食べられないんでしょう?
 ということは、

「それで、今日はなぜ私たちの所に?」
「まあ、久しく森の中で暮らしておりましたので、たまに人間の言葉で話してみたくなって、それで御挨拶がてら」

 なーるほど。久し振りに、ちょっとお喋りがしたくなったって訳ね。
 うんうん、その気持ちは分かるよ。

「それと……」

 え、まだ他にあるの?



(バレたか。さすがは白額だな)

 何のこっちゃ?


・・・・・・・・・◇◇◇・・・・・・・・・


付記)白額虎は封神演義ではお喋りはせず(安能務版では黒点虎。あれは独自の創作らしいです)申公豹の乗騎ですが、本作では全く別のキャラ・設定にしてしまいました。あしからず m(__)m
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~

みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった! 無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。 追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

婚約者を奪った妹と縁を切ったので、家から離れ“辺境領”を継ぎました。 すると勇者一行までついてきたので、領地が最強になったようです

藤原遊
ファンタジー
婚約発表の場で、妹に婚約者を奪われた。 家族にも教会にも見放され、聖女である私・エリシアは “不要” と切り捨てられる。 その“褒賞”として押しつけられたのは―― 魔物と瘴気に覆われた、滅びかけの辺境領だった。 けれど私は、絶望しなかった。 むしろ、生まれて初めて「自由」になれたのだ。 そして、予想外の出来事が起きる。 ――かつて共に魔王を倒した“勇者一行”が、次々と押しかけてきた。 「君をひとりで行かせるわけがない」 そう言って微笑む勇者レオン。 村を守るため剣を抜く騎士。 魔導具を抱えて駆けつける天才魔法使い。 物陰から見守る斥候は、相変わらず不器用で優しい。 彼らと力を合わせ、私は土地を浄化し、村を癒し、辺境の地に息を吹き返す。 気づけば、魔物巣窟は制圧され、泉は澄み渡り、鉱山もダンジョンも豊かに開き―― いつの間にか領地は、“どの国よりも最強の地”になっていた。 もう、誰にも振り回されない。 ここが私の新しい居場所。 そして、隣には――かつての仲間たちがいる。 捨てられた聖女が、仲間と共に辺境を立て直す。 これは、そんな私の第二の人生の物語。

ブラック企業でポイントを極めた俺、異世界で最強の農民になります

はぶさん
ファンタジー
ブラック企業で心をすり減らし過労死した俺が、異世界で手にしたのは『ポイント』を貯めてあらゆるものと交換できるスキルだった。 「今度こそ、誰にも搾取されないスローライフを送る!」 そう誓い、辺境の村で農業を始めたはずが、飢饉に苦しむ人々を見過ごせない。前世の知識とポイントで交換した現代の調味料で「奇跡のプリン」を生み出し、村を救った功績は、やがて王都の知るところとなる。 これは、ポイント稼ぎに執着する元社畜が、温かい食卓を夢見るうちに、うっかり世界の謎と巨大な悪意に立ち向かってしまう物語。最強農民の異世界改革、ここに開幕! 毎日二話更新できるよう頑張ります!

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さくら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

異世界召喚されたが無職だった件〜実はこの世界にない職業でした〜

夜夢
ファンタジー
主人公【相田理人(そうた りひと)】は帰宅後、自宅の扉を開いた瞬間視界が白く染まるほど眩い光に包まれた。 次に目を開いた時には全く見知らぬ場所で、目の前にはまるで映画のセットのような王の間が。 これは異世界召喚かと期待したのも束の間、理人にはジョブの表示がなく、他にも何人かいた召喚者達に笑われながら用無しと城から追放された。 しかし理人にだけは職業が見えていた。理人は自分の職業を秘匿したまま追放を受け入れ野に下った。 これより理人ののんびり異世界冒険活劇が始まる。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

処理中です...