7 / 90
第1章 球技とボール編
第5話 迂回出来ない理由
しおりを挟む
「え、えっと、それは、スライムですか?」
「うむ、スライムであり、私の友だちのボールだ」
「は、はぁ友だちなのですね」
どことなく変わったものを見るような目を向けてくる商人である。失礼な気もしないでもないが、スライムを友だちとして連れ歩くものは少ないので仕方ないことか、と奇異な視線を受け流した。
「ふむ、これだポカポカ薬。よし、先ずこれを飲むんだ」
キングは三人の冒険者に薬を飲ませていく。ポカポカ薬はアタタマリ草を煎じて作成した薬だ。体の芯から温め温度を上昇させ凍傷を治療する。
事実、薬を飲んだ三人の顔に赤味が増していき、震えも収まっていった。その姿を認め、更にボールから小さな袋を取り出す。
「これはカイロ草を加工した粉の入った袋だ。何度か擦り合わせれば熱を持つ。鎧や衣服の中に入れておけば更によく温まるだろう」
「あ、ありがとう、ありがとうございます……」
「助かりました」
「も、もう駄目かと思ったのに――」
三人の冒険者達は口々にキングにお礼を言った。命が助かったことが余程嬉しかったのだろう。もう辞めてしまった身だが、かつては同業者であった彼らの命を助けることが出来たのはキングとしても喜ばしいことだ。
キングは三人の様子を認めた後、今度はその場で焚き火を始めた。雪面を踏み鳴らしたり、湿った木材を燃やす必要があったり、雪山での焚き火には工夫がいる。
だがキングはそういった知識が豊富だった。テキパキとこなし、わりとあっさり火が焚かれた。商人も含めて焚き火を囲む。
「はぁ~何から何までありがとうございます」
「でも、雪の中で焚き火だなんて……」
「雪山で火を焚くなんて魔法でも難しいのにな」
口々にそう言う。彼らは魔法でも難しいと言ったが、それは寧ろ当然とも言えた。
魔法で起こす火を維持させるのは難しい。だから焚き火をするなら魔法でも火種として利用するぐらいだ。つまり雪山で焚き火するにはそこから先の知識が大事となる。
キングは自分の知識が役立ったことが嬉しかった。勤勉な冒険者だった。だから薬草などの知識も深い。だが、知識があってもレベルが下がったなら意味がない宝の持ち腐れと揶揄されたこともある。
しかし、今日ここで助かった彼らはその知識によってだ。己が培ってきた物が無駄ではなかったと知れただけでも感慨深い。
「キュ~」
「あぁ、そうだな。ボールのおかげで助かったのも大きい」
「……あの、ボールというのはそのスライムの名前ですか?」
「あぁそうなんだ。色々あって今は一緒に行動している。友だちなんだ」
「え? スライムが、友だちなんですか……」
三人は若干微妙な顔を見せたが、助けてもらった恩もあるのでそれ以上のことは言わなかった。
ただ、三人の中で唯一の女性である杖持ちの子は、暫く見ている内に気になったのか、そっと手を差し出した。
「キュ~♪」
「あ、これ、凄く気持ちいい、触り心地最高――」
どうやら彼女はボールを気に入ってくれたようだ。ボールもごきげんであり見ていると微笑ましくも思える。
「しかし、そのスライムは随分と変わってますな」
「うん? そうなのか?」
「はい。スライムが何かに変身したり、物を出し入れ出来るなんて聞いたことがありませんから」
「確かに……そもそも見た目も俺たちの知ってるスライムと違うな」
「もしかしたら希少種なのかもしれない」
「ふむ、もしそうであればかなりの高値が付く可能性もあるかもしれません」
「キュッ!?」
高値と聞いてボールがビクリと反応した。そして杖持ちの彼女の手を離れ、ポンポンっと弾みながらキングの腕の中に戻ってくる。
「キュ~……」
「うん? 何だ心配したのか? 安心しろ。私はお前を売ったりしないよ。友だちだからな」
「キュ、キュ~♪」
キングがよしよしとボールを撫でると嬉しそうに鳴きプルプルと震えた。
「もう! そんな可愛そうなことを言ったら駄目じゃない」
「あ、いや、申し訳ない。どうも商人というのは駄目ですな。ついそういったことを考えてしまう」
「はは、別に気にしておりませんよ」
「でも、本当にそのスライムのこと大事にしてるんだな」
「でも、見てると確かに愛嬌があるな。可愛がる気持ちもわかるぜ」
助けた冒険者たちが微笑ましそうにキングとボールを見た。その時だ、ガサゴソと雪にまみれた叢が揺れ、三匹の白毛に包まれた狼が姿を見せる。
「こ、こいつはスノーウルフ!」
「雪山で戦うには厄介なモンスターじゃねぇか」
