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第3部 カレーのお釈迦様
第45話 次元斬?
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「おい、お前、智天使だとか言ったな」
話すふりを装いながら、私は僅かに上昇する。
この位置で戦えば、やまと號や僚船が巻き添えになる。
相手が気が付かないように、会話をしながら少しずつ、だんだんと速く高みに誘導し、味方の船はもちろん、できれば敵船にも私たちの戦いの被害が及ばないようにしたい。
だって、誘っていることに気付かれたら、逆に、私をおびき寄せるために「やまと號」や海賊艦隊の船が狙われる。
それに、味方の筈の天使にやられてしまうなんて、教会軍の兵士があまりにも哀れだ。
「おう、言ったがどうした?」
「だったら、『智』とはどういうものか、答えてみろ。目的のためには平気で仲間を手にかけるとか、それが位に『智』を冠する天使の所業か!」
「ふふん、ヒト族の勇者でありながら教会を裏切り、魔王などに成り果てた小娘が、一端の事をほざきおる」
「答えろ!」
「汝なぞに『智』の意味を説いても分る筈がないわ。魔族は勿論、ヒト族にもなぁ。主の御心は、お前たち皆の愚かな思考など遥かに超えて深く、高い。吾ら智天使は、その御心を位に冠し、尖兵として実行するのみよ」
深く、高いとか、ふん、どうせ身勝手な、思い上がった末の好き放題だろう!
「説きもせずに相手を愚か者と決めつけ、殲滅しようとするのか! 味方までも巻き添えにして」
「仲間とか味方とか考えた事もないわ!」
ほーら、やっぱりね。当ったりぃ。
「神への反逆者たる魔族を殲滅する、ヒト族はそのための単なる駒に過ぎん!」
ダメだこいつ。
自分たち以外は全て敵か、奴隷って訳か。
いいや、その命さえもこんな風に軽視されてるんだったら、奴隷以下だ。
魔族はもちろん、ここまでヒト族への共感も理解もなく、ひたすら尊大に、身勝手になれるとか、自分はいったい何様のつもりなんだろう。
(きっと、「ケルビエル様」とか思い上がっているのだろうよ)
あ,そういえば額に書かれた「K」の文字も、相手から見た方向じゃなくて、自分から見た「K」だ。それは心理学者によれば自己中な性格を表す「K」だぞお。
ここでケルビエルは弓を肩に戻し、大剣を手に取って一閃した。
こんな鈍重な斬撃なんか、躱すのに訳はないが、まだ高度が不足だ。
私は障壁を張って防いだ。
威力は分散されたが、それでも眼下の教会軍の船が数隻は衝撃波を浴び、船体は裂け、大きく傾く。
(あ奴の巨躯を包む2枚の羽は、どんな物理攻撃も通さんぞ。しかも魔法に対する耐性も強い。それを考えて戦うのだ)
そうなのか?
だとしたら、やはりあれを試すいい機会だ。
「多少はやるではないか。サリエルと少しはいい勝負をしたと聞くからな。この程度は耐えて貰わんとな。だが、次はどうかな?」
この野郎、下卑た余裕の笑みを浮かべやがって。
しかも、自分より上級、熾天使のサリエルを呼び捨てか。
お前の斬撃の威力なんて、サリエルのそれには及びもしないんだよ。
そしてまた斬撃。これも障壁を張って防ぐ。
そんな繰り返しが何度か続いた後、やっと、これで良しと思える高さに達した。
「さあて、そろそろ遊びは終わりだ。今度の一撃は本気でいくぞ。これにも耐えられるかな?」
ぷぷぷ。コイツ、すっかりいい気になって、自分の置かれてる立場が全然わかってないな。
所詮は身体だけ大きいヤラレキャラ。
せいぜい好意的に言っても中ボスだ。
さっきの会話で、もうすっかり人間(?)の底も見えちゃったぞぉ。
ケルビエルは言葉通り渾身の一撃を放つ。
私はそれを軽く避ける。
予想通り、凄まじい衝撃波に海は大きく割れる。
しかし、その辺りは敵味方の船団の遥か後方だ。
露わになった海底にどっと水が流れ込む。
海面は荒れ狂うが犠牲になる船はいない。
「小器用に逃げおって。しかし、次は殺すぞ!」
上等だ。殺せるものなら殺してもらおうじゃないか。
私は再度の渾身の一撃を避けながら、腕輪を剣の形に戻して構え、一気に魔力を送り込んだ。
ケルビエルの攻撃の衝撃で、また海が割れる。
お魚さんたち、ごめんなさい。
生態系が破壊されないといいけど。
(戦いの最中に生態系に配慮するなど、随分な余裕だな)
実はそうだったりする。
でも油断はしてませんって。
3度目の斬撃を躱し、一気に剣を振り下ろす。
鋭く何かを切り裂く手応えと共に
「ずっ!」
という、異空間が重く開く音と感覚が確かにあった。
よし!
