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1 イタリアに似た異世界。貴族令嬢に転生
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ここは16世紀のイタリアに似た、魔法が存在するファンタジーな異世界。
16世紀は『中世のつぎの時代』と呼ばれるルネサンス期であり、この時代のイタリアには国王を持たない都市国家が多かった。
ヨーロッパ南部、イタリアの都市フィレンツェもまた『国王のいない都市』のひとつであり、実質的にはメディチ家がその権力を握っていた。
1530~1550年ごろ。
16世紀のフィレンツェは、ヨーロッパ最大級の銀行都市。
赤茶色の瓦屋根と石造りの建物が密集し、人口はおよそ六万から七万。
当時としては、驚くほどの大都市だった。
この世界に転生した私は、イザベラ・ロレンツィとして17年間を生きてきた。
フィレンツェでも指折りの、毛織物商と金細工師の同業組合に出資する豪商・ロレンツィ家の娘だ。
転生前の私は、大学の理学部に通う理系女子だった。
なのに、どうして16世紀イタリアに似た世界に転生してしまったのだろう。
死んだときの記憶は、今でもはっきり残っている。
冬の夕方、大学の実験棟の廊下は人影がまばらで、ワックスの匂いと薬品の残り香が混じっていた。
頭の中では、さっきまで考えていた数式がまだ回っている状態だ。
「もう一度データを取り直さないと」
そんなことを考えながら、私は階段に足をかけた。
その瞬間。
靴底が、ありえないほど軽く滑った。
踏み外した、そう理解するより先に身体が宙に浮く感覚がくる。
重力加速度という言葉が、なぜか頭に浮かんだのを覚えている。
次の瞬間、世界が反転した。
衝撃は、音より先に痛みとして来た。
骨がぶつかる感触。
そして、ふっと――
スイッチを切られたみたいに、すべてが途切れた。
次に目を覚ましたとき、私は16世紀のイタリアに似た異世界で貴族の娘として生まれていたわけだ。
そうして、現在は17歳になっている。
さて、今の問題は、目の前にいるこの偉そうな男。
「――イザベラ・ロレンツィ。お前との婚約を破棄する!」
『公爵宮』の大広間に、鋭い声が響き渡る。
公爵宮――パラッツォ・ヴェッキオは、メディチ家がフィレンツェを支配していた今の時代に、公爵の宮殿・政庁として使われている建物だ。
現代でも、フィレンツェ市庁舎として現役で使われている。
高い天井から吊るされた燭台の光が、冷たい大理石の床を照らし、床の上にドレス姿でひざまずく私の影を、細く長く伸ばしていた。
私たちのまわりには、貴族たちがいる。
側近、高位官僚、軍事・財政をになう貴族たち。
パーティーをひらいていたわけではなく、この公爵宮にはいつも貴族たちの姿があった。
政治の中枢が「公爵宮」だったから、16世紀のフィレンツェでは、貴族たちは公爵宮を拠点に動いていたのだ。
通りかかった紳士たちは息をのみ、絹の扇を持つ貴婦人たちは、口元を隠しながらも 好奇のまなざしをこちらへ向けていた。
ただ一人、外套を着た赤毛の男だけが、私ではなく公子をにらんでいた。
ちなみに、さっき私に婚約破棄を言ってきた男は公爵の息子だ。
アレッシオ・デ・メディチ。
将来の支配者であるため、『公子』と呼ばれている。
たぶん、この世界だからこそ存在する“架空のメディチ家の後継者”なのだろう。
前世の歴史書では、その名を見たことがない。
アレッシオは、私の婚約者でもある。
彼の衣装は、典型的な16世紀イタリア貴族の正装。
身体に沿った上衣、密着した脚衣、黒いマントに柔らかな革靴。
栗色の髪に、燭台の光を反射する黄金色の瞳。
彼は昼下がりの公爵宮にいきなり私を呼び出して、役人や廷臣、伝令、仕立屋の使いなどが行き交う大広間で、いきなり婚約破棄をつきつけてきたのだ。