「しかもこの状況で三匹もなんて……」
「あぁ! 最悪だ! 折角助かったと思ったのに!」
商人と三人の冒険者が絶望感を顕にした。スノーウルフは文字通り冬に活動するモンスターだ。そのため餌と判断した相手は決して逃さない。
「大丈夫だ、ここはまかせてくれ。ボール!」
「キュー!」
するとボールが地面を跳ね、かと思えば白黒模様の球体に姿を変えた。
「あ、本当に姿が変わった!」
杖持ちの彼女が叫んだ。直前の戦いでは彼らはボールの変化には気がついておらず話に聞いただけだったので改めて驚いたのだろう。
「「「ガルルルウゥ――」」」
前に出たキングへスノーウルフが唸り声を上げた。その牙には咬んだ相手を凍りつかせる効果がある。動きも素早く厄介とされているのだが――
「フンッ!」
「「「ギャン!」」」
「「「「友だちを蹴ったーーーー!?」」」」
キングがボール目掛けて蹴りを振り抜き、見ていた四人が一様に叫んだ。
直前まで友だちと称していたキングが、まさかその友を蹴るとは思わなかったのだろう。だが、逆に言えば友だからこそ信頼して蹴れるのだ。
その結果は見るまでもない。キングの
蹴弾によって三匹のスノーウルフは纏めて吹き飛ばされ、錐揉み回転しながら雪の積もった地面に落下。
そのあまりの威力によって雪はクッションの役目を全く果たさず、寧ろ固い氷の床の上に落ちたような衝撃を生み、三匹のスノーウルフの命の灯は雪山の中で消え失せた。
「うむ、丁度良かった。スノーウルフの肉は食べられるしな。いい栄養になるぞ」
そしてキングはテキパキとスノーウルフの解体を終わらせたが。
「それにしても驚いた……友だちだと聞いていたけど、け、蹴っちゃうんですね」
「うん? むしろ友だちだからこそ蹴れたわけだが」
「そ、そういうものなんだ……」
色々思うところもあったようだが、キングのおかげでまたもや助けられたわけであり特殊な関係なんだろうということで納得してくれた。
「あの、スノーウルフやスノーグリズリーの毛皮を買い取らせて頂いても宜しいでしょうか? 勿論助けて貰ったお礼もあるので、買取金額は勉強させて頂きます」
「勿論構わない。こちらとしてもその方が助かるしついでと言ってはなんだが、他にも買い取って貰うことは可能かな? 実は山ごもりを続けているうちに色々溜まってしまって」
「はい、拝見させて頂き私が扱えそうなものなら買い取らせて頂きますよ」
キングはボールにこれまで集めた素材などを出してもらった。その解体の丁重さに商人だけでなく他の三人にも随分と驚かれた。
「こんな綺麗に解体って出来るもんなんだな……」
「むしろあんたがいい加減すぎるのよ」
「ちょっとは俺らも見習わないとな……」
例えレベルが下がっても変わらないものがある。培った技術だ。キングの解体技術は冒険者ギルドが雇っている熟練した解体師ですら舌を巻くほどなのである。
「いやいや、助けてもらった上にこのような質の良い素材まで引き取らせて頂けるとは感謝の言葉もありません。どうぞ、これが買取分の金貨2枚と銀貨50枚です」
「こんなにも……却って申し訳なかったな」
キングの中では全部合わせて金貨1枚と銀貨30枚程度の見立てであったが、倍近い金額で買い取って貰えたことになる。
「いえいえ、毛皮などはこの時期貴重ですからね。これぐらい当然ですし先程も言いましたがお礼の意味もあるので」
「恩に着る。ところで一つ気になっていたのだが、貴方は何故わざわざこの雪山を? 冬の山越えは危険故、通常なら迂回ルートを選ぶかと思うのだが」
キングはこの辺りの地形についても当然把握している。ここボランチ山脈は険阻でありモンスターも多い。春から秋に掛けてもこの山越えルートを選ぶ商人など皆無に近く、ましてや今はさらに危険度が高まる冬山だ。迂回すれば谷間の道を抜けることが出来る。盗賊の心配も多少はあるが、山越えよりずっと危険が少ない。
「あぁ、なるほど。キング殿は暫くこの山にいたのでしたな。それなら知らなくても仕方ないかも知れません」
「いやここ暫くすっかり浮世離れな生活を続けていたので、何とも恥ずかしい限りで」
「いえいえ、それでその答えですが、実は迂回ルートが今は使えない状態なのです」
「ほう、迂回ルートが? 谷間の道があったと思いましたが、まさか、落石でもあったのかな?」
「いや、落石ならまだ良かったのかも知れないんだけどな」
話に加わってきたのは三人の冒険者の一人であり、それに倣うように他の二人も口々に道のふさがった原因について語りだす。
