サキュバスお姉ちゃんとの転性妹成長記

黒月 明

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エメルナちゃんの成長記録12

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 歩けるようになったからといって、ドアノブに手が届く訳じゃない。 ジャンプすればいけそうだけど、すっ転んで後頭部を打ちたくはないので我慢している。
 そもそも家事の邪魔にはなりたくないし、勝手な行動は心配させるだけだ。
 洗濯物を抱えたお母さんに蹴られたくないからね。
 家庭内探索は、もう少し成長してからにしよう。

 ・ ・ ・

 翌日。
 さっそく村長さん宅に行き、フローラちゃんとエレオノールさんの前で実演してみせた。
 「すごいすごい♪」と我が子のように喜んでくれるエレオノールさんに、胸が熱く奮え、つい泣きそうになる。
 対照的にノーリアクションだったのがフローラちゃん。 この感動はまだ早かったようだ。 が、その程度なら想定済みなのでショックなど無い。

 その後は遊びがてら、私は歩く練習を繰り返した。
 二足歩行に興味を持たせるのは難しかったけど、こういうのは結局個人差だしね。 気長に待つしかない。


 その日の夕飯はそのまま両家族揃ってハルネに行き、お祝いしてもらえることになった。
 赤い妖精さんが言っていたフルーツパイが美味しかったのと、ミックスジュースが違う味だったけどこれはこれで美味しかったこと。 何よりその場のお客さんにまでお祝いされ、単品メニューが続々と追加されてお持ち帰りしたのが印象的だった。
 他人以上、家族未満って空気。 ご近所付き合いが良い証拠だ。
 この場合ご近所と言うより、村単位っぽいけど。 温情な人柄の住民が多いのだろう。
 将来、私もこの和に加わらなければならないのだ。 今からド緊張である。
 とりあえずお礼に、歩き回って愛想を振り撒いておいた。

 *

 休日。
 両親に連れられ、靴を買いに商店街へ。
 こっちにも靴専門店があった事に驚いたのが、もう1年2ヵ月も前なんだよなぁ~。 と、月日が経つ早さに感慨深くなってしまう。

 カランコロンカン♪
「いらっしゃいませ~!」

 窓付きの扉を押し開けるとベルのような音が鳴り、女性店員さんの声が飛んできた。
 おぉ~。
 明るいカラーで広々と感じる店内に、見渡す限りの靴・靴・靴・靴。
 男性用女性用で左右に配置が別れており、草履ぞうりや、ズボンと一体となった作業用の長靴まであった。 見た目ゴム製っぽい。 防水加工だよね。
 鼻を通る空気も違う。 新品の布・革……ちょっとオイルっぽい匂いは磨きに使うワックスだろうか。
 嫌いじゃない。
 見た感じ、こっちの世界の靴は、ありがたい事に前世とほとんど変わりないクオリティーだ。
 丈夫な生地で、靴底にはやっぱりゴムが使われている。
 なのでちょっと、期待値が高い。

 女児用の棚に迷わず到着。
 いっぱいある!
 棚1つ分だけど、物が小さいので数が多い。
 しかも、これでもかって程にカラフルでワクワクが止まらない。
 小さくて可愛いなぁ~!♪ 玩具おもちゃみたい!♪
 ちっちゃい物好きとしては興奮せざるをえない。

 まずは、これまたちっちゃ可愛い靴下をいくつか選ぶ。 
 それを履いてから、靴の試し履きが始まった。
 幼児用の靴の履き心地なんて記憶にないので善し悪しまでは分からないけれど、足が包まれ、ちょっと重たくなる感じが懐かしい。
 内部は上がモフッとした綿わたのような構造になっており、下にはちゃんと中敷きまで入っている。
 ちょっと大きいかなと思ってたけど、歩いてみた感じ、悪くはない。
 ただ、この体での靴は初体験なので、足裏が何か違和感。 気持ち高くなった感覚になる。
 いやちょっと違うかな……何て言うか、足は上げているのに足裏がずっと床に着いてる感じ? しかも下ろした時、体が想定しているより微妙に早く着地するし、床の質感とは違う感触が伝わるから更に脳が混乱する。
 誤処理していると脳が誤解しているのかも……あっ、これダメだ、考えたら酔いそう。
 靴で乗り物酔いとか笑えない。
 多分まだ魂(元18)と体(1歳児)がリンクしきれていないのだろうね。 靴を嫌がる猫に共感する日が来ようとは……。
 仕方ない、時間を掛けてらしていけば良いだけなんだし。
 次を履こう。


 このモフッ生地、取り外し可能だった。 どうせ成長してすぐにサイズが合わなくなるんだから……と思っていたけれど、これならしばらくは使えそう。
 結局、3つの内から赤と白の可愛らしい靴を1足だけ選び、靴下と一緒にレジへと向かった。
「いらっしゃいませ~♪」
 10代とおぼしき店員さんが元気良くお辞儀する。
 幼さの残る面持ちに、濃いめのこん三つ編みっだ。
 メガネを掛けたら図書委員オーラが強化されそう。
 服装は……たぶん私服。
 そんな店員さんと目が会う。 と、一瞬にしてパ~ァ!っと笑顔が華やいだ。

「この子がエメルナちゃんですか? おじいちゃんから聞いてたよりもずっと綺麗な髪してるじゃないですか~♪」
(あら分かっちゃった? この良さが♪)

 色を誉められるのは私というより、両親を評価されているようで気分が良い。
 なかなか見る目のあるじゃないか。 今後とも良いお付き合いをしていこう。
 お父さんから合計金額を受け取り、商品を紙袋に入れていく。 そのかん、店員さんは私の頭を見詰めながらブツブツと呟いていた。

