標識しか召喚出来ない無能と蔑まれ召喚師の里から始末されかけ隣国に逃げ延びましたが、どうやら予想以上に標識の力は凄まじかったようですよ

空地大乃

文字の大きさ
2 / 47
第一章 追放された召喚師編

第1話 目覚めた記憶

しおりを挟む
 苦しい――崖の下に落下し川の濁流に呑まれた。泳げないわけではないが、あまりに川の流れが急すぎた。体が思うように動かず息も続かない。

 やっぱり無理だったのか――結局ほんの少し延命したに過ぎず、僕はこのまま溺れ死ぬだけなのだろうか。
 
 意識が朦朧としていく。このまま死ぬ、そう半ばあきらめかけた時、脳裏に浮かび上がる様々な景色。そして何かの記憶。

 そこで理解した。どうやら今の僕にはかつてはどこか別の世界で生きていた人間の魂が混じっているようだ。

 魂の融合というべきか。そこまで詳細なことはわからなかったが、魔法ではなく科学というのが発展した世界。そこで魂の持ち主はコーコーセイという職業だったらしく、そして標識マニアだった。

 だけど川で溺れて若くして――その時に死んだ魂が世界を超え生まれたばかりの僕の魂と融合したようだ。

 そして今僕が川で溺れかけていることがキッカケとなりかつてのもう一つの魂の記憶が蘇ったようだ。もっとも僕自身に変わりはない。ただ過去の知識が一部記憶に入りこんだ、そんなところだろう。

 そしてこの記憶のお陰で理解した。標識というものが何なのか。だからこそわかる。今の僕ならきっとこの魔法が使えると。

 頭の中に何かカタログのようなものが浮かんできた。頭の中で捲ると今使える標識が確認できる。

――標識召喚・通行止め!

 そう念じると魔法陣が浮かび標識が一本現れた。それを手で持つと同時に川底に標識が設置され川が塞き止められた。

 流れていた水が遮断され残った水は僕を置き去りにして流されていく。

「ゲホッ! ゲホゲホッ!」

 すっかり水のなくなった川から這い上がり、思いっきり咳き込んだ。しばらくして川の流れが戻る音が耳に届く。すでに標識は消えていた。

「はぁ、はぁ。そうか、これが僕の標識召喚の力なんだ……」

 すでに標識の知識は頭の中にあった。今召喚士た標識は通行止めの標識。文字通り標識のある場所から先へ進むのを禁止する。

 ただ僕の記憶にあるのは人や車といった乗り物を制限する標識。しかしどうやら標識召喚で出現する標識なら川の水でさせ通行止め出来る効果があるようだ。

 ただ、標識は出してる間、魔力を消費する。召喚士の一族は生まれた時から魔力は高めで、僕に関して言えば召喚士の里でも類を見ないぐらい魔力が高いと言われていた。

 だからちょっとやそっとじゃ魔力が枯渇することはないだろうけど、無尽蔵に使っていいものでもないだろう。

 とは言え、この場に関して言えばこの標識召喚に救われた。別世界の魂に残された知識に感謝したい。
 
「さて……これからどうしようか――」

 流石にもう村には戻れない。あいつは僕を殺そうとした。村に戻っても何されるかわかったものじゃない。

 ――勿論恨みはある。こっちは殺されかけたんだ。だけど村には多くの召喚魔法の使い手がいる。
 戦ったとしても勝ち目はない。

 ただ、この標識召喚に関しては使いこなせば相当強力な魔法だと思う。この辺りは検証が必要だ。

 ――あいつら散々僕を馬鹿にしたけど、だったら逆に僕が召喚師として大成したらどんな顔をするだろうか?

 特に僕を殺そうとしたアイツは――そう考えると居ても立っても居られなくなった。

 とにかく一旦はここから離れよう。正直言えばここプロスクリ王国に留まるのも危険な気がした。

 召喚師は国ではかなり重宝されている存在だ。規模として見れば村だが権限は強い。

 もし僕が生きていると知られたら国の騎士や魔法師も動かしかねない。大げさかもしれないけど奴らはメンツを重んじる。

 ――今思えば僕はあの村で暮らす連中の考え方が嫌いだった。差別的で召喚師以外を軽視した考え方。自分たちこそが最強だと信じて疑っていないような傲慢な連中の集まりだ。

 これは丁度いい機会かもしれない。このまま森を抜けて西に進めば隣国のカシオン共和国へ行ける。

 カシオンは周囲の国に対して中立を宣言してる国だ。同時に人種差別などがなく平等と平和を謳っている国でもある。故に間口も広い。
 
 今の僕が渡るには丁度いい国だ。それに召喚師は他国ではほとんどいないと聞いたことがある。

 それなら僕にも活躍の場があるかもしれない。

 唯一の懸念はこの森そのものが危険に満ちているということだが――そこは何とかこの標識召喚で乗り越えていくとするか……。

 とにかく移動を開始した。緑の深い森だ。地理感の無い者ならあっという間に迷いかねない。いやそれ以前にこの森に巣食う凶暴な獣にやられてもおかしくないか。

 召喚師はある程度成長したらここで魔法の訓練を行う。召喚魔法の練度を高めるためだ。

 そう考えるとボヤボヤしていると見つかりそうなものだが、訓練時期はある程度決まっている。あと二、三日は問題ない。

 逆に言えばその間に出来るだけここから離れる必要がある。しかし普通に歩いていては厳しいか――
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

追放された荷物持ち、【分解】と【再構築】で万物創造師になる~今更戻ってこいと言われてももう遅い~

黒崎隼人
ファンタジー
勇者パーティーから「足手まとい」と捨てられた荷物持ちのベルク。しかし、彼が持つ外れスキル【分解】と【再構築】は、万物を意のままに創り変える「神の御業」だった! 覚醒した彼は、虐げられていた聖女ルナを救い、辺境で悠々自適なスローライフを開始する。壊れた伝説の剣を直し、ゴミから最強装備を量産し、やがて彼は世界を救う英雄へ。 一方、彼を捨てた勇者たちは没落の一途を辿り……。 最強の職人が送る、痛快な大逆転&ざまぁファンタジー!

うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。

かの
ファンタジー
 孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。  ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る

夏見ナイ
ファンタジー
貴族の三男に転生したカイトは、【鑑定】スキルしか持てず家からも勇者パーティーからも無能扱いされ、ついには追放されてしまう。全てを失い辺境に流れ着いた彼だが、そこで自身のスキルが万物の情報を読み解く最強スキル【万物解析】だと覚醒する! 隠された才能を見抜いて助けた美少女エルフや獣人と共に、カイトは辺境の村を豊かにし、古代遺跡の謎を解き明かし、強力な魔物を従え、着実に力をつけていく。一方、カイトを切り捨てた元パーティーと王国は凋落の一途を辿り、彼の築いた豊かさに気づくが……もう遅い! 不遇から成り上がる、痛快な逆転劇と辺境スローライフ(?)が今、始まる!

処理中です...