「谷間の道に厄介なモンスターが現れたんだよな」
「そうそう、ギルドも討伐依頼を出して冒険者を募ってるらしいのだけど、冬は動きたがらない冒険者も多くて、難儀しているみたいだし。暫くはあのルートは使えないかもね」
ふむ、とキングは顎をさすった。落石ではなくモンスターとは。しかしそういう問題は少なくはない。
ただ、谷間の道を塞ぐとなるとかなり大きなモンスターということになると思うのだが。
「そのモンスターというのは一体?」
「はい、そのモンスターは――」
商人の口からモンスターの正体が明かされる。その途端、キングの目が大きく見開かれた。
「それは本当なのか? そのモンスターが本当に!?」
「え? え、えぇ。確かにあまりこの辺りでは見られないモンスターなようですが、それだけに対処するのも難しい状況なようなのですが」
「こうしてはいられない!」
すると、キングは何かを思い立ったように踵を返し。
「え? もう行かれてしまうのですか?」
「うむ、急遽野暮用が出来てしまった。あぁそうだ。ここから先は――と、このルートで行けば比較的安全に進められる筈だ」
「何から何までありがとうございます」
「ちょっとさみしいけどボールちゃんも元気でね」
「キュ~♪」
「うむ、皆が無事町までたどり着けるのを祈っているぞ。それではこれにて!」
そしてキングは球と化したボールを蹴りながら走り去っていった。その速さにあんぐりする四人でもあったが。
「何かものすごい人だったね」
「あぁ、でもまたどこかで会えるといいな」
「キングさんも冒険者なのだろ? それなら冒険者を続けている限りきっと可能性はあるさ」
「はは、しかしあれだけの腕ならば、きっと物凄い冒険者なのかも知れませんねぇ」
走り去ったキングを見送った後、キングについて語る彼らであったが、実は彼が一度は冒険者を引退した身であることなど、誰一人知る由もなかった――
「うむ、スライムであり、私の友だちのボールだ」
「は、はぁ友だちなのですね」
どことなく変わったものを見るような目を向けてくる商人である。失礼な気もしないでもないが、スライムを友だちとして連れ歩くものは少ないので仕方ないことか、と奇異な視線を受け流した。
「ふむ、これだポカポカ薬。よし、先ずこれを飲むんだ」
キングは三人の冒険者に薬を飲ませていく。ポカポカ薬はアタタマリ草を煎じて作成した薬だ。体の芯から温め温度を上昇させ凍傷を治療する。
事実、薬を飲んだ三人の顔に赤味が増していき、震えも収まっていった。その姿を認め、更にボールから小さな袋を取り出す。
「これはカイロ草を加工した粉の入った袋だ。何度か擦り合わせれば熱を持つ。鎧や衣服の中に入れておけば更によく温まるだろう」
「あ、ありがとう、ありがとうございます……」
「助かりました」
「も、もう駄目かと思ったのに――」
三人の冒険者達は口々にキングにお礼を言った。命が助かったことが余程嬉しかったのだろう。もう辞めてしまった身だが、かつては同業者であった彼らの命を助けることが出来たのはキングとしても喜ばしいことだ。
キングは三人の様子を認めた後、今度はその場で焚き火を始めた。雪面を踏み鳴らしたり、湿った木材を燃やす必要があったり、雪山での焚き火には工夫がいる。
だがキングはそういった知識が豊富だった。テキパキとこなし、わりとあっさり火が焚かれた。商人も含めて焚き火を囲む。
「はぁ~何から何までありがとうございます」
「でも、雪の中で焚き火だなんて……」
「雪山で火を焚くなんて魔法でも難しいのにな」
口々にそう言う。彼らは魔法でも難しいと言ったが、それは寧ろ当然とも言えた。
魔法で起こす火を維持させるのは難しい。だから焚き火をするなら魔法でも火種として利用するぐらいだ。つまり雪山で焚き火するにはそこから先の知識が大事となる。
キングは自分の知識が役立ったことが嬉しかった。勤勉な冒険者だった。だから薬草などの知識も深い。だが、知識があってもレベルが下がったなら意味がない宝の持ち腐れと揶揄されたこともある。
しかし、今日ここで助かった彼らはその知識によってだ。己が培ってきた物が無駄ではなかったと知れただけでも感慨深い。
「キュ~」
「あぁ、そうだな。ボールのおかげで助かったのも大きい」
「……あの、ボールというのはそのスライムの名前ですか?」
「あぁそうなんだ。色々あって今は一緒に行動している。友だちなんだ」
「え? スライムが、友だちなんですか……」