「私とは正反対で良いなぁ~……」

 口元は笑顔なのに目がくもっている。
 …………あれ?
 なんか、勝手にトラウマスイッチで自爆した?
 お母さんがその様子に「フフッ♪」と微笑む。

「サッちゃんも充分綺麗じゃない。 私は好きよ、そのつややかで大人っぽい色」
「んぅ~、私もどっちかって言われたら嫌いじゃないんですけどね~……自分じゃなければ」

 耳に流していた前髪を指先でいじくりながら、その色を見て溜め息を吐く。

「とにかく黒に間違われるのがどうしても嫌で。 良く見ろや紺だっつうの!……って」
「ぁ~……」

 分かる。 これは黒と言われても納得しそうな濃さだ。 普通の紺色でも黒と間違いやすい人がいるってのにね。
 色は嫌いじゃないってことだし、小さい頃に相当イジられたのかも。 一度気にしだすとしつこいやつ。
 まぁ、訂正してもしても間違われると鬱陶うっとうしくもなるわな。 しかも自身の一部を間違われたりイジられたりするってのは、何だか自分や親まで馬鹿にされているようで気分が悪い。
 それは私だけかもしれないけど。

「あぁすみません! お買い上げありがとうございました~♪」

 思い出したかのようなビジネススマイルでまくし立てて商品を渡し、お辞儀までを流れるように済ませる。
 ついつい話し込んでいた。 顔見知りだからってお客を待たせっきりにするのはアウトだもんね。
 商品を受け取るお父さんは気にもしていない様子だったけど。

 漸く帰れる私達だったが、お母さんはその場から離れようとはしなかった。 なんせ、お客が私達以外に誰もいなかったからである。
 お会計も済ませたし、他人の目も無い。 つまりここからは、暇潰しの雑談タイムなのだった。
 という訳で、お母さんに「抱っこしてみる?」と誘われ、さっきからチラチラと熱い視線を私に向けていた店員さんがソワソワとした様子でカウンターから出てきた。

「もう1歳だから、赤ちゃんとは言えないくらい大きくなっちゃったけど」

 この1年間会えなかった事を謝るお母さん。 写真の無い世界だ、知人の赤ちゃんを見る機会を逃すのは、期待していたのならかなりの痛手だろう。
 抱っこの仕方だって変わっている。 基本横向きだった抱き方が、首がわったあたりから段々と縦向きも増えていき、ここ最近を思い返すと、縦向きの抱っここそが基本となっていた。
 私としては縦向きの方が酔わないのでありがたいが、赤ちゃんを抱っこしたかった人的にはコレじゃない感が半端無いだろうて。
 今更横は大きいから難しそうだし。

 そう、1歳となった私の体は、いつの間にか産まれた時の約3倍にまで育っていた。 自分でも最近になって気が付いた程だ。 ちょっとしたアハ体験である。
 しかもわずかにとは言え歩ける始末。 ここまで成長した幼児を赤ちゃんと呼ぶのはいささか無理があるのではなかろうか。
 一般的な成長速度や赤ちゃんの定義なんぞの詳しい所は姉妹揃って無知なので、何とも言えないが。

 話しやリアクションを観察する限り、店員さんはお母さんの赤ちゃん……つまりは産まれたての私に興味があったご様子。
 これは、挨拶が遅れて申し訳ない……と思ったけど、実は所無どころない事情があったそうだ。
 残念そうに肩を落とし、目を細めてなげく店員さん。

「仕方ないですよ~、ずっとレンテルラインで親戚の手伝いしてたんですも~ん。 おかげで少しは自信もついたけどさぁ~……」

 なんでも、親戚の勤める靴屋が新しく支店を出すとかで、遥々遠方の街にまで1年間も応援に行っていたらしい。 ここもその支店の1つで、「学んでこい」とまで言われると断りきれなかったんだとか。
 交通費とりょうは申請すると支給される好条件だったのと、他店の応援達と親睦しんぼくを深める絶好のチャンスとほのめかされ、両親の圧が大変ウザかったそうだ。
 ご苦労様な。
 そういうことなら、私で良ければ喜んで思う存分にでられよう。
 そんなこんなで、不安定な持ち方をする店員さんに試し履き用の椅子へと運ばれ、私は髪を中心に長い間遊ばれ続けたのだった。

 *

 大人しい私を店員さんに預け、両親が他の店に行ってしまって数分。

「良いなぁ……交換出来ないかなぁ……」

 ヒエッ。
 背後が怖くなってきた。
 頭を撫でたりクンカクンカされたり手櫛てぐしで髪をいたりしているうちに、一種の陶酔状態にのめり込んでいったらしく、たまに呟かれる狂気じみた言動でゾクッとさせられる。
 さっきまで明るく優しそうな人だったのに、今では髪の間を指が通る度に味見されているような気がして動けない。
 何この人、まだ若いってのにこじらせ過ぎてんでる系?
 いやむしろ、若いからこそ小さなコンプレックスでも思い詰めてるってだけなんだろうけど。
 つい言葉にしてるからって、実行したりは……さすがにねぇ?
 絶対に後ろを振り返ってはいけない気がする。

「切ったら欲しいな~。 カツラなら頑張れば私でも……」

 ッ!?
 鳥肌を禁じ得ない。

(人毛のカツラなんて前世でも珍しくはないだろうけどさぁ……本人を前にして言わないでよ!)

 行き過ぎた好意からは身の危険すらも覚えるのだと、身をもって学んだ瞬間だった。
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