まるで、私に恥をかかせるのが目的かのように。
16世紀は『中世のつぎの時代』と呼ばれるルネサンス期であり、この時代のイタリアには国王を持たない都市国家が多かった。
ヨーロッパ南部、イタリアの都市フィレンツェもまた『国王のいない都市』のひとつであり、実質的にはメディチ家がその権力を握っていた。
1530~1550年ごろ。
16世紀のフィレンツェは、ヨーロッパ最大級の銀行都市。
赤茶色の瓦屋根と石造りの建物が密集し、人口はおよそ六万から七万。
当時としては、驚くほどの大都市だった。
この世界に転生した私は、イザベラ・ロレンツィとして17年間を生きてきた。
フィレンツェでも指折りの、毛織物商と金細工師の同業組合に出資する豪商・ロレンツィ家の娘だ。
転生前の私は、大学の理学部に通う理系女子だった。
なのに、どうして16世紀イタリアに似た世界に転生してしまったのだろう。
死んだときの記憶は、今でもはっきり残っている。
冬の夕方、大学の実験棟の廊下は人影がまばらで、ワックスの匂いと薬品の残り香が混じっていた。
頭の中では、さっきまで考えていた数式がまだ回っている状態だ。
「もう一度データを取り直さないと」
そんなことを考えながら、私は階段に足をかけた。
その瞬間。
靴底が、ありえないほど軽く滑った。
踏み外した、そう理解するより先に身体が宙に浮く感覚がくる。
重力加速度という言葉が、なぜか頭に浮かんだのを覚えている。
次の瞬間、世界が反転した。
衝撃は、音より先に痛みとして来た。
骨がぶつかる感触。
そして、ふっと――
スイッチを切られたみたいに、すべてが途切れた。
次に目を覚ましたとき、私は16世紀のイタリアに似た異世界で貴族の娘として生まれていたわけだ。
そうして、現在は17歳になっている。
さて、今の問題は、目の前にいるこの偉そうな男。
「――イザベラ・ロレンツィ。お前との婚約を破棄する!」
『公爵宮』の大広間に、鋭い声が響き渡る。
公爵宮――パラッツォ・ヴェッキオは、メディチ家がフィレンツェを支配していた今の時代に、公爵の宮殿・政庁として使われている建物だ。
現代でも、フィレンツェ市庁舎として現役で使われている。
高い天井から吊るされた燭台の光が、冷たい大理石の床を照らし、床の上にドレス姿でひざまずく私の影を、細く長く伸ばしていた。
私たちのまわりには、貴族たちがいる。
側近、高位官僚、軍事・財政をになう貴族たち。
パーティーをひらいていたわけではなく、この公爵宮にはいつも貴族たちの姿があった。
政治の中枢が「公爵宮」だったから、16世紀のフィレンツェでは、貴族たちは公爵宮を拠点に動いていたのだ。
通りかかった紳士たちは息をのみ、絹の扇を持つ貴婦人たちは、口元を隠しながらも 好奇のまなざしをこちらへ向けていた。
ただ一人、外套を着た赤毛の男だけが、私ではなく公子をにらんでいた。
ちなみに、さっき私に婚約破棄を言ってきた男は公爵の息子だ。
アレッシオ・デ・メディチ。
将来の支配者であるため、『公子』と呼ばれている。
たぶん、この世界だからこそ存在する“架空のメディチ家の後継者”なのだろう。
前世の歴史書では、その名を見たことがない。
アレッシオは、私の婚約者でもある。
彼の衣装は、典型的な16世紀イタリア貴族の正装。
身体に沿った上衣、密着した脚衣、黒いマントに柔らかな革靴。
栗色の髪に、燭台の光を反射する黄金色の瞳。
彼は昼下がりの公爵宮にいきなり私を呼び出して、役人や廷臣、伝令、仕立屋の使いなどが行き交う大広間で、いきなり婚約破棄をつきつけてきたのだ。
まるで、私に恥をかかせるのが目的かのように。
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