「何だそれは? 切っ先も届かない離れた所で剣を振り、しかも魔力や衝撃波を放つでもなく。さては恐怖のあまり、気でも触れたか」
気づいてない!
(なにしろ鈍感な奴だからな。教えてやるといい)
私はにっこり笑い、言った。
「お前、もう終わってるよ」
そして、ケルビエルの胴体の一点を指差す。
「ん? どういう意味だ。な! ぐ、ぐわあ――――――ッ!!!」
どうだ! 空間魔法の応用で「空間を斬った」のだ。
物理攻撃の効かない羽に守られた巨躯といえど、これなら空間ごと「ざっくり」だ。
「こ、これは、少しは応えたぞ。しかし、これしきの傷など回復術で即座に……」
そうはいかない。
羽が両断され、無数の目を持った胴体には大きな傷が口を開けている。
そこには真っ黒な闇を湛えた空間が。
暗黒洞の魔法。
それを空間を切り裂く斬撃に更に乗せて放ったのだ。
膨大な魔力に耐え、魔法を乗せることもできる新しい剣なら、こういうことだってできる。
「馬鹿な! な、何だこれは――ッ!」
ケルビエルの身体は、自らに穿たれたブラックホールに、まず胴体と無数の目,そして腕も脚も4つの顔も、羽も、めきめきと音を立てながら歪み,折れて,吸い込まれていく。
たとえ天使だろうと、いかなる魔法も防ぐ羽に守られていようと、光までも呑み込んで逃がさないブラックホールの超重力に抗えはしない。
しかもそれが自分の身体に撃たれては。
「が,があぁぁ! この吾が愚かで脆弱な人間などにいぃぃぃ――ッ」
はいはい、その愚かで脆弱な「人間」に、お前は消されるんだよ。
しかも、たった一撃で。
「こ、こんな奴が相手と、なぜ教えて下さらなかったのだぁ、ゾフィエル様あぁぁぁぁ…………」
ああもう、断末魔の悲鳴が長い。
たまにいるんだよね、こういう変にしつこいヤラレキャラ。
(考えたな)
そう。考えた。
新しい剣の特性を、どう私に合わせて生かすか。
でも、ぶっつけ本番だったからね。上手くいって良かったぁ。
(お前にしては上出来だ)
それは余計な発言!
船や人がブラックホールに飲み込まれる心配もあったから、上空まで誘い出すのも大変だったんだぞ。
そして、ケルビエルの巨躯全てを呑み込んだ時、ブラックホールも消えた。
ほら、宣言通り、この世界から抹消だ。
でさあ、この技だけど、何て名前にしよう?
「次元斬」なんてどうかなあ。
ちょっとカッコ良くない?
