横田さんなんてキライ

アドウマドカ

文字の大きさ
1 / 8

第1話 前世で徳を積みまくった先輩が私に構ってきます。

しおりを挟む


 我が社の横田よこたたつるさんは、なにかにつけて神がかっている。

 まず、圧倒的に顔がいい。美形というより顔相がいいのだ。
 左右にゆがみがなく、瞳は澄み切っていて、エネルギッシュな表情が輝いている。前世でどんな徳を積んだら、あんな顔になるんだろう。

 正面に立ったら、拝んでしまいそうな神聖さだから、私はいつも斜め横から拝観している。
 さらに、超人的に仕事ができる。
 検索すると上位に出てくる不動産会社の、トップディベロッパーが横田さんだ。
 若いのに仕事がビシバシできて、おのれの理想とする建物を最もふさわしい場所に建てる。

 そんな横田さんは、上司、部下、お掃除のおばちゃん、社長に駐車場の誘導員、もちろんお客様と、すべての人に大人気である。会社に利益をもたらしているから、という理由はもちろんあるけれど、存在そのものがありがたいのだ。
 
 彼の御威光にひれ伏している私は江田島えだじまゆう子、二十三歳。息をひそめてこの大会社に生息する新入社員だ。
 制服のある事務職を希望して入社してみたら、私服可の自由な社風で、社内の女性は華やかな営業職に自ら移行して活躍している。
 田舎の学校のカースト地獄から、やっと解放されると思ったのに、ここでも私は最下層の地味っ子だ。ならば、より目立たないようにと、自分で適当に切った髪に銀縁眼鏡、お化粧も色付きリップでごまかして、静かに、空気のように仕事をしている。それが楽、それが平和だ。

 隣の人に関心を持たず、干渉もしない。
 そんな東京の暮らしに憧れて、就職し、上京した。
 入社5か月、お父さん、お母さん、ゆう子は都会の中で元気にお仕事しています。

 そんな秋の日。
 神が、気まぐれを起こした。


「江田島さん。今日のお昼またぎで鈴鳴寺すずなりでらの訪問、一緒に行ってくれない? この前江田島さんが差し入れしてくれた子猫庵の和菓子を持っていきたいんだ」

 朝のコーヒーを全員のデスクに配っている私に、くるりと椅子を回して横田さんが話しかけたのだ。ちなみに横田さんは、毎朝自分でコーヒーを買ってくる。
 スーツ姿の片手に、スターバックスのカップを持って入ってくる横田さんは、神々しい上に都会的でかっこいい。
 横田さんのコーヒーを淹れられないのは残念だけど、よく考えたらあの方のお飲み物を作るなんて、だめだ。
 手が震えてどんな液体を作ってしまうか、わからない。

 ――横田さんと外出?

 ひっ、と喉が鳴った。

 畏れ多い。横田御仁にご従事して、秋の鈴鳴寺。お昼またぎということはランチも……。想像するだけで脚が震え、滅相もないと土下座したくなる。

「私は内勤なので、営業の方と行ってください」

 つるんと口から出た言葉は、ぞーっとするほど冷たい。「すみません」ぐらい、つけたら良かった。でも、はっきりと感じ悪くしないと部内の独身女子からの目が怖い。女子のみなさん、お願い、見ないで。

「昨日の面会、アクシデントで遅刻しちゃって、お詫びを持っていきたいんだよね。部長、江田島さんを借りていいですか?」

 どういうわけか横田さんが食い下がった。私は行かないって言っているでしょう。やめて、それに私の名前を連呼しないで今夜、夢に見ちゃう。

「横田くんがそう言うなら、いいよ。江田島さん、今日は外勤ね。お菓子代出るから、あとで請求して」

 だめです、部長。横田さんに甘すぎ。私がお粗相したらどうするんですか?
 部内がざわつき、素敵にオシャレした営業レディたちは、いっせいに自分のスケジュールをチェックしている。
 私がきちんと断ったら、「私が行けますよ」とスマートに立候補するのだろう。
 そう、それがいい。
 ヒールのかかとを鳴らして営業に回る彼女たちの方が、横田さんの傍らにいるのにふさわしい。
 でも、誰が? 秋のお寺とランチの映像が浮かぶとうらやましい。
 呼吸が荒くなる。制服のベスト越しにも私の胸が上下しているのがわかる。
 とにかく、その誉れあるお役目をするのは私ではない。

「私、お弁当だし、お昼のお茶当番なんです。だから行けません」

 あちこちで失笑の声がする。なんだそんなことで、とはっきり言う人さえいる。
 ああ、そうだった。もうやだ、この感じ。
 教室が真っ暗になって、はやし立てられる私にピンライトが当たる。

 なにかにつけてすぐに私はからかわれる。
 笑わないで、私は高望みなんてしませんから。
 気がつくと横田さんが、立ち上がって私の隣に立っていた。下々のものに近寄り召されるな、神よ!

「俺もお弁当買うから、来てください。お願いします」

 真剣な声と、ご尊顔。なにこの破壊力、おかしいでしょ。これで本当に人間なの? 
 歯の奥がカチカチと音を立てて震えた。

 どうしよう、なんて言おう? 私、大ピンチ!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

公爵令嬢は結婚式当日に死んだ

白雲八鈴
恋愛
 今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。 「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」  突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。 婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。  そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。  その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……  生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。  婚約者とその番という女性に 『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』 そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。 *タグ注意 *不快であれば閉じてください。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

処理中です...