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第1話 前世で徳を積みまくった先輩が私に構ってきます。
しおりを挟む我が社の横田尊さんは、なにかにつけて神がかっている。
まず、圧倒的に顔がいい。美形というより顔相がいいのだ。
左右にゆがみがなく、瞳は澄み切っていて、エネルギッシュな表情が輝いている。前世でどんな徳を積んだら、あんな顔になるんだろう。
正面に立ったら、拝んでしまいそうな神聖さだから、私はいつも斜め横から拝観している。
さらに、超人的に仕事ができる。
検索すると上位に出てくる不動産会社の、トップディベロッパーが横田さんだ。
若いのに仕事がビシバシできて、おのれの理想とする建物を最もふさわしい場所に建てる。
そんな横田さんは、上司、部下、お掃除のおばちゃん、社長に駐車場の誘導員、もちろんお客様と、すべての人に大人気である。会社に利益をもたらしているから、という理由はもちろんあるけれど、存在そのものがありがたいのだ。
彼の御威光にひれ伏している私は江田島ゆう子、二十三歳。息をひそめてこの大会社に生息する新入社員だ。
制服のある事務職を希望して入社してみたら、私服可の自由な社風で、社内の女性は華やかな営業職に自ら移行して活躍している。
田舎の学校のカースト地獄から、やっと解放されると思ったのに、ここでも私は最下層の地味っ子だ。ならば、より目立たないようにと、自分で適当に切った髪に銀縁眼鏡、お化粧も色付きリップでごまかして、静かに、空気のように仕事をしている。それが楽、それが平和だ。
隣の人に関心を持たず、干渉もしない。
そんな東京の暮らしに憧れて、就職し、上京した。
入社5か月、お父さん、お母さん、ゆう子は都会の中で元気にお仕事しています。
そんな秋の日。
神が、気まぐれを起こした。
「江田島さん。今日のお昼またぎで鈴鳴寺の訪問、一緒に行ってくれない? この前江田島さんが差し入れしてくれた子猫庵の和菓子を持っていきたいんだ」
朝のコーヒーを全員のデスクに配っている私に、くるりと椅子を回して横田さんが話しかけたのだ。ちなみに横田さんは、毎朝自分でコーヒーを買ってくる。
スーツ姿の片手に、スターバックスのカップを持って入ってくる横田さんは、神々しい上に都会的でかっこいい。
横田さんのコーヒーを淹れられないのは残念だけど、よく考えたらあの方のお飲み物を作るなんて、だめだ。
手が震えてどんな液体を作ってしまうか、わからない。
――横田さんと外出?
ひっ、と喉が鳴った。
畏れ多い。横田御仁にご従事して、秋の鈴鳴寺。お昼またぎということはランチも……。想像するだけで脚が震え、滅相もないと土下座したくなる。
「私は内勤なので、営業の方と行ってください」
つるんと口から出た言葉は、ぞーっとするほど冷たい。「すみません」ぐらい、つけたら良かった。でも、はっきりと感じ悪くしないと部内の独身女子からの目が怖い。女子のみなさん、お願い、見ないで。
「昨日の面会、アクシデントで遅刻しちゃって、お詫びを持っていきたいんだよね。部長、江田島さんを借りていいですか?」
どういうわけか横田さんが食い下がった。私は行かないって言っているでしょう。やめて、それに私の名前を連呼しないで今夜、夢に見ちゃう。
「横田くんがそう言うなら、いいよ。江田島さん、今日は外勤ね。お菓子代出るから、あとで請求して」
だめです、部長。横田さんに甘すぎ。私がお粗相したらどうするんですか?
部内がざわつき、素敵にオシャレした営業レディたちは、いっせいに自分のスケジュールをチェックしている。
私がきちんと断ったら、「私が行けますよ」とスマートに立候補するのだろう。
そう、それがいい。
ヒールのかかとを鳴らして営業に回る彼女たちの方が、横田さんの傍らにいるのにふさわしい。
でも、誰が? 秋のお寺とランチの映像が浮かぶとうらやましい。
呼吸が荒くなる。制服のベスト越しにも私の胸が上下しているのがわかる。
とにかく、その誉れあるお役目をするのは私ではない。
「私、お弁当だし、お昼のお茶当番なんです。だから行けません」
あちこちで失笑の声がする。なんだそんなことで、とはっきり言う人さえいる。
ああ、そうだった。もうやだ、この感じ。
教室が真っ暗になって、はやし立てられる私にピンライトが当たる。
なにかにつけてすぐに私はからかわれる。
笑わないで、私は高望みなんてしませんから。
気がつくと横田さんが、立ち上がって私の隣に立っていた。下々のものに近寄り召されるな、神よ!
「俺もお弁当買うから、来てください。お願いします」
真剣な声と、ご尊顔。なにこの破壊力、おかしいでしょ。これで本当に人間なの?
歯の奥がカチカチと音を立てて震えた。
どうしよう、なんて言おう? 私、大ピンチ!
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