(それは違うのではないか? ブラックホールは超重力の異質な空間だが、別次元に存在する訳ではないからな。正確を期すなら暗黒洞の斬撃、そうだな、「暗黒斬」といったところだ)
うっ、暗黒斬。
なんだか悪役の必殺技みたいで、それは嫌……
話すふりを装いながら、私は僅かに上昇する。
この位置で戦えば、やまと號や僚船が巻き添えになる。
相手が気が付かないように、会話をしながら少しずつ、だんだんと速く高みに誘導し、味方の船はもちろん、できれば敵船にも私たちの戦いの被害が及ばないようにしたい。
だって、誘っていることに気付かれたら、逆に、私をおびき寄せるために「やまと號」や海賊艦隊の船が狙われる。
それに、味方の筈の天使にやられてしまうなんて、教会軍の兵士があまりにも哀れだ。
「おう、言ったがどうした?」
「だったら、『智』とはどういうものか、答えてみろ。目的のためには平気で仲間を手にかけるとか、それが位に『智』を冠する天使の所業か!」
「ふふん、ヒト族の勇者でありながら教会を裏切り、魔王などに成り果てた小娘が、一端の事をほざきおる」
「答えろ!」
「汝なぞに『智』の意味を説いても分る筈がないわ。魔族は勿論、ヒト族にもなぁ。主の御心は、お前たち皆の愚かな思考など遥かに超えて深く、高い。吾ら智天使は、その御心を位に冠し、尖兵として実行するのみよ」
深く、高いとか、ふん、どうせ身勝手な、思い上がった末の好き放題だろう!
「説きもせずに相手を愚か者と決めつけ、殲滅しようとするのか! 味方までも巻き添えにして」
「仲間とか味方とか考えた事もないわ!」
ほーら、やっぱりね。当ったりぃ。
「神への反逆者たる魔族を殲滅する、ヒト族はそのための単なる駒に過ぎん!」
ダメだこいつ。
自分たち以外は全て敵か、奴隷って訳か。
いいや、その命さえもこんな風に軽視されてるんだったら、奴隷以下だ。
魔族はもちろん、ここまでヒト族への共感も理解もなく、ひたすら尊大に、身勝手になれるとか、自分はいったい何様のつもりなんだろう。
(きっと、「ケルビエル様」とか思い上がっているのだろうよ)
あ,そういえば額に書かれた「K」の文字も、相手から見た方向じゃなくて、自分から見た「K」だ。それは心理学者によれば自己中な性格を表す「K」だぞお。
ここでケルビエルは弓を肩に戻し、大剣を手に取って一閃した。
こんな鈍重な斬撃なんか、躱すのに訳はないが、まだ高度が不足だ。
私は障壁を張って防いだ。
威力は分散されたが、それでも眼下の教会軍の船が数隻は衝撃波を浴び、船体は裂け、大きく傾く。
(あ奴の巨躯を包む2枚の羽は、どんな物理攻撃も通さんぞ。しかも魔法に対する耐性も強い。それを考えて戦うのだ)
そうなのか?
だとしたら、やはりあれを試すいい機会だ。
「多少はやるではないか。サリエルと少しはいい勝負をしたと聞くからな。この程度は耐えて貰わんとな。だが、次はどうかな?」
この野郎、下卑た余裕の笑みを浮かべやがって。
しかも、自分より上級、熾天使のサリエルを呼び捨てか。
お前の斬撃の威力なんて、サリエルのそれには及びもしないんだよ。
そしてまた斬撃。これも障壁を張って防ぐ。
そんな繰り返しが何度か続いた後、やっと、これで良しと思える高さに達した。
「さあて、そろそろ遊びは終わりだ。今度の一撃は本気でいくぞ。これにも耐えられるかな?」
ぷぷぷ。コイツ、すっかりいい気になって、自分の置かれてる立場が全然わかってないな。
所詮は身体だけ大きいヤラレキャラ。
せいぜい好意的に言っても中ボスだ。
さっきの会話で、もうすっかり人間(?)の底も見えちゃったぞぉ。
ケルビエルは言葉通り渾身の一撃を放つ。
私はそれを軽く避ける。
予想通り、凄まじい衝撃波に海は大きく割れる。
しかし、その辺りは敵味方の船団の遥か後方だ。
露わになった海底にどっと水が流れ込む。
海面は荒れ狂うが犠牲になる船はいない。
「小器用に逃げおって。しかし、次は殺すぞ!」
上等だ。殺せるものなら殺してもらおうじゃないか。
私は再度の渾身の一撃を避けながら、腕輪を剣の形に戻して構え、一気に魔力を送り込んだ。
ケルビエルの攻撃の衝撃で、また海が割れる。
お魚さんたち、ごめんなさい。
生態系が破壊されないといいけど。
(戦いの最中に生態系に配慮するなど、随分な余裕だな)
実はそうだったりする。
でも油断はしてませんって。
3度目の斬撃を躱し、一気に剣を振り下ろす。
鋭く何かを切り裂く手応えと共に
「ずっ!」
という、異空間が重く開く音と感覚が確かにあった。
よし!
