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第8話 ダンジョン帰りに出会った少年

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「はい、これ。中のカブトムシは無事みたいだぞ」
「わぁ。あ、ありがとうお兄ちゃん!」

 虫かごを拾ってメガネの子に渡すと随分と喜んでくれた。カゴの蓋を開きカブトムシの状態を見て良かった~とも胸をなでおろしていた。

 生き物を大事にできるいい子なんだな。

「――そういえば君の名前、彼らは何か言っていたけど」
「う、うん。僕の本当の名前は今中いまなか 杉戸すぎとなんだけど、虫が好きって知られてからこんちゅうって呼ばれてるんだ」

 今中だからこんちゅうってことか。あだ名って奴なんだろうけど、あいつらは完全に馬鹿にする意味合いで使っていたな。

 子どもというのは時折残酷なものだなと思う。

「でも昆虫が好きなのは確かだから僕は気にしてないんだ。それよりこの子が無事で本当に良かった」
「そうか。昆虫を大事にする気持ちは大切だと思うぞ。きっとその子にも通じるさ」
「あ、ありがとうお兄さん。えっと」
「あぁ。俺は瀬和 飛斗というんだ宜しくな」
「う、うん。宜しくね!」
 
 話してみると素直でいい子だな。何でこんな子が馬鹿にされているのかわからない。

「ところであいつらのこと大丈夫か?」
「うん。学校では気の合う友達もいるし外で合うと嫌な事されることもあるけど、うん。大丈夫だよ」
「そうか」

 それならまぁ大丈夫か。どちらにしてもたまたま遭遇しただけの俺に出来ることは限られているしな。

「それじゃあその子も大切にしてやれよ」
「うん。大事に育てるよ!」

 杉戸の笑顔を確認した後、俺は帰路についた。流石に人目のあるところで魔法を使うわけにいかないからそこからは普通に山道を辿ってだけどな――





◇◆◇

「ちょっと強がっちゃったかな……」

 杉戸は自虐的な笑みを浮かべつつ独りごちた。さっき助けてくれた人に平気だとは言ったが、実際はクラスで杉戸を守ってくれるような友人は少ない。

 こんちゅうと呼んで馬鹿にしてきたのは大門だいもん 柔剛じゅうごと何時もくっついて歩いている出歯口でばぐち 威張いばりだった。

 柔剛は柔道をやっていて少年大会でも何度も優勝してる程に強かった。体格の良さも柔道を続けて鍛えていたからだ。

 一方で威張は背は杉戸よりも小さく強くはないが、柔剛に上手く取り入ってまるで自分が強いかのように威張り散らしていた。
 
 そんな二人に杉戸は目をつけられたのである。理由は小学校の図書室で昆虫に関する本や図鑑を良く読んでいたからだ。

 虫好きなんてキモいと言われ、苗字が今中だったこともあってこんちゅうを馬鹿にされるようになった。

 それでもちょっと馬鹿にされるぐらいなんでも無いと我慢していたのだが――色々とあり結果的に趣味で昆虫採取に来ていただけなのに見つかって追いかけ回され、しまいにはやっと見つけて採取したカブトムシごと地面に投げつけられるようなこととなった。

 飛斗という大人が割って入ってくれたからカブトムシも事なきを得たが、もし声を掛けてこなかったらどうなっていたか。

 考えるだけで憂鬱になる杉戸である。

「カブトムシもこの近辺じゃレアだもんね。本当何もなくてよかったよ」

 そう言いつつ杉戸は持ってきたバッグに入れておいたタブレット端末を取り出した。

 誕生日プレゼントにとお願いし買ってもらった大事な物だった。正直これがあの二人に見つからなくて良かったと思っている。

 端末で時間を確認した後、周辺の地図もチェックした。まだ帰るまで少しは時間がある。

 他にも何か面白い昆虫が見つかるかも――そんな事を考えていた。
 
 ポケットから瓶を取り出す。それは前に田舎に帰った時に祖母がくれた物だった。中にはハッカ油が入っている。
 
 虫除けの為に持ち歩いていた。もっとも目的は昆虫採取の為つけすぎてはいけない。

 ただ藪蚊なども多いため必要最低限の場所には塗っていた。目的の昆虫が逃げない程度にだ。

「何かいるかなぁ~?」

 改めて森の中に入っていく。暫く探し回っていると、キィ、という鳴き声が聞こえた。

「蝙蝠?」

 声のする方に目を向けると一匹の蝙蝠が梢にぶら下がっていた。このあたりで蝙蝠を見たという話は聞いたことがなかった。

 昆虫ではないが珍しいものを見たなとちょっとうれしく感じる杉戸であった。

 ただ違和感もあった。妙に大きな気がしたからだ。勿論イメージでしかないが日本の蝙蝠でここまで大きいのはいただろうか? と首を傾げる。

 大きいと言ってもあくまでイメージよりはといったところだが――杉戸はなんとなく珍しいかもとタブレット端末を動画撮影モードに切り替え撮ろうと考えた。

 その時だった――

「キキッ!」

 蝙蝠が突如杉戸に向かって飛んできた。しかも明らかに攻撃の意思を持ってである。

「わわっ!」

 思わず横に飛んだが肩口に熱を感じ苦悶の表情を浮かべたまま地面を転がった。

 肩を確認すると爪痕が残り肉が引き裂かれていた。

 それを認めた杉戸の顔がゾッと青ざめる――
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