三人は若干微妙な顔を見せたが、助けてもらった恩もあるのでそれ以上のことは言わなかった。
ただ、三人の中で唯一の女性である杖持ちの子は、暫く見ている内に気になったのか、そっと手を差し出した。
「キュ~♪」
「あ、これ、凄く気持ちいい、触り心地最高――」
どうやら彼女はボールを気に入ってくれたようだ。ボールもごきげんであり見ていると微笑ましくも思える。
「しかし、そのスライムは随分と変わってますな」
「うん? そうなのか?」
「はい。スライムが何かに変身したり、物を出し入れ出来るなんて聞いたことがありませんから」
「確かに……そもそも見た目も俺たちの知ってるスライムと違うな」
「もしかしたら希少種なのかもしれない」
「ふむ、もしそうであればかなりの高値が付く可能性もあるかもしれません」
「キュッ!?」
高値と聞いてボールがビクリと反応した。そして杖持ちの彼女の手を離れ、ポンポンっと弾みながらキングの腕の中に戻ってくる。
「キュ~……」
「うん? 何だ心配したのか? 安心しろ。私はお前を売ったりしないよ。友だちだからな」
「キュ、キュ~♪」
キングがよしよしとボールを撫でると嬉しそうに鳴きプルプルと震えた。
「もう! そんな可愛そうなことを言ったら駄目じゃない」
「あ、いや、申し訳ない。どうも商人というのは駄目ですな。ついそういったことを考えてしまう」
「はは、別に気にしておりませんよ」
「でも、本当にそのスライムのこと大事にしてるんだな」
「でも、見てると確かに愛嬌があるな。可愛がる気持ちもわかるぜ」
助けた冒険者たちが微笑ましそうにキングとボールを見た。その時だ、ガサゴソと雪にまみれた叢が揺れ、三匹の白毛に包まれた狼が姿を見せる。
「こ、こいつはスノーウルフ!」
「雪山で戦うには厄介なモンスターじゃねぇか」
「しかもこの状況で三匹もなんて……」
「あぁ! 最悪だ! 折角助かったと思ったのに!」
商人と三人の冒険者が絶望感を顕にした。スノーウルフは文字通り冬に活動するモンスターだ。そのため餌と判断した相手は決して逃さない。
「大丈夫だ、ここはまかせてくれ。ボール!」
「キュー!」
するとボールが地面を跳ね、かと思えば白黒模様の球体に姿を変えた。
「あ、本当に姿が変わった!」
杖持ちの彼女が叫んだ。直前の戦いでは彼らはボールの変化には気がついておらず話に聞いただけだったので改めて驚いたのだろう。
「「「ガルルルウゥ――」」」
前に出たキングへスノーウルフが唸り声を上げた。その牙には咬んだ相手を凍りつかせる効果がある。動きも素早く厄介とされているのだが――
「フンッ!」
「「「ギャン!」」」
「「「「友だちを蹴ったーーーー!?」」」」
キングがボール目掛けて蹴りを振り抜き、見ていた四人が一様に叫んだ。
直前まで友だちと称していたキングが、まさかその友を蹴るとは思わなかったのだろう。だが、逆に言えば友だからこそ信頼して蹴れるのだ。
その結果は見るまでもない。キングの
蹴弾によって三匹のスノーウルフは纏めて吹き飛ばされ、錐揉み回転しながら雪の積もった地面に落下。
そのあまりの威力によって雪はクッションの役目を全く果たさず、寧ろ固い氷の床の上に落ちたような衝撃を生み、三匹のスノーウルフの命の灯は雪山の中で消え失せた。
「うむ、丁度良かった。スノーウルフの肉は食べられるしな。いい栄養になるぞ」
そしてキングはテキパキとスノーウルフの解体を終わらせたが。
「それにしても驚いた……友だちだと聞いていたけど、け、蹴っちゃうんですね」
「うん? むしろ友だちだからこそ蹴れたわけだが」
「そ、そういうものなんだ……」
色々思うところもあったようだが、キングのおかげでまたもや助けられたわけであり特殊な関係なんだろうということで納得してくれた。
「あの、スノーウルフやスノーグリズリーの毛皮を買い取らせて頂いても宜しいでしょうか? 勿論助けて貰ったお礼もあるので、買取金額は勉強させて頂きます」
「勿論構わない。こちらとしてもその方が助かるしついでと言ってはなんだが、他にも買い取って貰うことは可能かな? 実は山ごもりを続けているうちに色々溜まってしまって」
「はい、拝見させて頂き私が扱えそうなものなら買い取らせて頂きますよ」
キングはボールにこれまで集めた素材などを出してもらった。その解体の丁重さに商人だけでなく他の三人にも随分と驚かれた。
「こんな綺麗に解体って出来るもんなんだな……」
「むしろあんたがいい加減すぎるのよ」
「ちょっとは俺らも見習わないとな……」
