侍と忍者の記憶を持ったまま転生した俺は、居合と忍法を組み合わせた全く新しいスキル『居合忍法』で無双し異世界で成り上がる！

第二章 サムジャともふもふ編

第57話 サムジャ、通り魔と戦う

「居合忍法・抜刀影分身！」

――キンッ！　キン！　キンッ！　キキキキキンッ！

　完全に捉えたと思った。だが相手の反応速度が予想以上に速かった。俺の抜刀影分身をこいつは両手で上手く捌いた。

　ハンドリッパー――腕がそのままナイフのような切れ味になるスキル。得物を手にしてなくても犯行が可能だったのはこのスキルがあったからだ。

「ハハァアアァアアア！」

　一旦距離を離そうと飛び退く。すると手刀を振り回し無数の斬撃が飛んできた。

「居合忍法・土返しの術！」
　
　地面が捲れ上がり盾として斬撃から身を守った。

　だけど耐えきれず貫通した刃が幾つか命中し纏っていた土も崩れていった。

　土纏で装甲を強化しておいてよかった。さて次はこっちの番だな。

「居合忍法・抜刀鎌鼬燕返し！」

　燕返しの分も含めて二発の風の刃がジャックに向けて飛んでいった。

　だけどそれはあっさりと避けられた。動きが速い。レベルも俺より高く、速度面では俺より遥かに上だ。

　これまで戦った人間の中では間違いなく別格だろう。闇の天職持ちはタガが外れたような力に目覚めるものも少なくない。
　
　それに本来人が必ず持ち合わせる自制という物がなくなる。それが結果的に厄介さに繋がっている。

「どうした？　こんなものか！」

　ジャックが俺に向けて飛び込んできた。だが、それは好都合だ。

「おっと！」

　柄に手を添え身構え待つ。だが、ジャックはそこで動きを止めた。俺の間合いに入ってこなかった。

「何かあるな。危険には敏感なんだよ！」

　ちっ、フライリッパーに切り替えたか。今俺は円殺陣を行使していた。間合いに入ってくれば最速の攻撃が入ったはずだった。

　だが、間合外の攻撃、しかも斬撃では居合で跳ね除ける事もできない。

　諦めて横に飛び退くと、その位置に置くように放たれた斬撃が俺に命中した。

「当たったぜ。お前脆そうだしこれで終わりか？」

　今のは変わり身を使う隙もなかった。俺の身が強制的に後ずさる。紙装甲の俺にとって一撃でも貰うのは致命傷になり得る、が、まだ大丈夫だ！

「居合忍法・抜刀風牙！」
「ガハッ！」

　狼の顔を模したような風がジャックに命中した。ジャックが大きく後方に飛ばされていく。

　ふぅ、でもよかった。新しく手に入れたこの衣装のおかげだ。

・夜陰の黒衣　ランクD+
夜に着ると気配が希薄になる。夜の間は防御能力も上がる。

　これがダンジョンで手に入れた装備の性能だった。夜間限定ではあるが、防御力も上がるのが大きかった。

　おかげで今の攻撃は耐えられた。とはいえ、こいつの攻撃を受けるのは危険だ。


・斬殺
切った時の威力が上がる。また低確率だが即死効果がつく。

　ジャックの持っているスキルの一つがこれだった。確率が低いとは言え即死を受けたら洒落にならない。

「本当にムカつく野郎だ」

　ジャックが立ち上がる。中々しぶといな――

「こうなったら仕方ないか」

　するとジャックがローブの中から赤い液体の入った瓶を取り出した。かと思えば放り投げたそれを手刀で叩き割り液体を全身で浴びた。

「お前、まさかそれ、血液か？」
「ご名答」

　奴がニヤリと口角を吊り上げる。

・ブラッドリッパー
血を浴びれば浴びる程、より速く、そしてより切れ味が鋭くなる。

　これが残ったあいつのスキルの効果だった。

　それにしてもこの効果を引き出すために、恐らくだが被害者の血液だろう。そんなものを持ち歩くとはクレイジーな奴だ。

「いくぞぉおぉお！」

　ジャックの速度は確かに上がっている。素早い動きで俺に迫る。やれやれ、これはけっこう大変だな。なら――

「居合忍法・影分身！」
「何？　何だそれは！」
「分身だよ」

　散開し、俺本体を合わせた四人でジャックに攻め立てていった。

「チッ、卑怯だぞ！」
「戦いに卑怯も糞もあるか」

　妙な因縁をつけてきたぞ。大体相手は背後から狙うような通り魔だ。そんな奴に卑怯者呼ばわりされるいわれはない。

「「「「居合忍法・抜刀氷結弾！」」」」

　そして同時に忍法を発動。氷弾がジャックに向けて飛んでいく。

「舐めるな！」

　二発は手刀で叩き壊される。だが二発は右足と左腕に命中する。

「くそ、だがこの程度じゃ俺は倒せない！」
「いや、これは直接お前を倒すのが目的じゃない」
「何？　な、何だこれは！」
　
　ジャックが声を荒くさせた。右腕と左腕を確認し戸惑っているな。

　忍法・氷結弾は氷の当たった箇所を凍てつかせる。これで動きは封じた。

「くそ、この俺がお前なんかに！」
「違うな。お前を倒すのは俺じゃない」
「は？　何だと？」

　チャクラが無駄なので分身を消す。そんな俺を見て、ジャックが怪訝な顔を見せた。

　意味がわからないといった様子だが。

「いいぞパピィ！」
「ガルルルウウゥウウ！」

　俺が声を掛けると影の中からパピィが飛び出し、そしてジャックの首筋に噛み付いた。

「な、犬だ、と？　ば、馬鹿な、俺が、こんな子犬にぃい！」
「グルルゥウゥゥウウウ！」

　そして首筋に噛み付いたままパピィが飛び上がり、そして地面に向けて落下し頭から叩きつけた。

　パピィの天地落としだ。

「くそ、こんなことで――」

　だけど、ジャックにはまだ意識がある。あれを食らってもまだそんな余裕があったか。
　
　だが、パピィの攻撃は終わらない。なんとパピィはそのまま旋風爪牙を行使。噛み付いたまま回転を加えることで鮮血が迸る。

「ぎ、ギャアアアアアァアアアァアァアァアアアァア！」

　ジャックの悲鳴がこだました。あぁ、あれは相当な苦しみだな。そしてしばらくしてジャックの腕が落ちそのまま事切れた。

　やれやれ、ただの子犬だと思ったのがお前の敗因だったな。パピィは立派な忍犬なのだから――