「何だそれは? 切っ先も届かない離れた所で剣を振り、しかも魔力や衝撃波を放つでもなく。さては恐怖のあまり、気でも触れたか」
気づいてない!
(なにしろ鈍感な奴だからな。教えてやるといい)
私はにっこり笑い、言った。
「お前、もう終わってるよ」
そして、ケルビエルの胴体の一点を指差す。
「ん? どういう意味だ。な! ぐ、ぐわあ――――――ッ!!!」
どうだ! 空間魔法の応用で「空間を斬った」のだ。
物理攻撃の効かない羽に守られた巨躯といえど、これなら空間ごと「ざっくり」だ。
「こ、これは、少しは応えたぞ。しかし、これしきの傷など回復術で即座に……」
そうはいかない。
羽が両断され、無数の目を持った胴体には大きな傷が口を開けている。
そこには真っ黒な闇を湛えた空間が。
暗黒洞の魔法。
それを空間を切り裂く斬撃に更に乗せて放ったのだ。
膨大な魔力に耐え、魔法を乗せることもできる新しい剣なら、こういうことだってできる。
「馬鹿な! な、何だこれは――ッ!」
ケルビエルの身体は、自らに穿たれたブラックホールに、まず胴体と無数の目,そして腕も脚も4つの顔も、羽も、めきめきと音を立てながら歪み,折れて,吸い込まれていく。
たとえ天使だろうと、いかなる魔法も防ぐ羽に守られていようと、光までも呑み込んで逃がさないブラックホールの超重力に抗えはしない。
しかもそれが自分の身体に撃たれては。
「が,があぁぁ! この吾が愚かで脆弱な人間などにいぃぃぃ――ッ」
はいはい、その愚かで脆弱な「人間」に、お前は消されるんだよ。
しかも、たった一撃で。
「こ、こんな奴が相手と、なぜ教えて下さらなかったのだぁ、ゾフィエル様あぁぁぁぁ…………」
ああもう、断末魔の悲鳴が長い。
たまにいるんだよね、こういう変にしつこいヤラレキャラ。
(考えたな)
そう。考えた。
新しい剣の特性を、どう私に合わせて生かすか。
でも、ぶっつけ本番だったからね。上手くいって良かったぁ。
(お前にしては上出来だ)
それは余計な発言!
船や人がブラックホールに飲み込まれる心配もあったから、上空まで誘い出すのも大変だったんだぞ。
そして、ケルビエルの巨躯全てを呑み込んだ時、ブラックホールも消えた。
ほら、宣言通り、この世界から抹消だ。
でさあ、この技だけど、何て名前にしよう?
「次元斬」なんてどうかなあ。
ちょっとカッコ良くない?
(それは違うのではないか? ブラックホールは超重力の異質な空間だが、別次元に存在する訳ではないからな。正確を期すなら暗黒洞の斬撃、そうだな、「暗黒斬」といったところだ)
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