例えレベルが下がっても変わらないものがある。培った技術だ。キングの解体技術は冒険者ギルドが雇っている熟練した解体師ですら舌を巻くほどなのである。
「いやいや、助けてもらった上にこのような質の良い素材まで引き取らせて頂けるとは感謝の言葉もありません。どうぞ、これが買取分の金貨2枚と銀貨50枚です」
「こんなにも……却って申し訳なかったな」
キングの中では全部合わせて金貨1枚と銀貨30枚程度の見立てであったが、倍近い金額で買い取って貰えたことになる。
「いえいえ、毛皮などはこの時期貴重ですからね。これぐらい当然ですし先程も言いましたがお礼の意味もあるので」
「恩に着る。ところで一つ気になっていたのだが、貴方は何故わざわざこの雪山を? 冬の山越えは危険故、通常なら迂回ルートを選ぶかと思うのだが」
キングはこの辺りの地形についても当然把握している。ここボランチ山脈は険阻でありモンスターも多い。春から秋に掛けてもこの山越えルートを選ぶ商人など皆無に近く、ましてや今はさらに危険度が高まる冬山だ。迂回すれば谷間の道を抜けることが出来る。盗賊の心配も多少はあるが、山越えよりずっと危険が少ない。
「あぁ、なるほど。キング殿は暫くこの山にいたのでしたな。それなら知らなくても仕方ないかも知れません」
「いやここ暫くすっかり浮世離れな生活を続けていたので、何とも恥ずかしい限りで」
「いえいえ、それでその答えですが、実は迂回ルートが今は使えない状態なのです」
「ほう、迂回ルートが? 谷間の道があったと思いましたが、まさか、落石でもあったのかな?」
「いや、落石ならまだ良かったのかも知れないんだけどな」
話に加わってきたのは三人の冒険者の一人であり、それに倣うように他の二人も口々に道のふさがった原因について語りだす。
「谷間の道に厄介なモンスターが現れたんだよな」
「そうそう、ギルドも討伐依頼を出して冒険者を募ってるらしいのだけど、冬は動きたがらない冒険者も多くて、難儀しているみたいだし。暫くはあのルートは使えないかもね」
ふむ、とキングは顎をさすった。落石ではなくモンスターとは。しかしそういう問題は少なくはない。
ただ、谷間の道を塞ぐとなるとかなり大きなモンスターということになると思うのだが。
「そのモンスターというのは一体?」
「はい、そのモンスターは――」
商人の口からモンスターの正体が明かされる。その途端、キングの目が大きく見開かれた。
「それは本当なのか? そのモンスターが本当に!?」
「え? え、えぇ。確かにあまりこの辺りでは見られないモンスターなようですが、それだけに対処するのも難しい状況なようなのですが」
「こうしてはいられない!」
すると、キングは何かを思い立ったように踵を返し。
「え? もう行かれてしまうのですか?」
「うむ、急遽野暮用が出来てしまった。あぁそうだ。ここから先は――と、このルートで行けば比較的安全に進められる筈だ」
「何から何までありがとうございます」
「ちょっとさみしいけどボールちゃんも元気でね」
「キュ~♪」
「うむ、皆が無事町までたどり着けるのを祈っているぞ。それではこれにて!」
そしてキングは球と化したボールを蹴りながら走り去っていった。その速さにあんぐりする四人でもあったが。
「何かものすごい人だったね」
「あぁ、でもまたどこかで会えるといいな」
「キングさんも冒険者なのだろ? それなら冒険者を続けている限りきっと可能性はあるさ」
「はは、しかしあれだけの腕ならば、きっと物凄い冒険者なのかも知れませんねぇ」
走り去ったキングを見送った後、キングについて語る彼らであったが、実は彼が一度は冒険者を引退した身であることなど、誰一人知る由もなかった――
0
あなたにおすすめの小説
ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします
ランド犬
ファンタジー
異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは
――〈ホームセンター〉
壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。
気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。
拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?
僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜
犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。
この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。
これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。
そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。
【カクヨムにも投稿してます】
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
大国に囲まれた小国の「魔素無し第四王子」戦記(最強部隊を率いて新王国樹立へ)
たぬころまんじゅう
ファンタジー
小国の第四王子アルス。魔素による身体強化が当たり前の時代に、王族で唯一魔素が無い王子として生まれた彼は、蔑まれる毎日だった。
しかしある日、ひょんなことから無限に湧き出る魔素を身体に取り込んでしまった。その日を境に彼の人生は劇的に変わっていく。
士官学校に入り「戦略」「戦術」「武術」を学び、仲間を集めたアルスは隊を結成。アルス隊が功績を挙げ、軍の中で大きな存在になっていくと様々なことに巻き込まれていく。
領地経営、隣国との戦争、反乱、策略、ガーネット教や3大ギルドによる陰謀にちらつく大国の影。様々な経験を経て「最強部隊」と呼ばれたアルス隊は遂に新王国樹立へ。
異能バトル×神算鬼謀の戦略・戦術バトル!
圧倒的不利な状況を武と知略で切り抜ける!
☆史実に基づいた戦史、宗教史、過去から現代の政治や思想、経済を取り入れて書いた大河ドラマをお楽しみください☆
異世界転生日録〜生活魔法は無限大!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
☆感想の受付開始しました。
【あらすじ】
異世界に転生したルイは、5歳の高熱を境に、記憶を取り戻す。一度は言ってみたい「ステータス・オープン」で、ステータスを見れることに気付いた。スキル「生活魔法∞(無限大)」を発見。その意味を知るルイは、仄かに期待を抱いた。
それと同時に、今世の出自である農家の四男は、長男大事な両親の態度に、未来はないと確信。
家族に隠れて、ステータスにあったスキルの一つ「鑑定」を使い、村のお婆(薬師)相手に、金策を開始。
十歳の時に行われたスキル鑑定の結果を父に伝えたが、農家向きのスキルではなかったルイは「家の役には立たない」と判断され、早々に家を追い出される。
だが、追放ありがとう!とばかりに、生活魔法を知るべく、図書館がある街を目指すことにしたルイ。
最初に訪れた街・ゼントで、冒険者登録を済ませる。だがそのギルドの資料室で、前世の文字である漢字が、この世界の魔法文字だという事実を知ることになる。
この世界の魔法文字を試したルイは、魔法文字の奥深さに気づいてしまった。バレないように慎重に……と行動しているつもりのルイだが、そんな彼に奇妙な称号が増えて行く。
そして、冒険者ギルドのギルドマスターや、魔法具師のバレンと共に過ごすうちに、バレンのお師匠様の危機を知る。
そして彼に会いにいくことになったが、その目的地が、図書館がある魔法都市アルティメットだった。
旅の道中もさることながら、魔法都市についても、色々な人に巻き込まれる運命にあるルイだったが……それを知るのは、まだ先である。
☆見切り発車のため、後日変更・追記する場合があります。体調が不安定のため、かける時に書くスタイルです。不定期更新。
☆カクヨム様(吉野 ひな)でも先行投稿しております。
異世界では地味な俺が、なぜか神々に最愛されて無双してる件
fuwamofu
ファンタジー
平凡な高校生・桐生ユウは、女神の手違いで異世界に転生した。
チートもスキルも貰えず、冒険者登録すらままならない落ちこぼれ……のはずだった。
しかし周囲の異常な好感度、意味不明な強運、そして隠された神格スキルによって、ユウは「無自覚に全能」な存在へと覚醒していく。
気づけば女神も姫騎士も魔王娘も彼に夢中。誤解と崇拝が加速する中、ユウの“地味な日常”は世界を揺るがす伝説になっていく。
笑いあり、胸キュンあり、ざまぁありの最強(なのに本人だけ気づいてない)異世界ファンタジー開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる